表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
策略編
56/77

秘めたる想いが溢れだす時


「やはり、皆様お揃いのようですね」

「………大臣、その必要がない、というのは?」


 この中で、大臣と真正面から向き合える力があると言っても過言ではないのが、この国の王女パトリシアと、唯一の公爵令嬢であるクラリス。


 二人が、剣呑な視線を携えて大臣を見据える。


 後ろに居るエカテリーナ嬢がその視線に当てられて肩を揺らしたようだがそんな事気にしている余裕はない。


「さぁ、王座の間にお連れしましょう。王がわざわざ出てこられる幕でもない。この私の手で、この件に決着を付ける事と致しましょう」

「大臣………っ!」


 エメやクラリス、クラウディの顔が悔しそうに歪むと同時に、大臣の顔が緩む。その後ろに居るエカテリーナ嬢もまた、青白い顔の中に余裕の表情を見せた。


 これが、前にセリムが語っていたこの国の負の連鎖の一部なのだろう。


 大臣に命じられて、騎士達が私達を取り囲み、進むように促した。

 決して、先ほどの重罪人のように掴まれて歩くわけではないけれど、それでも空気は重い。

 

 王座の間とやらに通されて、すぐに私は他のみんなから離されるように縛り上げられた。床の上に膝立ちで座らされる。肩に置かれた手のせいで前に少し屈み込んだその状態は、中世のギロチンを思い起こさせた。


