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プロローグ

 アニメや漫画を見られなくなったのはいつ頃だっただろう。

 

 原因はよくわかっている。俺の地平線のごとく平坦な人生が原因だ。


 初めてそういったいわゆるフィクションの作品を見た時のことは今でもよく覚えている。11歳の春だった。そのアニメはどこにでもあるべたなラブコメアニメだった。クラスでは空気のような存在感の主人公が美少女転校生と仲良くなり、恋愛に発展していくといったありきたりなものだ。


 しかし、当時の俺はそのありきたりなアニメに感銘を受けた。高校生になるとこのようなきらびやかな学校生活が待っているのだと考えると毎日が以前より数段楽しくなった。


 そこから俺は中学卒業までアニメ、小説、漫画、映画を見あさるようになる。毎月のお小遣いのほとんどをそれにつぎ込んだくらいだ。親には注意されたが、そんなもので俺の欲は止まらなかった。


 累計いくつの作品を見てきただろう。イケメンな主人公や、ヘタレでコミュ障の主人公など様々な主人公、そしてそれぞれ彼らが歩む人生を見てきた。


 俺は高校生になった。

 無事、志望する高校に入学できたものうれしかったし、仲の良かった友達も同じ高校に入学できたこともうれしかったが、何よりも自分が高校生になれるという事実がうれしかった。


 今まで見てきた主人公たちの人生は大抵高校から始まる。急いでいたらパンを咥えた女の子とぶつかる~だとか、入学式に校門で美少女を助けて~だとか。


 入学式の日に家から出発したときの、高揚感や謎のそわそわした気持ちは今で覚えている。

 

 ここから俺の人生が始まるのだと思っていた。もちろんそれまでの人生も十分楽しかった。子供思いの母親や、優秀な兄もいる。もちろん友達だって人並みにはいた。強くはなかったが部活動だってしていたし、趣味にも没頭できていた。


 だが違う。俺の望んでいる人生とは違う。


 少し浮ついた足取りで学校に向かったが何も起きずに学校の正門についた。まだか、とは思ったがこれからの楽しみのほうがこの時は大いに勝っていた。


 何も用事はないのに何かが起きることを期待して、微妙に咲いた桜の花の下に立ち尽くしてみたが、だれも俺に見向きもしない。


 さすがに入学式に遅刻するわけにもいかないので、体育館に向かった。俺の知っている体育館よりもすこし暗かったし、校長先生の話は長かった。


 入学式が終わり、掲示されているクラス分けを確認し、クラスに向かった。ここからが本番か、と思った。しかし、その日はとくに何を起きることはなかった。


 焦り?のようなものを感じ始めたのはこのくらいだっだ。美少女ヒロインは来ないし、座席も廊下側の一番前。かわいい女の子はいるが、女子で固まっているし、俺に興味なんて持っていない。


 そのまま何も特別なイベントは起きないまま数か月が過ぎた。

 仲のいい友達はできたし、担任の先生もそこそこだ。ソフトテニス部にも入って励んでいる。

 早速あった校外学習もとても楽しかった。定期テストもあったが、平均点以上をとれるくらいの頭はあったので、難なくやり遂げられた。


 はたから見れば普通の充実した高校生活を送っているように見えただろう。実際そうだ。学費も両親が払ってくれるし、困った時に助けてくれる友達もいる。彼女はいないが、これだけでも十分といえよう。





 


 しかし望んでいたのはこれではない。こんなのきいていない。美少女ヒロインはどこに行った。夏は光っていないし、春は来たけど始まらない。起承転結のある彼らのような人生を送れるのではなかったのか。






 

 冒頭に戻ろう。

 俺はあんなに好きだったアニメを見られなくなった。

 アニメや漫画が嫌いになったわけではない。ただ、気づいてしまったのだ。自分はこうなれないと。

 俺は全員があのような人生を送れるのだと本気で思っていた。

 あの主人公たちは、ちゃんと主人公だったのだ。

 「こいつよりは」と、俺がすこし見下していたヘタレで陰キャでコミュ障なあの主人公も、ちゃんと主人公だったのだ。

 たしかにあの主人公よりはあらゆるスペックは俺のほうが高いかもしれない。しかし彼は主人公で、俺は主人公になれない。


 レンタルショップで借りていたアニメのCDをゴミ箱に捨てた。ただ捨てるだけじゃ飽き足らず、CDを割って捨てた。破片が床に飛び散って掃除がめんどくさかった。


 そんな悩みを抱えていたが俺は変わらず学校に向かってしまう。たぶんあの主人公ならこの場面で、不登校になったり、一人で遠いところにあてもなくいくだろう。俺は学校を休むことさえもできなかったのだ。


 毎日の普通に楽しい日々が俺を侵していった。

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