第37話
「この威力はまずいな。あと、いろいろと整理することがあるな」
レイジは敵が砲撃と同時に攻撃をしてこない理由や帝国の新兵器についてなどを頭の中で整理をしていた。そんな中、ガイルが話しかけてきた。
「おい。どうするんだ?」
ガイルは持ち前の大剣を担ぎ馬に乗った状態でレイジに指示を仰いだ。その隣では、グランツは疲れた顔でガイルの馬の手綱を握っていた。
レイジは思考を終わらせると指示を飛ばした。
「損害があったのは俺の部隊だけだ。ガイル、グランツは今すぐ左右に展開して兵の距離を離して布陣しろ。俺は損害の出た軍を再編してから突撃する。突撃の銅鑼に合わせて包囲しながら攻撃しろ」
「わかった」
「おう」
ガイルとグランツは指示を聞くと兵を散開させて、包囲するように丘を囲み始めた。
指示だけを飛ばした理由は、ガイルは言ってもわからないという判断し、グランツならば説明しなくても良いと考えだからだ。
レイジは指示を終えると帝国軍の方を見たが、旗が靡くのと、甲冑の人物が見下ろしていた。レイジはその人物と目が合った気がした。しかし、甲冑の人物は目線をすぐに切り、あたりを見回した後、後ろに下がった。
「砲撃と同時に攻めてこないルード軍に後ろに下がる帝国軍。なるほど。帝国はルードを助ける気は全く無さそうだな。おい、そこの二人、帝国は逃がせとグランツとガイルに伝えてこい」
「「わかりました」」
「おそらく、帝国の新兵器は連射できないと見た。貫射弓と同じ原理だろうな。なら、すぐに敵との間合いを一気に詰めるべきだな」
レイジは近くにいた兵士に伝言を頼んだあと、軍の再編を急いで行った。
フレイ将軍、敵が散開しながら丘を包囲しようとしています」
「ああ、わかった」
フレイは帝国兵の返事に答えると、急いで指示を出しているレイジを見下ろした。その中で、ヘルトで指揮を取っているレイジをたまたま見つけた。
「なるほど。ヘルトにも優秀なものがいるな」
フレイはレイジが必死に指示を送っているのを見ていると、レイジが顔を上げた。フレイは鎧越しで視線があった。
フレイは全体を見回した後にすぐに、後ろへと下がり、撤退の指示を出した。
「これなら、たとえ我々が参戦しても負けそうだな。予定通り、撤退をするぞ」
「「「はっ」」」
既に撤退の準備が出来ていた帝国軍が出発しようとした時に後ろから声が聞こえた。
「フレイ将軍、どこへ行かれるのですか?」
「これはシュマン殿。何かようかな?」
声を掛けたのはシュマン・ルードで大量の汗を流していた。フレイはシュマンの用件がわからないように首を傾げた。
「あのこれは一体?」
「今から本国へ帰還する」
フレイはなんの躊躇いもなく言い切った。シュマンが少し遅れて、現状を理解すると顔をが青ざめた。
「お、お待ちください。我々を助けてくださるのではないのですか?」
シュマンはおどおどしながらフレイに疑問を投げかけた。それを聞いてフレイは考える仕草をした。
「私は任務を遂行するとしか言ってない。そういえば任務内容は言って無かったな。私の任務は新兵器の試運転だ」
「そ、そんな」
シュマンは地面に膝をついて、その場で座り込んだ。シュマンは放心状態となり遠くを眺め始めた。
フレイはシュマンの行動に肩を落として、シュマンに聞こえないように呟いた。
「あんな奴が君主では今回、助けても次の攻撃は防げないな」
フレイは座り込んだシュマンを置いて、丘を駆け降りた。それに続いて、帝国軍は丘を降りて、そのまま駆けていった。
ヘルト軍は帝国軍を追撃せずに一目散に丘の上を占拠し始めた。
「これはもう少し判断が遅いと危なかったかもしれないな。ヘルト、侮れないな」
フレイは帝国軍を無視するヘルト軍を見て、少しだけ危機感をを感じた。
レイジは丘の上にあった旗が下ろされていくのを確認した。
「おっ。やっぱり撤退したか。なら、あれを使う必要は無さそうだな。銅鑼を鳴らせ。そして、帝国軍が逃げたとルード軍に向かって叫んでこい」
レイジはすぐに攻撃命令と敵の撹乱を指示するとその場で横になった。
「こりゃあ、楽でいいな」
レイジは笑いながら、勝ちを確信して、葉巻に火を灯した。
「「「うぉーーー」」」
ヘルト軍は大きな雄叫びを出しながらルード軍へと突撃を開始した。その頃、ルード軍は大混乱していた。
「おい。指示はまだか?」
「シュマン様がおりません」
「帝国の旗が降りているぞ」
「ヘルト軍が攻めてきたぞ」
ルード軍の将軍は指揮官の不在、更にはたくさんの対処すべき事にガタガタになっていた。
「一旦、丘に上がるのだ」
「帝国がいたらどうするのだ。上がってくるなと言われてるのだぞ」
指揮官を纏めるものもいない為、己の意見だけをぶつけ合うだけになっていた。そのため、前線にある兵士達は何をすればいいのかわからない状態となった。
「帝国軍が逃げたぞー」
ヘルト兵が叫び出した。それに動揺したルード兵はまともな隊列を組むことすらままならずにヘルトに包囲攻撃をされた。
「なんだ? 拍子抜けじゃねぇか。レビ軍の方がよっぽど強かったな」
ガイルはなんの抵抗も無い敵陣に突っ込み本陣へと直進した。
敵陣に突っ込むガイルとは違いグランツは丘の上へと登った。すると、一人の男が膝をついていた。
「貴様は誰だ?」
「………」
グランツは座り込んでいる男の名前を尋ねたが男からの返答はなかった。グランツは身なりから、かなり身分が高いということはわかっていた。
「シュマン様ー。何処におられるのですか?」
シュマンを探しているものが数人声を上げて探していた。グランツはルードが布陣している丘の反対から駆け上がったためまだ場所を知られていなかった。
グランツはこの声を聞くと、即座に目の前にいる人物の首を刎ねた。そして、自分の槍先に突き刺して丘の天辺に立ち、槍を高々と掲げた。
「なっ、シュマン様」
探していた男が驚きの声を上げた。グランツは探していた男の反応を確認して、ニヤリと笑った後に大きな声で叫んだ。
「このグランツ・レビがシュマン・ルードを討ち取ったぞ!!」
丘の下で行われている戦場では一瞬だけ静かになった。しかし、その後すぐにヘルト兵が勝鬨を上げて、ルード兵は武器を捨て降伏した。
「「「うぉーーー」」」
「手柄を取られちまったな」
敵陣で、ガイルは嬉しそうに槍を堂々と掲げるグランツを見た。




