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幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
革命編
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恋をすると人は変わるのです


 自分の気持ちを自覚してしまった私はどうやら、今までのジルとの距離感や対応を、すっかり記憶の中から削ぎ落としてしまったらしい。

 会話の仕方さえ忘れてしまったかのような有様だ。


 ここ数日の自分の行動を振り返って、私は溜息をつく。


 岸芽衣子の現在所在地は、城の渡り廊下の一角にある大きな柱の後ろ。

 誰にも見られない所に体育座りになって、腕で膝を抱えている体勢だ。


 実年齢を考えれば、非常に痛いと思われる行動だろう。

 しかし、恋愛事で悩んでいる間だけは、歳は関係無い平等の立場で居させてくれ。


 なんて若干やさぐれてますが、見逃してください。




 アリシア様達が居なくなってからの数日間、再び城の中が慌ただしくなっていた。


 というのも、パトリシアの輿入れが少々早まったのだ。

 春先だと言われていたのだが、雪解けが始まる頃には国を出るようにとの要請があったらしい。

 雪が積もってすでに日は過ぎ、後二週間もすれば雪は解け始めることだろう。


 つまり、後二週間で、パトリシアの隣国への輿入れが行われるということ。



 その事についてなのか、それとも私の今後についてか、ジルは何度か私に話しかけようとしていた。


 だけどジルへの想いを自覚した直後の私に、彼と喋るなんていう高度な技が出来るはずもない。私の顔がリンゴの如く真っ赤っかになって一発でばれることうけあいである。

 そんなわけで私は、彼が視界に入ってくるや否やどこぞの少年アニメのコントかと錯覚させるほどの素早さで身体を反転させたのち火事場を馬鹿力を遺憾なく使い走り去る、という一連の流れを見事に体現してみせた。


 三度同じことが起きてからは、ジルは私に話かけることを諦めてしまったようだ。

 もう彼の姿を見かけることも無くなった。


 その代わりというように、クラリスやセリムくん、クラウディのもの言いたげな視線を感じることが多くなかったんだけどね。


「あー、どうしよう」

「本当ですわね」

「!」

 独り言に、まさかの返答があった。


 驚いて顔を上げれば、呆れ顔のクラリスが立っていた。その隣にはエメが口元に手を当てて、緩やかな笑みを浮かべている。

 二人並んで私を見下ろしてくる所からして、私自身に用があるのだろう。


「ど、どうかした?」

 ジルを避ける私の行動にきっと思うところがあるのだろうと察しはついていたけど、それを自分から蒸し返す勇気もない。あえて素知らぬ振りをして首を傾げれば、クラリスの呆れた視線にどこが苛立ちが篭ったようだ。


