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誰がために鐘はなる

雨が降っている。

春先の冷たい雨が。


街が静けさを取り戻した次の日の夕方、街の人びとが広場に集まっていた。


冷たい雨がいる者全てを等しく重く濡らす。


この世界では弔いをする時に傘をさすことをしない。


広場にはたくさんの犠牲者が寝かされていた。


198人。

兵士、ハンターだけでなく街の人々、そしてドンも。


ドンのかたわらにはルルが居た。


白い髪が、腰にある紅い短剣にまで雨ではりついている。

泣いてはいないが、目は赤く腫れていた。


そんなルルが不思議そうに眺めているのは、ドンに祈る人びとの姿。


昨日から何も考えられなくなっていたルルは、自然と思考を働かせて目の前の光景を眺める。


ドンに祈る人びとの列は、広場の外まで伸びている。


犠牲者を祈るたくさんの人びとの中で、長い列を作り並んでまで祈られるドンだけが特別に見えてルルには不思議だった。


「この街はかつて彼に救われましたから」


声がしたほうをルルが見ると、赤髪の若い女性がすぐ側に居て目があった。


「ユーリス・アール・ゼクト・サァークと申します」


ユーリスはルルに名を名乗り、領主として、ドンが街を救ってくれたことの感謝と謝罪を述べた。


「かつて、ですか?」


ルルはユーリスにそう聞くと、自分が名乗ってないことに気付き慌てて名乗る。


ユーリスは微笑むとルルに話し出した。


「20年ほど昔、このゼクトの街は領主により悪政が敷かれていました」

「私の祖父にあたる、ゾイ・アール・ゼクト・サァークは、傲慢なだけでなく金に汚く、そのためにはどんなあくどいこともしていたのです」


「ユーリス様のお爺様がですか?」


思わず確認するルルに、ユーリスは、ええ、と頷く。


「税金はとんでもない額でとても庶民には払えず、そのせいで人間扱いさえしてもらえない街人もたくさんいたそうです」

「当時ドン様はこの街に泊まろうとしていただけの旅人だったそうですが、あまりの酷さにこの街を救おうと決心されたそうです」

「まずこの街で[南の巨人]にハンター登録をされたみたいですが、既に30歳だったドン様は周りからかなり馬鹿にされたそうです・・・しかしドン様は瞬く間に[Cクラス]になるとそれが逆に名声になりました」

