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3話 新たな所有物を手に入れた!


 私はへたりこんだ状態で、呆然と少年を見上げた。

 少年は血を吐きながら、ふっと小さく笑った。


「何して……どうして避けなかったのよ! せめて槍を砕いていれば!」


 そこで私はようやく気がついた。彼が避けていれば、槍は私を貫いていたのだ。それに、槍を砕きたくても、傷だらけの身体にそんな力は残されていなかったのかもしれない。


 血だらけの槍が引き抜かれて、少年は私の前に膝をついた。


「ちょっと、しっかりして!」

「ごめんなさい、お嬢様。恩を、お返し、したかったのに……」

「恩って……」


 恩と聞いて頭に浮かんだのは、この子に押しつけたイチゴタルトだ。


「え、嘘でしょ? あのタルトひとつで、命をかけて私を助けようとしたの?」


 少年は何かを答えようとして、激しく血を吐いて倒れた。

 とっさに支えようとしたけど、手足を拘束された私には、見ていることしかできなかった。


「ねえ、しっかりして! 返事をしなさいよ!」


 少年は、今にも消えそうな浅い呼吸を繰り返している。その命の火をかき消すように、人々の野次が激しさを増した。


「なんだよあいつ! なんでそんなクズ女を守ろうとするんだよ! つまらねぇことすんな!」


 うるさい。


「おい、さっさと処刑しろー! それを楽しみにしてんだからよ!」

「そうよ、そうよ! 聖女様を傷つけた大罪人を早く殺して!」


 うるさい、うるさい、うるさい。


 正気を取り戻した執行人が、少年の身体を退かせようと手を伸ばす。

 その行為が私の怒りに触れた。頭の奥がかっと熱くなる。


「触らないで!! これはこのアビゲイルの所有物なんだから!!」

「うおぉ!? いきなり炎が!?」


 私の身体から放出される炎を見て、執行人が腰を抜かした。私の炎は、少年の身体にも燃え移った。

 熱なんて感じないくらい、頭が煮えたぎっている。


「理解したわ……やってやるわよ」


 私の何気ない行為が、彼をここへと導いた。

 それがきっと、この処刑台を回避するための鍵。


「絶対に抜け出してやるわよ!! こんなふざけた死の牢獄からね!! おーほほほほ!!」


 私は炎に包まれながら、天を見上げて高笑いした。




 気がつくと目の前にステラがいた。彼女はティーカップに口をつけようとしている。


「飲んじゃだめよ」


 今度は手首をつかんで止める。

 ステラはきょとんと首をかしげた。


「アビーさん?」

「ハーブが古くなっていることに今気づいたわ! 新しいものを取り寄せるから飲まないでちょうだい!」

「腐る、平気! 私の胃、ひじょーに頑丈!」

「だから、あなたがそれを飲むと私が死刑になるから困るって言ってるの!」

「死刑!?」


 ステラがおびえたように、ティーカップをそっとソーサーに置いた。

 それでいいのよ、と私は内心ほっとする。

 でも、「デケンベル家の娘は、お茶会に誘っておいてお茶ひとつ出さない」なんて噂されても困る。


「仕方がないわね……」


 私は右耳につけていた青紫色の石がついたイヤリングを外して、ステラに差し出した。


「デケンベル家の紋章が入っていない宝石よ。これなら売っても盗品だと怪しまれないはず。これを売って好きものを買いなさい」

「え? 売る、できない! これ大切なもの!」

「そうね、だからこそよ。それが今、私にできる最高のもてなしってこと」


 ステラは頬を紅潮こうちょうさせて、感激したように目を輝かせた。


「か、かっこいい!」

「当然よ。ほら、受け取りなさい」


 私はステラに無理矢理イヤリングをにぎらせると、素早く椅子から立ち上がった。


「あら、ごめんなさい、私用事を思い出したわ。では、さようなら!」

「え!? アビーさん、待って!」


 必死に呼び止めるステラを無視して、私は足早に家に戻った。

 なぜなら私は、早くあの子に会わなきゃいけないから。私を助けるために、命をかけてくれたあの子に。


 息を切らしながら家に帰り、少年を探す。例の少年は中庭で掃除をしていた。

 

「ねえ、そこの下僕!」

「え? 僕ですか?」


 振り返った少年の身体に傷はない。私はほっと胸をなで下ろす。

 そうよ、私の所有物が傷だらけなんて格好悪いもの。


「あなた、イチゴタルトが好きでしょ?」


 少年は困ったような顔をして言った。


「えっと、食べたこと、ありませんが……」

「じゃあ、食べなさい! 今すぐ! あなたは筋肉をつけて十二神を倒さなきゃいけないのよ!」

「え!? 十二神を倒す!? 僕が?」


 少年は私の言葉に、ぎょっと息をのんだ。


「そうよ、私のふざけた未来を変えるには、あなたが必要なの!」

「僕が必要、ですか?」

「そう言ってるでしょ! だから、イチゴタルトでも何でも好きなものを食べさせてあげる! 返事は?」


 少年はびっくりしたように目をしばたたかせて、あわててうなずいた。


「は、はい! タルトを食べて十二神を倒します!」

「いい返事ね! さあ、やるわよ私の所有物! 私の望む未来のために何度だって死に戻ってやるんだから!!」


 私が天に向かって右手の拳を突き上げると、少年もぎこちない動きで、天に拳を突き上げた。


面白い! 続きが気になる! と思っていただけましたら、


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