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そろそろ人間の町へ行こうと思います

俺が十二歳になった年、父さんは初めて本物の剣を握らせてくれた。


木を削って作った練習用の剣でもなければ、魔物の骨を加工した訓練用の剣でもない。


黒い刀身に赤い模様が走る、父さんが自らの爪を削って作ったという剣だった。


ちなみに、その剣を受け取った当日、俺は三度も死にかけた。


一度目は、父さんが尻尾を振るった時。


地面に飛び込んでいなければ、上半身が丸ごと吹き飛んでいただろう。


二度目は、父さんが口から炎を吐いた時。


剣で炎を切り裂けなければ、跡形も残っていなかったはずだ。


そして最後は、模擬戦が終わったと思って背中を向けた時だった。


背後から飛んできた爪を間一髪で避け、俺は地面を転がりながら叫んだ。


「終わったって言ったじゃないですか!!」


『敵の言葉を信じる馬鹿がどこにいる』


「父さんは敵じゃないでしょう!」


『はっ! 訓練中は敵だ』


それから五年が経った。


「お兄様、右です!」


ルナの声が聞こえた瞬間、俺は姿勢を低くした。


頭上を巨大な爪が通り過ぎる。


巻き起こった風だけで、周囲の木々が根元から揺れた。


俺はそのまま地面を蹴り、正面へと潜り込む。父さんの前脚の下へ滑り込んだ後、剣を上へと振り抜いた。


ドンッ!


剣と鱗がぶつかり、鈍い音が響き渡る。


父さんの前脚がほんの少し持ち上がった。


『たったこれだけか、リオン!』


「うわああっ! 本当に力を抑えてるんですよね!?」


『うむ。当然だ』


「くうっ、全然そうは感じないんですけど!」


俺は後方へ跳び退いた。


父さんが大きく息を吸い込む。喉の奥に赤い光が灯った。


また炎だ。


「くそっ! この炎が一番厄介なんだよな!」


俺は剣を両手で強く握った。


今度は正面から受け止めるつもりだった。


その時、上空からルナの声が響いた。


「父さん! お兄様が危ないじゃないですか!」


白い光が空から降り注ぐ。


ドゴオオオン!


