思わぬ人物との外出
いつもより更新が遅くなってしまいました。すみません。
これからまたお話が進みはじめます。
クラウディに連れられて移動したのは、渡り廊下のすぐ隣にある小さな噴水の前だった。記憶が正しければ、ここは城の本館と前館を繋ぐ場所だと記憶してるけど。
「あれ、ブライアン」
「………」
噴水の端に腰を掛けて憂いを帯びた面持ちで水の中を見下ろす人物を見つけて手を振った。
その隣に居たクラウディの雰囲気が一瞬緊張に引き締まった気がしたけれど、次の瞬間には掻き消えていたので、気のせいだと無視を決め込むことにする。
「メイコ様」
「どうしたの?」
「………それが」
「お、オレ、ヨウジガ、アッタノオモイダシタ。ジャ―ナ」
「え、ちょっと!」
見事なほど棒読みの台詞だけを残して、クラウディは文字通り走り去ってしまった。
「な、なんなの………」
意味が分からな過ぎて目を白黒させていれば、座っていたブライアンが戸惑う様子を隠すことなく私の隣に並び立つ。
身長差のため、立ったまま話すとブライアンが少し顔を下に傾けなければいけない。その時さらりと彼の長髪の髪が頬にかかった。
思ったよりも近い位置にいたようだ。
そこでようやく、彼がいつもの騎士服ではなく、簡素な私服のようなモノを着ていることに気が付いた。
「メイコ様、今日の予定って聞いてるか」
「うーん、なんか城の外に出るとか、なんとか」
でも、詳しい話をする前に張本人逃げちゃったけどね!
「なんでも、あんたがそろそろ退屈する頃だろうから、ちょっと城の外へ連れ出せってことらしい」
「あ、その話はほんとなの!?」
再び舞い戻った素敵なお話に、現金な私はすぐに機嫌を直す。
「お城の外は、危ないから出たらだめって言われてたのに」
という忠告は、私がこの城で暮らすようになってすぐの頃に言われたことだった。
状況が変わったのだろうか。そうとなれば話は早い。
思い立ったが吉日。早速行動に移そうではないか。
初めてのお出かけに笑みを隠すことなくブライアンの腕を取って歩き出そうとする。
「ブライアン」
お互い方向を揃え歩き出した直後、背後から声が聞こえた。
振り返った先には、何故かジルが立っていた。
その隣には先ほど逃げたと思っていたクラウディも。私の護衛騎士の名を呼んだのは、どうやら彼のようだ。
前回まで面会を断られていたというのに、最近は思わぬところでよく会う気がする。
いつものように顰め面の彼は、いつもの大袈裟に煌びやかな服装ではなく、ブライアンと同じ総な簡素な男性服に身を包んでいた。
「あー、すまねぇな」
結んだ髪に構う事なく己の頭部をガシガシと掻きながら、クラウディが口を開く。
髪が大変な事になってるんですけど。まぁ、それでも色男な感じは変わらないからいいのか。
「急に近衛騎士団の会議が入った。行くぞ」
「し、しかし」
「………メイコの護衛は俺がする」
「王自らですか!?」
食い下がろうとしたブライアンを、ジルの冷たい視線が射抜く。
思わぬ提案に驚きに声をあげる彼にこれ以上何かいう事もなく、ジルは渡り廊下から降りると、そのまま私の方へ歩いてくる。
腕を掴まれたままジルが歩くので、必然的に私も彼の後に続いて歩き出す事になった。
あっという間に遠くなる騎士二人。
ちなみに、その間の私とジルの会話はゼロである。
何が起きているか今一分からないが、とりあえずブライアンとジルが選手交代というだけの話で、私が城下に行く事に代わりはないのだから、ま、いっか。
「………」
ちらりと隣を歩くジルを見上げれば、私を見下ろしていたらしい彼の瞳とばっちり目があった。
「っ」
慌てて視線を逸らしてけれど、変に思われてないかな。
城下に行くだけなんだけど、大丈夫かな。
主に、私が。
✿ ✿ ✿
「お前さ、何にたんだ?」
残されたブライアンの隣にクラウディが並ぶ。
ブライアンの肩が情けないくらいに下がっていて、見てるだけで切なくなる。肩を叩いて軽く訪ねてみれば、無言が返ってきた。
少なからず覚えはあるようだ。
「………パトリシア様をこちらにお連れするとき、少々脅しの言葉を使ってしまいした。その上、メイコ様にかなり当たりが強く接していましたので」
ぼそぼそと説明する年下の騎士に、クラウディはなんとも言えない気持ちになった。
どちらかといえば、誤解とはいえ芽衣子を処刑しようとしたジルの方が酷いと思うのだが、それは身内の欲目なのかなんなのか。
この青年は、完全にとばっちりだ。
とはいえ、クラウディもジルには幸せになってもらいたいし、その相手が芽衣子であれば尚さら嬉しい。
結局、身内贔屓ということなのだろう。
「まぁまぁ。人生ってのは、そう上手くはいかねぇもんさ」
当たり触りのない励ましの言葉を送ると同時に若い騎士の肩に腕を回し、彼らは渡り廊下の奥に消えていった。
✿ ✿ ✿
城の裏門を潜って外に出てすぐに、引っ張られていた腕が離れた。
先ほどまで近く近くにあった彼の存在が、たったそれだけの行動で少し遠くに離れた気がして、少し悲しくなる。
おかしいな、なんでこんな事思うんだろう。
この間の渡り廊下の一件から、何故かジルを正面から見てられない。
見ようとすれば、真っ直ぐに私を見つめる大好きな銀河の瞳を見つけてしまい、どうしようもなく気恥ずかしくなってしまうのだ。
弟なのに。私、お姉ちゃんなのに。
理解できない自分の思考回路を無理やり片隅に追いやり、気を取り直して会話を試みた。
「ジルは、よかったの?王様なのに、こんな所に居て」
私の数歩前を歩いていたジルが、その歩幅を変えないまま顔だけで私を振り返る。その眉は不機嫌そうに寄せられていて、一瞬胸が大きく跳ねた。
見たことのない顔。大人になったその雰囲気。
彼は私の知るジルであって、ジルではない。
「俺が来ることは、不服か。………ブライアンの方がよかったのか?」
「ち、違うよ!!もちろんありがたいと思ってる!ただ、ほら、仕事大丈夫かなって」
「心配ない」
「そ、そっかー」
また流れる沈黙。
どうしたらいいんだ。
ジルが前を向いて歩いてくれててよかった。きっと今の私は情けない顔をしているだろう。
自分でも、顔全体の筋肉が緊張しているのがわかったし、そのせいで眉がこれ以上ないほど下がっているのも感じ取れる。
ちらりと目の前の白い髪を見つめた。
短髪だと思っていたけれど、その襟足は首元まで伸びていて、服の襟もとで揺れていた。
相手は弟。あの可愛らし弟なのだ。
呪文のように胸の中で同じことを繰り返す。脳裏に蘇る、黒髪だった出会った頃のジルの笑顔。
彼に気づかれないように小さく深呼吸をする。
落ち着け私。
その瞬間、脳裏を過った人がいた。
何故だろう、忘れていたことを忘れてたみたい。
高鳴っていた胸も、火照った身体も、まるで氷水を浴びせられたかのように冷たく収まっていく。
おかしなほどのぼせ上っていた思考もクリアになる。
思わず自嘲の笑みが浮かびそうになってしまった。
あぁ、そうだ。
私は、もう。
「ねぇジル!今日はどこに連れて行ってくれるの?」
努めて明るい声を上げて、私はジルの隣に並んで歩き出した。




