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幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
革命編
74/77

意外にあっさり解決するものです


 まさに物語りの締めに相応しい天にも昇るような気持ちに呑み込まれて、肝心な事を忘れていた。


 思い出したのは、ヨハンが扉に顔を向けてぼそりと呟いたからだ。



「扉の方が騒がしいね」

「あ」

「民達か!?」

 ブライアンが、この国の騎士らしく、腰にさしてある剣を引き抜き皆を守るように前に進み出た。


 そうだ。


 ジルがここで死ぬことを思い留まってくれたからと言って、すべてが丸く収まるような状況なんかじゃなかった。


 国全体を巻き込んだ大事件が今まさに行われている最中だった。

 


 足音が聞こえてくる。



 それは一つ二つなんて生易しいものではなく、ドタバタと大きな騒がしい音をたててこちらに向かってくる所から察するに、それなりの人数がいるようだ。


 ジルが私の肩を強く抱き寄せてくれた。


「ジル………」

「大丈夫だ。なんとかする」


 大好きな人からの一言が、なんと力強いことか。

 黙って頷き返した。


「さて、どうしようね」 

 ヨハンは相変わらず暢気なものである。


 エメの顔にも少しの緊張が見られる。 

  

 足音は、王の間の前でぴたりと止まった。

 重苦しい音を立てて、扉が左右に大きく開かれる。 


 

 見えたのは、各々鍬や粗末な剣を持った民達の姿。

 脳裏に蘇る、十年前の事。

 緊張に、身体が鉛のように固くなったのを感じる。


「王は居るか!」

 代表と思わしき一際体格の大きい男性が最初に足を踏み入れ声を張り上げた。


「ここに居る。逃げも隠れもしない」

 私から離れたジルが、前に踏み出した。


 彼は一体どうするつもりだろう。


 固唾を呑んで事を行末を案じている私の目の前で、白髪の若き王は突然床に膝をついたかと思えば、次の瞬間には額を床に押し付けるように土下座をしたではないか。



 後頭部が丸見えになるほど深いそれは、敵に塩を送るのも同然の行為。



「「!」」

 民だけではなく、私達すらも目を瞠る光景だった。




 そんな事気にする様子もなく、ジルは今も尚頭を下げ続けた。


「この国の王族は、お前達民に、長い間要らぬ苦労を掛け続けた。それは、王族である俺が今ここでどれだけ詫びようとも足らぬこと。だが俺には、こうして詫び続ける事しかできない。………本当に、すまなかったっ!」


 ジルの必死の声だけが王の間に響き渡る。


「本来であれば、我が首を差出し、すべての責を負うのが筋というもの。だが、俺には、まだ生きて居たい理由が出来た。彼女のために、俺はどれだけ醜態を晒してでも生きたいのだ!」

「ジル………」

 止まっていた涙が、再び溢れだしてくる。

「………メイ様」

 気が付けばすぐ隣に寄り添い、肩に手を置いてきたエメもまた、ジルの後ろ姿を見ながら静かに涙を流している。


「頼むっ!俺と共に王族はこの国から永遠に消え去ろう。もうこの国で狼藉を働く貴族も居ない。隣国とも交渉し、お前達のより良い未来のためになんでもしよう。だから、どうか、この命、見逃してはくれないだろうか!」 