「お母さん!」

 パトリシアが駆け寄ってくるのが見えたが、騎士の一人の手によって阻止される。


 エリオットは、どうすればいいか苦悶に顔を歪ませながらそれでもパトリシアの身体を抑えた騎士を弾き自分の腕の中に救い出していた。

 流石は将来有望は未来の義息子です。


「メイ様!!」

「メイ!」

 続くようにエメとクラウディ、クラリスが駆け寄ろうとしたが、騎士達によって止められる。それぞれ後ろから二人がかりで掴まれていて、容赦ない力加減に顔を歪ませていた。


 クラウディに至っては四人がかりで抑えられているではないか。


「離せ!!」

「おやおや。私の命に逆らう事はなりませんよ」

「王が帰ってきたらどうなるかわかっているのか!!」

「なぁに。帰ってこられる前にすべてを終わらせて見せましょう。終わってしまえば、何も言えまい。所詮彼も若造に違いないのだから」

 大臣の物言いから、ジルやセリムが苦しみがはっきりと感じ取られた。


 ジルと側近達、革命軍という民、そして貴族というもう一つ勢力。

 十年前の革命時に生まれたこの三つ巴のような構成が、今も尚この国を乱れさせている。


『この国に置いて、王とはあってないようなもの』


 ジルが前に言っていた言葉が蘇る。

 彼は、どういう想いであの言葉を言ったのか。


 泣きたくなった。


 やっぱり私、彼の何も分かってない。

 こんなに苦しい中で、どうして彼は王として立ち続けているのか。どういう想いでこの混乱の中に身を投じているのか。なにを、しようとしているのか。


 あぁ、ジル。

 あなたに会いたくて仕方がないよ。



 胸が痛い位きゅっと締め付けられて、涙がせり上がってくる。私はそれを押し殺すために唇を噛み締めた。


 ジルに会いたい、そのためには、この状況を突破しなければいけないのだ。泣いている場合なんかじゃない。


「おやおや、なんとも気丈な方だ。こんな中でも私を見てくるとは」

 目の前に立つ大臣が面白そうに私を見つめてくるのが癪だから、しっかりと顔を上げて言い返す。

「べつに、私は悪い事をしたわけではないですから」


「お前っ、まだ言うか!!」

 後ろ手で私を縛り上げていた騎士が、物言いに激昂したのか、思い切り腕を上に引っ張り上げながら背中を足で押さえてくる。

「いっ………」

 痛みで声が漏れた。

「メイ様!!」

 エメの叫びが聞こえる。


「さぁ、エカテリーナ嬢、どうしましょうか」

 周りの切羽詰った声達もどこ吹く風。

 大臣はゆったりとした動作で隣に立つエカテリーナ嬢を見た。


「大臣、早くこの人を処刑してください。ワタクシを毒殺しようとした方、見ているのもいやです」

 まるでプレゼントを強請る少女のように軽い物言いで大臣に話しかける令嬢に、違和感を覚える。


 おかしい。


 何故、瀕死状態だったという彼女が、一日も経っていないのにこうしてこの場に立っていられるのか。


「あ………」

 嵌められたのだと、今になって思い知った。


 あえて私を見ようとしていなかったエカテリーナ嬢の茶色の瞳が、急に私に焦点を定める。その中に見えるのは、まるで蛇のような縦長の瞳孔で、それに射すくめられた私は、数秒身体の動きを止めた。


 無理な体勢のせいで変な汗さえ掻きはじめている私を数秒注意深く見つめていた彼女は、なにやらはっとした様子でこちらに駆け寄ってきたではないか。


「ちょっと押さえておいて」

「エカテリーナ嬢?」

 突然お嬢様の行動に大臣の素の驚きが漏れた。


 私のすぐ傍に膝をついた赤毛の令嬢は、その大きな瞳を細くしつつ私を観察し、そして気が付けばドレスの後ろのボタンに手を伸ばしていた。


 彼女の意図していることが分かったので、焦る。

 どうやら気づかれてしまったようだ。

「ちょ、」

「あーら」

 もちろん、動きを制限されている私に止められる術などなく、背中の傷が外気に晒された。

 と同時に、可憐なはずの令嬢の瞳が、三日月のように醜く曲がった。

「あらあら、あなた、この傷………」

 勝ち誇ったような声音が、どこか遠くから聞こえてくるようだ。

 まるで飛行機に乗って飛び立った時のように耳の奥で耳鳴りがし、それと同時に鼓膜が直接空気の圧力をかけられたかのような錯覚を覚える。


 邪悪な視線に晒され、傷が疼く。

 背中が焼けるように熱い。


 苦しい。

 


 その時、閉じられていた王座の間の扉が外側から押し開かれた。


「だ、誰だ!!勝手に入ってくるのは!」

 大臣が声を張り上げるもすぐに、その顔に初めて、薄ら笑い以外の表情を乗せた。いや、表情が固まったとでも言おうか。


「王が、勝手に入ってきて、何か不味いことでも?」


 私の幻聴かな。

 聞きたかった声が聞こえた気がした。

 

 傍にいたはずのエカテリーナ嬢が離れていく気配を感じる。でも、どうしてか分からない。

 すでに視界は曇り始めていて、詳しく状況を把握できないでいたのだ。

 数人の声が行きかう中で、ただ意識を保たせるのが精一杯だった。


 ふわりと、身体が持ち上がる。


 腕を無理やり引っ張り上げていた手も、背中を踏みつけていた重圧も無くなった。

 代わりとでもいうように、ふわふわとした暖かな感触に身を包まれ、そこで初めて自分が誰かに抱えられた事を自覚した。


 どうにか目を凝らして見上げた先には、忘れようとしても無理だった、ジルの美しい顎のライン。

 



 う、そ。



「この世のすべてを敵に回しても、俺は彼女を守ると誓った。誰であろうと何であろうと、メイコを傷つける者は俺が許さない。この人に刃を向けることは、この俺、ジルベルト=アシル・オージェに向けるモノと思え」


 彼の姿を見ただけで、胸が高揚する。

 身体の訴える痛みがすっと何処かに消えて、代わりに彼に会えた事を喜ぶ心が私のすべてを支配する。


 その嬉しさや幸福感と一緒に、もうどこにもいかないで、と、彼に縋りついて泣きわめきたくなるそんな切なさすらも伴ったその気持ちは。



 私は、もうずっと前から、ジルを弟としてなんか見てなかった。

 いつかなんて、覚えてないけど、いつの間にか、彼は、私の中で男の人になっていたんだ。


 もう、自分の心を誤魔化せないと悟った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