「やがて名声を聞きつけた王都にあるハンターギルドから[Bクラス]昇格試練への権利をもらうとすぐに挑戦し、たった1週間で達成し遂げてしまいました」

「前代未聞の早さで[Bクラス]になったドン様がまずされたことは、この街の領主であり、伯爵のゾイ・アール・ゼクト・サァークにけんかを売ることでした」


「パパがそんなことしたんですか!?」


「はい、私は当時5歳でしたが今でも鮮明に覚えております」


ルルは、真面目で口煩いと皆から言われている父が、けんかを自ら進んでするのが信じられなかった。


ユーリスは目を閉じて話を続ける。


「ドン様は祖父に、これ以上好き勝手をするなら俺が許しはしない、と一言だけ言いました」


呆れたような、でも信じられないような顔をルルする。


「先ほども申しましたが祖父は傲慢な人でしたので、[Bランク]とはいえ、平民のドン様の態度に激怒したのです」


「それでパパはどうなったんですか!?」


ルルが先を聞きたがる。


父の話、それも本人がルルに全く話をしなかったハンターの話に、ルルはとても興味がわいていた。


「捕まりました」


「・・・ですよね」


ルルは呆れて、はあ〜と息をはく。


「ドン様は全く抵抗しないまま酷い懲罰を受け、そのまま牢に入れられました」

「本当ならそのまま処分されていたでしょう、祖父はそういう人ですから」

「けれども、ドン様は釈放されました」


ルルはじっとユーリス目を見て話を聞く。


ユーリスも熱弁しているのか、だんだん声高になりペースを上げる。


「王都に、王のもとに、オルタナ共和国のハンターギルド宗家[世界の理]の[Aランクハンター]、[賢者]ミラが突然訪問して来てこう言ったらしいのです」


「この国が、多々ある国々と違いハンターを優遇しないのは分かっています」

「優遇する必要はありません、しかし、正当な理由もなくただ無礼というだけで抵抗無きものを痛めつけ、ないがしろにすると言うのなら」

「ハンター組織は例外なくこの国におけるハンター活動を無期限停止することを、私は全てのハンターの代表としてダイクレスタの王に警告します」


「そ、それってすごいことなんですか?」


ルルがたまらず話を割った。


あきらかにユーリスはこの話の盛り上がりどころのように語ったのだが、ドンからハンターの話を聞いてないルルにはいまいち分からなかった。


ルルはユーリスにその旨を話し、説明を求めた。


「そうですね、何から説明したらいいのでしょうか」

「この国では[賢者]が言った通り、ハンターは優遇されてなどいません」

「しかし凶暴な獣や魔獣が頻繁に出没するオルタナ共和国やドリス王国、完全実力主義のアーガス帝国はむしろ優秀なハンターこそ貴族より優遇されるのです」

「一代とはいえ、貴族と同等の地位も無条件で与えられます」

「[Cランクハンター]なら下級貴族、[Bランクハンター]なら上級貴族、[Aランクハンター]なら王に立ち並ぶ地位を与えられます」


「じゃあ、[賢者]様って!」


ルルが驚く。


「地位で申し上げれば王であり、[賢者]ミラはオルタナ共和国を代表するようなお方ですので、ダイクレスタの王が[賢者]に失礼をするようなことをしたなら両国が争う事態もあり得ましたね」


「[Aランクハンター]ってそんなにすごいんだ・・・」


それだけではありません、とユーリスは説明を続ける。


「ハンターは国々の国境に捉われず、ギルドは各ギルドを置く国の枠に入りません、つまり、敵に回せば世界中のハンターギルドが敵に回ります」

「敵に回すというのは大袈裟ですが、ハンターが活動をしないというのはそれだけで国の死活問題です」

「なぜならハンターの力無しに、騎士や兵士だけで街や村を守るなんてどこの国でもできないと断言出来ますから」


すごい・・・とルルが感嘆する。


「ええ、・・・憧れますわ」


ユーリスが右手を頬にやり、遠くを見つめて呟く。


実はドンは、ユーリスの憧れの人であった。

かつて救われたのはユーリスもだったからだ。


ユーリスは自分も救われたのですとルルに語る。


ユーリスの祖父ゾイ・アール・ゼクト・サァークは最低と言える人間だった。


金に汚いだけではない。

傲慢なだけではない。


ゾイは女にもだらしなかった。


周りの女達には誰でも手をつけていたし、自分の母が慰みものになっていたのもユーリスは気づいていた。


さらに言えば、ユーリスの母が手を出されたのは決まってゾイがユーリスを訪ねたときだ。


どこから来たのか偶然ユーリスの母もユーリスを訪ねてきて、部屋に居たゾイを誘って連れ出していた。


あきらかにユーリスを守っていたんだろう。

何故なら、ユーリスと同じくらいの少女もゾイの部屋によく連れ込まれていたからだ。


「祖父はその後、王の勅命により、内密に謹慎処分を受けました」

「内密に済んだのはこの国がハンターを優遇しないのと、ドン様が、俺が個人的なけんかを売っただけだから、と申告したからだそうです」

「祖父はその件で引退するとすぐに病死しました」


そんなことが・・・とルルが呟く。


「わたくしにとってドン様は、この街だけじゃなく、わたくしの家も救ってくださった英雄なのです」

「もしもドン様がいなかったら、好き勝手していた祖父のせいでサァーク家は取り返しがつかないことになっていたでしょう」


街の人びとだけではありません。

わたくしも心から感謝しています、とドンに向かって喋りかける。


そんなユーリスを、ルルは涙をためてみている。


自分の知らない父が、自分の知らない場所で、自分の知らない人に感謝されている。


父のことを褒めてくれるのがルルにはとても嬉しかった。


でもそれを知らない自分が悔しい。

教えて欲しい、もっと父のこと。

知りたい!父がなにをしていたのか!


そしてルルは決心する、自分の進む道を。


「パパ・・・私、ハンターになってみる」

「私には大変だと思うけど、パパは私に力をくれたんだもの、きっときっと大丈夫だから!」

「だから見ててね、私のこと・・・ずっと・・・」


再び泣き始めた白い髪の少女。


やがて夕焼けに照らされた街には、大きな鐘の音が鳴り響いていた。

この話で序章は終わりです


ここまで見てくださり本当にありがとうございます


次からはやっとルル本人の活躍を書いていこうと思っています


ブクマ、評価して頂ければ大変嬉しく思います


たぶん泣いて喜びます・・・

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