 これまでの王族の行いを、床に這いつくばって詫びるジルの隣に、並ぶように膝を付いた者が居た。


「………ヨハン?」


 すっかり気配を消していたジルの兄、ヨハンだ。


「神殿に入ったとはいえ、この身体に流れているのは王族の血だ。可愛い弟だけに、すべてを背負わせえるほど愚かな人間ではないつもりだよ」


 この国の残された最後の王族達が、床に膝を付き頭を下げ許しを請う。 


 それは、民からすればあり得ない光景だろう。彼らにとって王族とは、愚かで傲慢な人間たちの集まりだったのだから。

 息を呑み、どうすれば良いか分からず互いに顔を見合わせる民達の間を掻い潜り現れた人物がいた。


「神殿官長!!」

 ヨレヨレの茶色いローブに身を包んだ小柄な男性。


 でも、妙な既視感が私の身体をすり抜けて行った。


 私は、彼に会った事がある。

 昔々。それこそ、私がこの世界に来た時に。


 瞬間、脳内に浮かび上がった人物と急に現れた彼が合致した。


「て、テリー!?」


 十年前まで側近としてヨハンの傍に居たはずなのに、城に戻ってからまったく姿を見かけない事に疑問を覚えていた彼が急に現れたものだから、この驚きは当然と言えよう。


 なんていうタイミングで現れたんだこの人。


 そんな彼は王族を庇うように進み出ると、革命軍と向き合うように立ち止まった。


「みんな!どうか俺達の話を信じてくれ!」

 彼に続くように、民の集団の中から、声を張り上げた数名が進み出てきた。


 革命軍の中の騒めきが大きさを増していく。

「お前、城で殺されたんじゃ………」


「いや、王都で起こした暴動で確かに捕まったが、王は俺達を殺さなかった。それどころか、すまないと謝罪までして、逃がしてくれたんだ」

「今の王は、今までの王族と違う。争い以外に、何か方法はあると思うんだよ」


 ぞろぞろと進み出てきた十数人にも及ぶ人々。


 ブライアンが瞠目する。

「お前達は、先の暴動で騎士に捕まった革命軍の」

 彼の呟きがすべてを教えてくれた。


 風の噂で、暴動を起こした革命軍は全員粛清されたと聞いていた。それはここに居る革命軍も一緒。そしてそれは、新たな火種を彼らに植え付けたはずだった。


「はっ、そういうことか」

 最初に進み出た革命軍の対象らしき男が片手で額を覆い溜息をつく。

「全部、仕組まれてたってことかよ」

 苦笑と共に発せられた言葉は、一体何を意味するのだろう。


 まだ油断は出来ないと、革命軍は警戒心を向きだしのままで王の間に居る私達を睨み付けてくる。



 やっぱり、一度生まれた負の気持ちは、断ち切れないものなのかな。



 知らずの内に静まり返り、緊張という糸が張り巡らされたこの場に置いて、ゆっくりとだが確かに近づいてくる一つの足音。

 気が付けば、人だかりがぱっくりと二つに割れた。


「残された二人の王族の方々が、すべての自尊心をかなぐり捨ててこうして謝罪をされている。これ以上の争いは何も生み出さないと私は思うのだが、皆はどうだろうか」


 新たに登場した人物は、黒髪の所々に白髪が見える五十代ぐらいの初老の男性だった。


「エハテー公爵様」

 呆然と民の一人がその名を呼んだ。


 といっても、私にはさっぱりである。


 むしろ、登場人物が多すぎて付いていく事を放棄する直前だったりする。

 しかし、この男性は大切なキーパーソンのような気がしたので、蒸気を上げそうな自分の脳に叱咤し集中した。


「誰?」

 エメに説明を求めて耳打ちしてみた。

「エハテー公爵。クラリス様のお父様です。王族に目の敵にされていましたが、その分革命軍には、一目置かれている方です」



「………公爵が、そう言うなら………」

「そうだな………」

「いけ好かねぇ貴族達をとっちめてくれたのは、今の王ってのは本当だしな」

「王族やいけ好かねぇ貴族共が無くなるだったら、それでいいんじゃねぇか?」

「オレも、どこで終わらせればいいか、もうわかんなくなっちまってたし」


 静かな水面に一つの石が投下されたかの如く、小さな波紋は何時しか大きな波に変わっていった。


 納得のいかないような顔をする者や反対意見を口にする者も確かにちらほら見えたけれど、それ以上に今の状況に納得する民達の方が多いようで、徐々に負の声は萎んでいった。


 クラリスのお父さん―――エハテー公爵はそれを満足そうに眺めた後、ゆっくりとジル達の元にやってきて膝をついて彼らに視線を合わせた。


 身のこなしが、今まで出会ってきた貴族の中でも段違いに優雅である。


 これが育ちの差って奴か。


「ヨハンネス王子、ジルベルト様。よくぞ、決断されました」

「エハテー公爵。何故、ここに。それに、あの革命軍の者達も」


 どうやらジルは、自分が蒔いた種がここまでいとも簡単に終結したことに驚きを隠せないでいるようだ。


 

 今日すでに何度か目にした、呆気に取られた様子で瞬きを繰り返すという仕草を繰り返している。

 そんな顔をしていると一気に幼く見えた。

 と、ジルベルトがまだたったの二十二歳であった事を思い出した。


「あぁ、それは、彼らのお蔭だよ」

 笑うエハテー公爵の視線はヨハンとテリーに向けられていた。


「ヨハン様は、何度もうちの領土にやってきて、私を説得してきた」

 話し合いは面白かったよ、とエハテー公爵はあっけらかんと言う。


「神殿官長ぅ」

 その一方で、クタクタの足取りでこちらに向かってくるテリーを眺めていたヨハンが肩を竦ませて見せた。

「間に合わなかったらどうしようかと思った」

「ほんと、人使い荒いですよぉ。公爵をここに連れてくるだけじゃなく、散らばった革命軍の説得だなんて。もう僕疲れましたー」

 どうやらテリーが裏で頑張ってくれていたらしい。


 謎は一瞬にして解明された。


「ヨハン、が?」

 どうやらすべて、この胡散臭い神殿官長兼第二王子の計画通りだったようだ。


 あの手紙をパトリシアに託したのもヨハンという事は、すでに分かっている。彼は一体どこまで見通してしていたんだろうか。


 なんか彼の後ろに片手にノートもう一方にリンゴを持った黒い死神が見えかけたよ。

 すべては僕の計画通りさ、ってか。


 色々分かっていたのなら、こうなる前になんでどうにかしてくれなかったのかと少し恨みがましい想いが芽生えてきてしまい、じと目でヨハンの横顔を見つめていれば、ぱっとこちらを向いた青い瞳と目が合った。


「今までの私は、状況を把握するのが遅すぎたんだ。だから常に後手に回るしかなかったんだ。どれだけそれを悔やんだことか。けれどせめて最後ぐらいは、どうにかしたいと思うのは当然だろう?」


 エハテー公爵同様、なんとも簡単に言ってくれる。

 

 この人達は次元が違うようだ。


 私にどうこう出来る人物でない事ぐらい最初からわかっていたけどね。



 というわけで、ようやく実感できた終わりを噛み締めて、私はジルの胸に飛び込むことにする。







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