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第77話 グリフォンとゴーレム

グランツはグリフォンへ跨る。


次の瞬間――


巨獣は力強く翼を羽ばたかせ、大空へ舞い上がった。


風が全身を叩いた。

次の瞬間、視界が一気に開ける。


大地が、戦場が、世界そのものが眼下へ広がっていた。


「……これは」


戦場を、空から俯瞰する。


地上では決して見ることのできなかった景色。


数万の軍勢。

うねる戦列。

ぶつかり合う鋼。

空を埋める飛行兵。


今まで経験した戦争など、遊びだったと思えるほどの規模だった。


「これでは、どこの国も三強国には勝てないわけだ」


空を制するということ。


それは単なる移動手段ではない。


奇襲。追撃。遊撃。索敵。


地上の全てを、一方的に蹂躙できるということだ。


中央。


聖剣。


空から見てもなお眩く輝き、戦場全体の視線を引き寄せている。


グランツは思わず笑った。


「あの状態で敵から逃げ切ったのか。我が主君は」


あれはもはや目印だ。


“ここに大将がいる”と叫んでいるも同然だった。


敵は武勲を求めて集まり、

味方は英雄の光に惹かれて集まる。


広大な戦場ですら、

中央へ吸い寄せられていた。


その時だった。


グランツの視界に、左右から進軍する巨大な影が映る。


「……あれが秘策か」


ゴーレム。


まるで巨大な岩山が歩いているようだった。


見上げるほどの巨体。


重い足音が、大地を震わせる。


だが。


敵空軍は、その間にも接近してきていた。


グランコンドル隊。


数はこちらが圧倒的に不利。


ヘルト軍は五騎。


対して覇国軍は百近い。


練度も、連携も、経験も相手が上。


だが――


「我々の任務を勘違いするな」


グランツは周囲へ鋭く告げた。


「勝つことではない。十分に引きつけろ」


唯一勝っている点。


それは、グリフォン自体の性能だった。


巨体。


四肢による空中機動。


圧倒的な膂力。


そして速度。


単純な性能だけなら、グランコンドルを上回る。


「直接戦闘は避けろ。包囲される前に下がれ」


「単独行動は禁止だ。必ず固まって動け」


直後。


ヘルト軍初の空中戦が始まった。


だが、それは地上戦のような激突ではない。


撃墜戦へ持ち込みたい覇国軍。


迎撃を避け、時間を稼ぎたいヘルト軍。


空で繰り広げられるのは、激しい機動戦だった。



  ◆ ◆ ◆



後方。


レイジは空を見上げ、戦況を確認する。


「……押されているな」


だが、表情は変わらない。


「空は負けなければいい」


視線を地上へ戻す。


「戦場を決めるのは、地上だ」


中央。


聖剣が輝く。


そして左右では――


巨大なゴーレムが、ついに前線へ到達していた。



  ◆ ◆ ◆



覇国軍本陣。


「…………」


リカルドは無言で部下を見つめていた。


視線を向けられた兵は、震えながら膝をつく。


「やつら……ヘルトが直前まで秘密裏に隠していたようです」


「なるほど」


リカルドは静かに頷いた。


「決戦を挑む以上、それくらいの隠し玉はあって当然か」


グリフォンについては事前情報があった。


だが。


「想像以上に、一騎ごとの性能が高いな」


目を細める。


「数が増えれば脅威になる」


その分析を聞きながら、フロガは部下へ目配せした。


兵は即座に下がる。


それを確認し、フロガが口を開く。


「リカルド様。巨大石像の対処へ向かいます」


「そうか。なら左へ行け」


即決。


フロガは無言で頷き、その場を去った。


「右は……」


リカルドは思考する。


脳裏に浮かぶのは、先ほどの男。


レオン・ブレイド。


「あの男は気になる。だが……」


重装機動歩兵相手では限界がある。


そう判断する。


「ルブラへ伝令。前線を離れ、巨大石像へ対応しろ」


指示を飛ばしたあと、リカルドは静かに息を吐いた。


「認識を改めねばならんな」


万全――その認識自体が誤りだった。


「私は、心のどこかで相手を侮っていたようだ」



  ◆ ◆ ◆



左翼戦線。


レオンとルブラが激しい剣戟を繰り広げていた。


周囲から見れば互角。


一進一退。


鋼が激しく火花を散らす。


「ルブラ様!」


伝令の声。


ルブラは一瞬だけ視線を動かした。


そして見た。


巨大石像。


動くゴーレム。


「……なるほど」


その瞬間。


「よそ見かい?」


レオンが踏み込む。


鋭い突き。


ルブラは咄嗟に右肩で受け流そうとした。


だが。


レオンはさらに膝を沈める。


軌道が沈んだ。


脇腹を浅く裂く。


「っ――」


ルブラが後退する。


レオンは笑った。


「訂正しよう」


剣を向ける。


「なるほど。王国騎士団より厄介だ」


一拍。


「だが、片手間で相手できるほど甘くはない」


ルブラは静かに息を吐いた。


「……光栄だな」


さらに一歩下がる。


レオンが追撃しようとするが、周囲の兵が壁になる。


突破は可能。


だが、部下が追いつけない。


レオンは追撃を止めた。


「残念だ。また相手をしてもらいたいものだ」


その笑みは、明らかに挑発だった。


ルブラは沈黙したあと、小さく笑う。


「……遠慮しておこう」


装備差がなければ、一瞬で負けていた。


それを理解していた。


「ルブラ様! お怪我は!」


「ああ、問題ない」


脇腹の傷を押さえながら、ルブラは振り返る。


「恐ろしい男だ。強いうえ、頭も回る」


レオンの実力を認める。


だが。


思考はすぐ切り替わる。


「石像の情報は?」


「詳細不明です。ですが、敵の秘密兵器かと」


「そうか……」


ルブラは迫ってくるゴーレムを見上げた。


「なら、まずはあれの脅威度を測る必要があるな」


速度。重量。突破力。


ルブラは、無言で脅威分析を始めた。

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