第75話 聖剣
カインが前線に到着したとき、戦況が押されているのは誰の目にも明らかだった。
しかし――
聖剣が掲げられた瞬間、流れが変わる。
後退しかけていた兵たちは、その光を見て足を止めた。
崩れかけていた陣形が、ゆっくりと持ち直していく。
それを見て、リカルドが低く呟いた。
「想像以上だな」
「はい。敵は急造の連合軍。ヘルト兵が前線に均等に配置され、その影響が全軍へ波及しているのでしょう」
ルブラの冷静な分析に、リカルドは頷く。
「だが聖剣に近いほど効果は強い。前線が歪み始めたな」
中央が突出し、両翼が凹む。
ルブラは膝をつき、指示を仰いだ。
「左右に勢いを抑えさせろ。前線を横並びに戻せ」
「はっ」
だが――
「待て」
リカルドは目を細めた。
「……誘ってみるか。このまま包囲に近づけろ」
中央がさらに突出する。
凹凸型が完成した瞬間――
「ルブラ、重装機動歩兵を用意しろ」
直後、敵騎兵が両翼から動き出した。
リカルドはその動きを見て目を見開く。両者ともにあまりの練度の低さに。
「……王国騎士じゃないな」
両翼の騎兵は、王国騎士団のそれとは明らかに違っていた。
近くの将が進言する。
「ひとまず騎兵を当てましょう」
リカルドは睨みつけるが、やがて笑った。
「新入りか。悪くない。採用だ。騎兵をぶつけろ。おそらく敵は王国騎士団ではない。やはりディメントの内通はバレていたか」
両軍の騎兵が激突した。
◆ ◆ ◆
その少し前――
レオンは兵を整列させた。
「我々の任務は敵陣深くへ切り込み、主力を引きつけることだ。孤軍奮闘。生き残るのは困難だろう」
若い兵たちが息を呑む。
「生きたければ、死ぬ気でついて来い」
一拍置き、続けた。
「勝てば、私について来た者全員を騎士に取り立てる。最も功績を上げた者には領地と爵位を与える」
静寂。
「栄光を掴めるのは、勇気ある者だけだ」
「ついて来い。道は私が切り開く」
レオンは一人で前へ進み出た。
続くグラズガ。
それに続く兵たち。
敵騎兵が迎撃に出る。
誰もが悟った。
練度の差。
大国の壁。
だが――
「勇者らしく、立ち向かえ」
「「「皇国に栄光あれ!!」」」
激突。
斬る。
斬る。
斬る。
気付けば前から流れてくるのは、馬上の屍。
精強な覇国軍騎兵を薙ぎ倒し、駆け抜ける男。
その名は――レオン・ブレイド。
聖剣の光はない。
だが。
追従する兵士には彼こそが、遠くで光る聖剣よりも輝いて見えた。
◆ ◆ ◆
激突の瞬間。
リカルドは笑った。
右翼が快進撃。
左翼は崩れる。
「騎兵は未熟……だが、先頭のあの男だけは別格だな」
突破された方向へ指を向ける。
丘の麓で待機していたルブラが動く。
重装機動歩兵が待ち構える。
騎兵は失速。
白兵戦へ。
「なかなかの人物だが、一人で重装機動歩兵には勝てないだろう」
だが、リカルドの目は油断していない。
「これで終わるわけがないだろう」
右翼の騎兵で目覚ましく活躍する人物から視線を空へと変えた。その最中、手元に置いてあった手紙を近くの篝火へと捨てた。
「さあ、どうする。まさか、聖剣だけとはあるまいな。――勇者の末裔」
輝く聖剣を尻目に、リカルドは密かにグランコンドル隊の準備を進めさせた。
長らく投稿できておりませんでしたが、今後また少しずつ更新していければと思います。




