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第76話 皇王の双剣

ヘルト軍右翼の騎兵は、敵戦列の側面へ食い込もうとした――だが、それは叶わなかった。


眼前に立ちはだかったのは、覇国が誇る重装機動歩兵。


重厚な鎧を纏った兵たちが、隙なく武器を構え、壁のように並んでいる。


突撃の勢いは、そこで完全に殺された。


ヘルト軍の騎兵は即座に判断し、次々と下馬する。


白兵戦へ――移行。


その最前列。


巨躯の犀の獣人が、一歩前に出た。


「王国騎士団ではない……だが、それに見紛うほどの個の武。見事だ」


その視線の先にいるのは、レオン。


「ありがとう。さすがは覇国の重装機動歩兵だ。馬上のままなら、こちらが痛い目を見ていただろうね」


軽く笑い、剣を構える。


「なら――ここで少し、付き合ってもらおうか」


犀の獣人は、わずかに口元を歪めた。


「その程度で、我らを崩せると思うな」


一歩、踏み出す。


踏み込みだけで、地面が鈍く軋んだ。


「我が名は、レオン・ブレイド」


「ルブラ・オルデンだ」


名乗り。


それが、開戦の合図となる。


次の瞬間――


両軍が激突した。



  ◆ ◆ ◆



後方。


レイジは、聖剣の効力を見極めながら、戦場全体を俯瞰していた。


中央――押し上げている。


だがその影響で、前線は歪み始めていた。


それを確認したうえで、静かに口を開く。


「両翼の騎兵を同時に動かせ」


指示が飛ぶ。


周囲の貴族たちは息を呑んだ。


昨日立てた作戦とは、明らかに違う。


だが――誰も口を開けない。


その沈黙を破ったのは、隣に立つケイレブだった。


「シメオン公。昨日の作戦と異なるようですが」


視線が一斉にレイジへ集まる。


レイジは一切動じず、言い放った。


「ああ。裏切り者がいたからな。作戦は嘘をついた」


場の空気が凍りつく。


「ここにいる者は、改めて俺の指示に従え」


誰一人として逆らわない。


ただ静かに、全員が頷いた。


レイジはすでに視線を戦場へ戻している。


右翼――レオン隊。


敵騎兵を押し込み、重装機動歩兵に進路を塞がれたのを確認する。


「……止まったか」


即座に次の手。


「後方のサラオス子爵へ伝令。合図と同時に前進できるよう準備させろ」


「はっ!」


命令は淀みなく流れていく。


その直後――


上空から、巨大な羽音が響いた。 


覇国軍後方。


巨大な影が、空へと舞い上がる。


グランコンドル隊。


翼が空を叩き、風を唸らせながら――一直線に中央へ向かう。


聖剣の光を目指して。


「来たか……」


レイジは即座に反応する。


「レビ男爵! グリフォン隊を指揮しろ!」


「はっ!」


待機していたグランツが動く。


手懐けたグリフォンに飛び乗り、数騎を引き連れて空へ。


ヘルト軍の空軍が姿を現した瞬間――


兵たちの間から歓声が上がった。


だが。


「喜ぶのは勝ってからにしろ」


その一言で、空気が引き締まる。


「後方の弓隊は、グリフォン隊を支援しろ。ここの上空に敵を近づけるな」


次々と指示が飛ぶ。


戦場は、完全にレイジの手の内で動いていた。


そして――


布が剥がされた。


現れたのは、人の形をした異形。


無機質な巨体。


ゴーレム。


その異様な存在感に、周囲の貴族たちが息を呑む。


「模倣品が一つ、オリジナルが一つ」


レイジは淡々と告げた。


「オリジナルは左翼へ。模倣品は右翼に回せ」


突然の兵器投入。


だが誰も口を挟めない。


レイジはその様子を一瞥し、さらに言葉を重ねる。


「今回は、黙秘できるサラオス伯爵とヴァイス伯爵に任せる」


一拍。


「だが今後は違う。優秀な者に使わせる」


空気が変わる。


「この戦いが終わったら、推薦できる人材を見つけておけ」


その意味を、誰もが理解した。


功績がすべて。


選ばれるのは――結果を出した者。


「……後は、言わなくても分かるな?」


貴族たちの目の色が変わる。


野心。

恐怖。

渇望。


すべてを飲み込み――


「「「我々に指示を!」」」


一斉に膝をつく。


誰もが理解していた。


新兵器の操縦者。その座を、自らの血縁に与えられれば――莫大な影響力を得られると。


レイジはその顔を一人一人確認しながら、再び視線を戦場へ戻す。


すでに次の一手を考えている。


その背中は――


もはや一将ではない。


戦場そのものを支配する者の背だった。


兵たちは動き出す。


勝利の後に待つものを思い描きながら。


そして戦いは、さらに激しさを増していく――。

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