1話 なぜか私が燃えるんだけど!?
しばらく連続投稿します。
「悪女、アビゲイルの斬首刑を執行する!」
「は?」
人々の大歓声が上がる。
私はなぜか手足を拘束されて、処刑台の上に座らされていた。
私はアビゲイル・デケンベル。十八歳。
魔術師の名家デケンベル家の生まれで、王をお守りする高位魔術師である「十二神」のひとり。
「ちょ、ちょっとふざけないで! 十二神の私にこんなことをして、ただで済むと思ってるの!?」
「罪状を読み上げる」
執行人が私を無視してそう言うと、再び歓声が上がった。
「イェアーーーー!!」
「そんなのいいから、早く斬首、斬首!!」
「ヒャッハ~~!! たぎるぜー!!」
人々にとって処刑は娯楽のひとつなのか、飲み物と軽食を持って私の処刑を眺めている。
私は怒りと屈辱で顔をゆがませた。
「ふざけんなーー!! 何見てんのよ、見せ物じゃないわよ!?」
「静かにしろ、アビゲイル。お前は聖女様を殺害しようとした大罪人なのだぞ!」
「してないわよ! お茶会をしていただけじゃない!」
「飲み物に毒物を混入させ、毒殺しようとしただろう」
「毒殺!? ただの便通に良く効くハーブティーを出しただけじゃない!」
「自白したぞ!」
執行人は言質をとった、とばかりに高らかに叫んだ。
こいつ殴っていい?
「自白じゃないわよ! それに、聖女だけじゃなくてあいつにも飲ませたわ!」
「あいつとは?」
「婚約者……いえ、浮気したから元婚約者よ! 聖女に浮気して、私に恥をかかせたのだから当然よね? 今頃ふたりともトイレの住人よ! おーほほほほ!!」
処刑場がしんと静まり返る。
執行人は力強くうなずいた。
「よし、斬首執行!」
「ちょ、執行すんじゃないわよ! ただのハーブティーで死刑って何!? ヤダヤダ待って、まだ死にたくない!」
その時、処刑場を囲むようにして建っている神殿内から、青髪の青年と金髪の少女が出てきた。
人が多くてよく見えないけど、ふたりは仲睦まじげに寄り添い合っているように見える。
元婚約者と聖女だ。ふたりに対する怒りが、沸々と煮えたぎってきた。
「あいつら! ハーブティーごときで死刑になる私を笑いにきたの!? 元はと言えばあいつらが悪いんでしょ!?」
元婚約者は聖女と浮気をするし、聖女は私に、元婚約者との仲を自慢してくる性悪だ。
「というか、ふたりともピンピンしてるじゃない! あの濃縮ハーブ全っ然効いてないわ!!」
ふたりの頑丈さに激怒していると、ゴォォォォと何かが燃える音と焦げたにおいがした。
視線を落とすと、私の身体から火が噴き出しているのが見えた。
「な、何これ!? まさか、イライラしすぎて、『感情に反応して火が出る』魔法が発動してるの!?」
落ち着いて私、冷静になれば消えるはず!
私は気分を落ち着かせるために、何度か深呼吸をした。
けれど、私を包む炎は鎮まるどころか、私の意思に反して勢いを増した。
「嘘よ、こんな強力な火属性魔法、一度も発動したことないのに! どうして今になって!?」
手足の拘束のせいで、私はろくに身動きがとれないまま炎に包まれた。
それを見たお年寄りたちが目を輝かせて集まってくる。
「おお! 自ら火刑を選ぶとは、悪女ながら天晴れですな!」
「よく燃えておりますのじゃ」
「あったかいのぉ~」
「暖とってんじゃないわよクソジジイどもぉぉぉぉ!!!」
叫んだ拍子に喉が焼けた。もう声が出ない。
嘘でしょう? 私はこんな退屈な死を迎えるの?
身体を焼く熱と痛みで、意識がかすんでいく。
「ア……アビーさん」
誰かが呼んでいる。私ははっと我に返った。
「え?」
私の目の前には聖女ステラが座っていた。彼女は不思議そうに首をかしげている。長い金髪が揺れて、ハーフエルフの特徴である尖った耳が見えた。
「アビーさん、大丈夫?」
「ええ、もちろんよ! 処刑される夢を見ていたなんて、なんて縁起の悪い……」
先ほどの出来事はすべて夢だとわかって、ほっと安堵する。
私は調子に乗っているステラをお茶会に誘って、このカフェテラスでハーブティーを飲ませようとしていた。
これで今日一日はトイレの住人だとほくそ笑む。
そこでふと、先ほどの夢を思い出した。
「そうだわ、この子には効かなかったはず……」
ステラはこの国の王と同じ、「病を治す貴重な治癒魔法」を使うことができるため、ラピスブルー王国では聖女として崇められている。
彼女自身の自然治癒能力も尋常ではなくて、「左胸に鉄パイプが刺さってもピンピンしていた」なんて噂されるほど、ちょっとのことではくたばらないらしい。
「だったら、このハーブティー絶対効果ないじゃない……私のお馬鹿!」
「えへへ、お茶会楽しい!」
ステラは上機嫌に笑って、ティーカップを手にとった。
私の脳裏に「毒殺」という単語がよぎる。
「飲んじゃだめ!」
私は身を乗り出して、ステラの手からティーカップを叩き落とした。
床に落ちたティーカップが、ガチャンと音を立てて割れる。床にミント色の液体が広がった。
「あ、あら? 私ったら何を?」
あれは夢よ、ハーブティーごときで死刑になるわけがない。そう思いこもうとしても、嫌な予感が胸にあふれる。
顔を上げると、ステラがきょとんと目を丸くしていた。
腹が立つくらい可愛い顏をしている。その顔を見ていると、身に染みた悪女精神がむくむくと頭をもたげ始めた。
「ふふ、あなたごときにこのティーカップはもったいないわ! 床に広がった液体を舐めるのがお似合いよ! おーほほほほ……あら?」
私は目の前の光景に目をぱちくりとさせた。気がつくと、私は手足を拘束されて処刑台に座らされていたのだ。
「はあぁぁぁぁ!?」
むかつく執行人。処刑を待ち望む人々。私が見た悪夢と寸分違わぬ現実が広がっている。
「ちょ、おかしいじゃないの! 納得できないわよ! ハーブティーは飲ませていないでしょ!?」
執行人はあきれた表情で言った。
「きったねぇ床を聖女様に舐めさせようとした。よって、お前は死刑~~!」
「ふざけんな!! 罪状が雑すぎるでしょ!? こんなの認めないわよ!!」
怒りに任せて叫ぶと、ゴォォォォっと嫌な音が聞こえてきた。背中にじわりと冷たい汗がにじんだ。
「こ、この音はもしかして?」
私は恐る恐る自分の身体を見た。
案の定、私は燃えていた。
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