2話 救世主登場だわ!
はっと我に返ると、ステラがティーカップに口をつけようとしているのが見えた。
「飲んじゃだめ!」
私は立ち上がってティーカップを叩き落とした。カップが床に落ちて割れる。前にも見た光景だ。
「アビーさん?」
ステラが驚いた顔でこちらを見上げている。
さすがに二度目の処刑ともなると、認めざるを得ない。
これは夢じゃない。あの痛みや熱はすべて現実!
「というか、ティーカップを割っただけじゃ、前回と同じ展開になりそうね」
「え?」
「おほほほ、こっちの話よー!」
割っただけでは、罪状が変化しただけで処刑は免れない。
だったら、口に入れさせないようにすればいい。
「ステラ! あなたに飲ませるハーブティーなんてないわ! 床に落ちた液体も絶っっ対に飲むんじゃないわよ!」
ステラは目を丸くして、こくりとうなずいた。
取り巻きの令嬢たちが「最高に悪女してます!」と私を褒め称えている。悪い女ってなんて良い響きなのだろう。
「じゃあね、ステラ! 私は帰るわ!」
「え!? 待って、アビーさん!」
引き止めようとするステラを無視して、私は足早に家に戻った。理由はひとつ。私の火属性魔法を試すためだ。
私は部屋に戻ると、処刑台の光景を思い浮かべながら、部屋の中央に向けて右手を突き出した。
すると、右手の先に巨大な火の玉が出現した。火の玉はその場で燃え盛り、しばらくして命が尽きるようにスッと消えた。
「な、何これ!? 今までこんな威力出たことなかったのに!」
私の魔法は感情に反応して火が出る魔法。特に、怒りに強く反応する。
つまり、私は処刑台に送られることで激しい怒りを感じ、その怒りを制御できずに自分を燃やしてしまうらしい。
「ふざけないでよ!」
怒声を上げると目の前で火花が散った。
「あ、危なっ!」
あわてて火の粉を手で払う。一度処刑台という激怒イベントを体験したからか、ちょっとの怒りでも魔法が発動しやすくなっているらしい。
「こんなところで何度も死んでたまるか。私は誰よりも長く、美しく生きてやるんだから! おーほほほほ!」
「あの、お嬢様」
「うわっ!?」
背後からの声に驚いて振り返ると、そこには灰色の髪の少年が立っていた。私よりも背が高いけど、栄養が足りていないのか全体的に細い。
たしか、最近雇ったばかりの新人の下僕だ。薄汚れているけど、綺麗な顔をしている。
「私に何か用かしら?」
「旦那様がお呼びです。急いで部屋に来てほしいと」
「あら、お父様が? わかったわ」
私はまだ手をつけていなかったイチゴタルトを、その少年下僕に差し出した。
少年下僕は困った顔をして、イチゴタルトと私を交互に見る。
「えっと、お嬢様、これは?」
「今の私は気分が良いの。あげるわ!」
「そんな、いただけません! 僕はただの下僕で……」
「主人の親切を無駄にするつもり? デケンベルの下僕、つまり私の所有物に餌付けしてるだけでしょ? 受け取りなさい」
「僕がお嬢様の所有物……」
少年下僕は目を大きく見開いた。そして、宝物に触れるような手つきでタルトを受け取った。
「ふふ、下僕には一生縁のないものでしょうね。私に感謝して味わうといいわ!」
「はい、大切にします」
「そうしなさい! さあ、今参りますわよ、お父様!」
私は一礼する少年下僕の横を通り過ぎて、勢いよく扉を開け放った。
しかし、扉を開けた先には憲兵隊が待ち構えていた。
「は?」
私はあっという間に拘束され、見慣れつつある処刑台に連れてこられた。
「はあぁぁぁぁ!? どーなってるのよ!? 聖女には何も飲ませていないでしょ!?」
顔なじみになりつつある執行人が、小馬鹿にしたように笑って言った。
「聖女様の悪評を流して陥れようとした、と聖女様親衛隊からの告発があった」
「何よそれ!? 何の信憑性もないじゃない! そんなくだらない理由で私を死刑にしてんじゃないわよ! こんなの無効よ、無効!」
「ま、日頃の行いってやつだ。クズにはいつか正義の鉄槌が下るのだよ」
「誰がクズよ! だったらお前が死刑になりなさいよ、クズ野郎!」
「あっはっは! 残念ながらお前が死刑~!」
「こいつクズすぎるわ!!」
こんなのおかしい。私が何をしようと、死ぬことが決まっているようなものだわ! そう訴えたところで、誰が私を助けてくれるだろう。
同僚である十二神たちも、部下である神官たちも、誰ひとりとして私を助けにこない。
私の口から、歯ぎしりの音が漏れる。
「ちくしょうだわ……こんなところで終わってたまるか! お前たち全員道連れにしてやろうか!? ああ!?」
「おー怖っ! やれるものならやってみろ!」
執行人だけでなく、処刑場に集まった人々の嘲笑う声が聞こえてくる。
あまりの悔しさに、涙の代わりに目元から火花が散った。
負けを認めるなんて私らしくない。必ず生き残って、誰よりも長生きして、誰もが私を崇める世界を作ってやる。
そう決意したその時、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢様!」
「え、誰!?」
見物客の間から躍り出たのは、あの少年下僕だった。
「どうして、あの子が!?」
少年下僕は人々の間を縫うように駆け抜けて、行く手を阻む憲兵隊の頭上を軽々と飛び越えた。
誰もが私の死を望む中で、たったひとりだけ、私を助けようとしている。
ちょっとだけ……ううん、本当はすごく嬉しい!
「処刑の邪魔をするな!」
「余計なことするなよ! 俺たちはその女が死ぬところを見にきたんだ!」
人々の非難の声を無視して、少年は処刑台に上がった。
待ち構えていたように、執行人が斧を振りかぶる。
「邪魔をするならお前も死刑だ!」
少年は執行人をにらんで、振り下ろされた斧の刃を素手で殴り砕いた。
執行人は呆然として、ただの木の棒と成り果てた斧を見つめている。
私も「へ~! 斧って素手で砕けるんだ~!」なんて頭の悪い感想しか出てこなかった。
「すごいわ……我が家にこんな使用人がいたなんて!」
少年は次から次へと襲いかかる憲兵たちを薙ぎ倒していった。
憲兵隊が全滅すると、今度はひとりの魔術師が風をまとって現れた。
「十二神のひとり、第八の守護者パロット! 参る!」
パロットと名乗った魔術師は、少年に向かって風属性魔法を発動させた。
少年は風の刃に身体を切り裂かれながらパロットに肉薄し、無防備な頭を蹴り飛ばした。
「ぐはぁ!?」
パロットは白目をむいて、そのまま群衆の中に落ちて即退場した。
私は高揚感に包まれ、子供のようにはしゃいだ声を上げていた。
「すごい! つよーい!」
「いえ、それほどでも」
少年は照れくさそうに小さく笑った。風属性魔法を受けたせいで全身ズタボロだけど。
「それほどでもあるわよ! 相手は一応、高位魔術師の十二神。彼の魔法を受けて平然と立っていられるなんて、普通ではありえないわ!」
「僕は、それなりに頑丈ですので。お嬢様、今お助けしますね」
「え、ええ! でも、あなた傷だらけじゃない。大丈夫なの?」
「これくらい平気です。今手足の拘束を解きますから」
少年が私に歩み寄る。その背後に、槍を構えた十二神の姿が見えて、私はとっさに叫んだ。
「避けて!!」
私が叫んだのと、槍が少年の左胸を貫いたのは、ほぼ同時だった。
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