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 さあっと音をたてて、海の上を風が吹き渡っていく。

 徐々に冷えつつあるそれは秋というこの季節に見合っていたが、まだ冬の訪れには遠いようだった。

 緩やかに体を揺らす波。高く低く響く、ざあざあという潮騒。

 視界に映るのはどこまでも広がる青い空と、青い海。


「ま、まぶしい……」


 大きな黒の瞳を眇め、少女はぼそりと呟きを零した。

高く澄んだ蒼穹はどんな宝石よりも輝かしく、陽光は世界を明るく照らし出している。

――だが、何一つ遮るもののない海上では、これらは全くもって人身に優しくなかった。


「ちょっと、甘く見てたかなぁ」


 小舟の上の人影は、そう言いながら海風に煽られた頭上の布を引っ張った。ほとんど気休めでしかない日除けでも、ないよりマシだ。

 頭の中で海図を思い描き、膝頭に顎を乗せて考える。

 今の時季の海流を思えば、そろそろなのだが。


「予定だったら、このあたりで海岸が見えて来る筈なんだけど」


 潮の匂いのする風に攫われそうになる黒髪を手で押さえ、水平線へと目を凝らす。

 しかし、青色だけが広がる眼界に見えるものと言えば、せいぜい魚を狙う海鳥くらいだ。


 はああああっ。


 深い溜め息が出るが、仕方がない。それでも、まだ猶予はある筈だ。

 そう自らに言い聞かせつつ、水に流され傾きかけた櫂に手を伸ばそうとした時だった。


「…………?」


 ほんの一瞬、目の隅を小さな黒い影がかすめた。


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