城の愉快な仲間達4(第三者視点)
「さて、この『王の初恋を応援し隊』の会合も今回で最後になりそうですわね。パトリシア様も隣国に行ってしまわれますし」
いつもの談話室の定位置に腰かけ、クラリスが厳かにそう告げる。
「こうやって作戦会議も出来なくなるのかと思うと、とっても寂しいわ………」
クラリスの言葉に彼女の前の椅子に座っていたパトリシアがおよよと目尻を拭うふりをする。もう一度言おう。拭う振り、をしたのだ。そこに涙はない。
「そうですね」
泣く素振りを見せるパトリシアの肩に手を添えて、エメが頷いて見せた。彼女も寂しいのか、眉がハの字に曲がっている。
一方、女性陣を見守るように談話室の窓際に並んで座る二人の人物が居た。
「別に俺ら、何もしてないよな?」
腕組みをして悲観に暮れる様子の女性陣を呆れたように見つめながらクラウディがポツリと呟けば、すぐさまその隣に居たセリムが彼の口を己の左手で塞ぐ。
そして反対の右手の人差し指を口に持っていき、静かにするように合図を送った。
「聞こえたらめんどくさい事になるから、そう言う事は言わないの。………本当の事だけど」
ここで少しの本音を込めてくるのがセリムらしい。
「だろ?」
手が放された事で自由に言葉を紡げるようになったクラウディは、セリムの最後の台詞に同調するように首を傾げた。
「むしろ面白がりながら見てただけじゃねぇか?」
「うーん。まぁ、ねぇ」
悲嘆に暮れているようにも見える女性陣を、男性二人はなんとも言えない顔で見つめる。
「なにか?」
距離があるにも関わらず、どういった技を用いたのだろうか。
クラリスがゆらりとクラウディ達の方を振り返った。そこには顔一杯に広がる怪しい笑み。今にも食って掛かられそうな恐ろしさを感じるそれに、クラウディもセリムも無言で視線を逸らした。
大人しくなった男性陣を満足げに見つめて、金髪の令嬢は改めてエメとパトリシアに向き直る。
最後の作戦会議なのだ、気を引き締めて行こう。
「とりあえず、メイが気持ちを自覚したことはとても良い傾向ですわ。けれどそれだけでは何も変わりません。ジルベルトの気持ちを動かすか、もしくはメイに最後の後押しをするか………」
「でも、お母さん過去の事もあって、中々難しいと思うわ」
「王も、今のままでは到底無理ではないでしょうか」
思案気な様子で顎をすらりとした人差し指と親指で挟み、何か良い案はないかと頭を悩ませるクラリスに、パトリシアとエメが控えめにだがしっかりと自分の意見を述べてみる。
「俺もそうおもうわー」
「そうだねぇ。なにか、本当に永遠の別れとかいう極端な状況にならない限り無理なんじゃない?この二人の場合」
遠くから会話を聞いていた男性陣も一応この隊のメンバーということで発言してみると、
「なんて縁起の悪いっだからっ!そうならないために何か作戦を立てるんですの!」
ぎろりとした視線が返ってきた。
男たちは渋々引き下がることにした。この場において、彼らの力は無いに等しい。
「とりあえず、一週間ワタクシ達と隣国に行った際にどれだけメイがジルベルトを恋しく思うか、というのにかかっていると思いますの」
「なるほど。お母さんからの恋の成就を目論むわけね!お母さんから迫られれば、きっとお兄様も拒めない」
「でしょう」
「ですので、ワタクシとパトリシア様がどうその恋しさを引き出すかが大事になってきますわ」
クラリスがにやりと笑えば、パトリシアもそれに習う。
それはまるでワイロの遣り取りをする悪い貴族達のようである。
やれやれと、それを眺めていたクラウディとセリムは呆れたように溜息をつつも、なんだかんだ楽しそうな女性達を見て穏やかな笑みを浮かべる。
穏やかに終わると思われた談話室での作戦会議は、けれど今回だけは、そうもいかなかった。
「けれどクラリス様。わたくしは、メイ様にはパトリシア様のお傍にいてほしいと、思っています」
作戦会議はこれにて終了、という間際で、エメが誰にも気づかれないわずかな吐息を漏らすと同時に平静を装いながらその場に居た全員に声をかけたのだ。
和気藹々とする談話室に静けさが包み込む。
「エメ?」
姉と慕い続けてきた女性のいきなりの提案にクラリスは不思議そうに彼女を見上げた。
先ほどまでの意見をすべてひっくり返す言葉に、目を瞬かせる。それは、他の皆も一緒だった。
周りの反応は承知の上だったのだろう。
決して動揺するような失態は見せず、エメはあくまでも穏やかな笑みを崩すことはない。
「メイ様の過去のお話しをお聞きしましたし、パトリシア様の輿入れの話もすべてを理解した上で、わたくしは思うのです。メイ様を大事にされたいのなら、メイ様自身に答えを見つけて貰うのが最良かと。決して、ジルベルト様の名は出さずに」
「けれど、そうすればきっとメイは隣国に残ってしまいますわよ」
眉を顰めてクラリスは言う。
エメの突然の発言の本当の意味を理解し、そしてそんな彼女の意志を測りかねているのだろう。
静かに紫の彼女は首を静かに横に振り言葉を続けた。
「それがあの方の決断ならば、咎める権利は誰にもありません」
「エメっ!ワタクシ達はジルベルトとメイの幸せを願って今まで頑張ってきたんじゃありませんこと?」
クラリスに咎められてもエメの意見は変わらなかった。
「メイ様の気持ちを、大事にして差し上げましょう。もし、彼女がジルベルト様を選ばないのであれば、きっとそこにはそれなりの理由があるのです。ですから、ね?」
自分の思いを伝え終えそっと目を閉じたエメは、それでは、と深く一礼を残して談話室を去っていった。
残った全員の間に、困惑の空気を含んだ沈黙が横たわる。
いつものエメのようで、少しエメらしくない。
それが、不可思議だった。
そんな中で、クラウディの隣に居たセリムだけは、一際険しい顔でエメの去っていった方向を無言で見つめていた。
先ほどの一瞬の間に彼の脳裏に刻まれたものがあった。
それは、まるで自分の視線から逃げるように顔を背けて出て行ったエメの姿と、すべてを諦めきった歯痒さを覚える彼女の瞳。