「どうかした、ですって?どうかしているのは貴女の方ではなくって?」

 そしてその予想は当たっていたようだ。


 真っ直ぐな彼女の言葉が、まるで切れ味抜群の日本刀のようにブスリと私の心に突き刺さってくる。


 眉毛を片方、くいっと上げたクラリスが腕を組んで私を見下ろしていて、その隣に居たはずのエメはいつの間にか私の傍にしゃがんでこちらを見つめているではないか。

 小首を傾げている可愛らしい彼女と目が合った。


「ジルベルト様が、落ち込んでおられましたよ。メイ様に避けられていると」

「うっ」

「やはり、メイ様は自分を許してなどいないんだとおっしゃられていましたけれど………」

「そ、そんなことないよ!!全然怒ってないよ!」

「ですわよねぇ」

 声を上げてエメの言葉を否定すれば、すぐさまクラリスの合いの手が入る。


 どうやったらこの恋慕の気持ちを気づかせることなくジルの気持ちを和らげられるかと考えた所で、方法は思い浮ばない。

 一番簡単なのは、前のように彼と話すことだろうけれど、それには私自身への想いの折り合いをつけなければいけず、果たしてそれはいつになるだろうか。


 うぅぅ、と弱気な声を出し顔を覆う。


 そこで耳に入り込む高い声。

「ようやく自分の気持ちに気がついた、といったところですわね」

「へ?」

 顔全体を覆っていた両手を少し下にずらす事で、視界が開ける。そのまま上を見上げれば、目に眩しい金髪が目に入った。

「な、なにを………」

 しもどろな言葉、というのはまさにこの事。


 何か喋らなきゃと思うのに、口がうまく音を紡げない。


 クラリスの片眉が益々曲線を描く。ともすれば眉毛が飛んで行ってしまうんじゃないかと思うほどの上がりようだ。

 彼女はまさに意地悪な令嬢の集大成ともいうべき表情で、はっ、と鼻で笑って見せた。


「今更なにを。あなたがジルベルトに弟以上の想いをお持ちでいらしたことは傍から見れば一目瞭然でしたわよ。むしろ何故気づかないかとイライラするくらいには」

「うっそぉぉ!?」

 思わず飛び上ってクラリスに視線を合わせた。

「じ、ジル、も?」


 もしや気づかれていた、なんて情けないオチは要らないんだけど。


 どうやら私に視線を合わせるためにあえて膝を折っていたらしいエメが、ゆっくりと立ち上がり姿勢を正し頬に人差し指を添えて何やら悩むように瞳を瞬かせてみせた。

「ジルベルト様は、誰よりも鈍いお方ですから」

「まぁその想いがまだまだ土に埋まったままの芽であったために、ワタクシ達は何もできませんでしたけれどね。こうして一方だけでも花が咲いたことは良いことですわ」


 まったく良い事のように聞こえないのはクラリスの、一向に下がらない片眉のせいか。

 彼女の背後から、まったくどれだけ時間がかかるんだ、という副生音が聞こえてきたがしたので、そっと心の耳を閉じることにする。


 まさか自分の気持ちがここまで周りにダダ漏れだったことに驚きだ。


 何故だ。こちとら中身はもう○十代になるおばさんだぞ。


 しかしそこで思い当たったことがあった。

 私は、確かに結婚間際までいったけれど、その相手は二十歳の時から付き合っていた初めての彼。その人に振られ、それから何十年と恋すらしていなかったという事実に。


 恋愛経験なんてないも同然やないかい!!


 脳内で馬鹿丸出しの乗り突っ込みを披露してみるも、もちろん誰にも分からない。


 クラリスとエメは今だ呆れた顔を向けてくるだけだ。

「それで?どうしますの?」

「えーと」

「ジルはメイをパトリシア様と共に隣国へ送るつもりですわ。それでよいのかと、聞いておりますの」

「………」

 俯いて黙り込んだ。


 荷造りは進んでいる。


 でも、本当にどうしたいかは未だに分からない。

 何時まで経っても答えない私に痺れを切らしたのか、クラリスは深いため息をついてみせた。それに反応して、私の肩も小さく跳ねる。

 罪悪感のせいだ。


「まぁ、時間はありますし、輿入れするのはパトリシアだけ。最悪、ワタクシとセリムと共に少しの間隣国に滞在し、帰ってくるという手もありますわ」

「え、二人も行くの?」

「えぇ、小国とはいえ王族の輿入れですからね、少しでも信頼の置けるものを共にしたいという王の希望で、国を代表して宰相のセリムと公爵家代表のワタクシが行くことになりましたの。滞在は長くて一週間ほどですから、実際隣国の様子を見て決めるのも悪くないと思いますわ。やはり、パトリシア様の事は気になりますでしょう?」

「う、うん」


 クラリスがくれた膨大な情報をしっかり受け止めきれず及び腰になってしまったが、今回は見逃してくれるようだ。

 言いたい事は言ったからとクラリスはその場を立ち去った。


 残されたのは、私とエメ。


 けれど先ほどからエメは押し黙ったままなので、恐る恐る彼女を振り向けば、口を一文字に引き結んだ彼女が居た。


 その目は一心に私に注がれている。

 一体いつから、彼女はこんなにも胸の詰まるような表情をするようになったのだろう。


「メイ様」

 蓮の花を宿した彼女が口を開く。

「あなたは、女神の遣われた天使なのか。それとも、冥王の操る悪魔なのか。………一体、どちらなのでしょうね」






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