爆発と共に、父さんの頭が横へ押し流された。


つい先ほどまで父さんが立っていた場所には、巨大な穴が空いている。


俺は剣を持ったままルナを見上げた。


「おい、ルナ」


「はい?」


「今、俺も近くにいたんだけど……」


「お兄様なら避けられるじゃないですか」


「いや、まあ、そうだけど……」


ルナは空中からゆっくりと降りてきた。


風魔法で身体を浮かせる程度、ルナにとっては散歩と変わらない。


腰まで伸びた銀色の髪が、風に乗って柔らかく揺れていた。


見た目だけなら、おとなしくて華奢な少女だ。


たった今、山一つを崩壊させかけたという事実を除けば。


父さんがゆっくりと顔をこちらへ向けた。


赤黒い鱗の隙間から、薄い煙が立ち上っている。


『ルナ』


「はい、父さん!」


『今のはなかなかだった』


ルナの顔がぱっと明るくなった。


「わあっ、本当ですか?」


『だが、魔力を温存しすぎだ。敵を攻撃する時は、痕跡すら残すなと教えたはずだぞ』


「次はもっと頑張りますね!」


「次は俺がいないところでやってくれ……」


俺の言葉に、ルナはくすりと笑った。


これが、俺たち兄妹にとってのごく普通の朝だった。


俺たちの父親は竜だ。


それも、普通の竜ではないらしい。


本人の話では、数百年前に人間の王国三つが連合を組み、父さんを討伐しようとしたことがあるという。


まあ、結果は父さんが昼寝から目を覚ますより先に、討伐隊が逃げ出して終わったそうだ。


その話を聞いたルナは、父さんに尋ねた。


「うーん……王国三つって、多いんですか?」


『さあな。人間の住む場所は小さいから、よく分からん』


もちろん、俺たちにも分からなかった。


俺たちは生まれた時から、この山で暮らしてきた。


本当の両親が誰なのかは覚えていない。


父さんは昔、森の中で泣いていた俺たちを見つけたらしい。


最初は近くの人間の村に置いて帰ろうとしたものの、ルナが父さんの尻尾にしがみついて離さなかったそうだ。


そうして俺たちは、竜の手で育てられることになった。


父さんは俺に剣術と狩りを教え、ルナには魔法を教えた。


俺もある程度は魔法を使えるが、ルナとは比べものにならない。


俺が必死に集中して火球を三つ作る頃には、ルナは空一面を火球で覆っていた。


反対に、ルナは剣をまったく扱えない。


以前、剣を振って自分の身体を深く切りそうになったことがあり、それ以来、父さんはルナに刃物を持たせなくなった。


「お兄様、本当に行くんですよね?」


ルナが尋ねた。


俺たちは洞窟の前に並んで立っていた。


俺の背中には父さんが作ってくれた剣があり、ルナは小さな鞄を背負っている。


荷物は多くなかった。


着替えが数着と干し肉、それから父さんが持たせてくれた鉱石や鱗が何枚かあるだけだ。


今日は、俺たちが初めて山を下りる日だった。


数日前、ルナが人間の町へ行ってみたいと言った。


俺も同じことを考えていた。


父さんから学べることは多いが、人間がどのように暮らしているのかは、実際に見なければ分からない。


何よりルナは、同年代の友達を作りたがっていた。


この山にいるのは、竜と魔物ばかりだ。


父さんは最初こそ反対していたが、ルナが三日間休むことなく頼み続けると、最後には渋々許してくれた。


父さんはルナのお願いに弱い。


『人間は弱い』


父さんが言った。


『だから、力加減をしなければならん。分かったな?』


「はーい、分かってます」


「俺たちも、もう子供じゃないんだから、そんなに心配しないでください」


父さんは俺とルナを順番に見下ろした。


『リオン』


「はい」


『ルナをしっかり守れ』


俺は当然だというように答えた。


「はい。命を懸けて守ります!」


「お兄様、そこまでしなくてもいいよ」


「駄目だ。人間の世界には、どんな危険があるか分からないだろ」


「どう考えても、私よりお兄様の方が心配なんだけどなあ」


「うっ……」


ルナはぷっと吹き出した。


父さんは満足そうに頷いた。


『ルナ』


「はい」


『リオンが無茶をしたら止めろ』


「任せてください!」


「どうして俺は守る役で、ルナは止める役なんですか……?」


『適材適所だ』


少し納得がいかなかったが、言い返すことはできなかった。


俺たちは父さんに最後の挨拶をした。


ルナは父さんの巨大な前脚に抱きつき、俺も手のひらで硬い鱗を一度撫でた。


寂しくないと言えば嘘になる。


だが、永遠に離れるわけではない。


王都という場所を見て、人間の暮らしを学んだ後、また戻ってくるつもりだった。


「行ってきます」


「お土産を買ってきますね、父さん」


『ああ』


父さんは顔を背けた。


『さっさと行け。ぐずぐずしていると日が暮れるぞ』


俺たちは山道を歩き始めた。


何度も振り返ったが、父さんはずっと別の方向を向いていた。


隣を歩くルナが、小さく笑った。


「父さん、泣いてるのかな?」


「竜も泣くのか……?」


「昨日からずっと、目にゴミが入ったって言ってたじゃないですか」


「洞窟の中なのに?」


「だからですよ」


俺たちはしばらく笑いながら歩いた。


山を下りるのに、半日もかからなかった。


幼い頃から毎日駆け回ってきた道だ。


崖は飛び降り、谷は跳び越えた。


途中で出会った巨大な猪は、夕食用に仕留めておいた。


そうして森の外れまでやって来た時だった。


「お兄様」


ルナが足を止めた。


「人がいます」


俺もすでに気づいていた。


血の匂いと、魔物の匂い。


そして金属同士がぶつかる音が聞こえる。


俺たちは同時に木の上へ跳び上がった。


少し離れた街道に、三台の馬車が止まっていた。


武器を持った人々が馬車を囲み、その外側を黒い狼たちが取り囲んでいる。


狼は全部で十二頭。


中でも一番大きな個体は、普通の狼の三倍ほどありそうだった。


武器を持った者たちは、すでに疲れ切っていた。


何人かは地面に倒れ、馬車の中からは悲鳴が聞こえてくる。


俺は眉をひそめた。


「あの人たち、危なそうだな」


「助けた方がいいですよね?」


「当然だ!」


俺は木の上から飛び降りた。


ルナも後に続く。


黒い狼の一頭が俺たちに気づき、顔を向けた。


口元から黒い唾液が垂れている。


俺は剣を抜いた。


父さんが最後に言った言葉を思い出す。


人間は弱い。


だから、力を加減しなければならない。


よし。


初めて会う人たちの前だ。


あまり荒々しく戦って怖がらせてはいけない。


俺は剣先を低く構え、ルナに言った。


「ここでは、できるだけ大人しく片づけよう」


ルナも真剣な表情で頷いた。


「はい! 魔法もすごく弱くしますね」


その言葉を聞いた黒い狼たちは、一斉に俺たちへ襲いかかってきた。





父さんが俺たちに戦い方しか教えなかったわけではない。


父さんは大昔に人間たちと交流したことがあり、人間の言葉や文字にも詳しかった。


そのおかげで、俺たちは幼い頃から父さんに人間の言葉を教わっていた。洞窟の中には父さんが人間たちから集めた本も山ほどあったため、読み書きにも特に困らない。


もっとも、本で学んだ知識と実際の人間の暮らしがどれほど違うのかは、まだ知らなかったが。


これからもよろしくお願いいたします!


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