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6 話が大分違う

「お兄さま、ただいま戻りました」


 庭園に植樹された梢がさらさらと揺れ木漏れ日が踊る。東屋には高貴な者が長椅子に座って待っていた。


 大理石のステップから緋色の絨毯にアーネスとサイが上がると、二人は片膝を立てこうべを垂れた。


「お帰り、アーネス。彼が例の者か? 」


「はい、お兄さま」


 そういうと、アーネスは後ろに控えたサイのフードをめくり、その顔を王子マドリアスに見せた。マドリアスは席を立ちサイに近づくと、その姿をマジマジと眺めた。


「なるほど、これは凄いな」


 サイの姿は、マドリアスの生き写しのようだった。アーネスと同じ青い目と肩に掛かる金髪、魅惑の目鼻立ちを完璧な輪郭に納めて、彫刻家が垂涎しそうな美形。ただ、不安げな表情を除けば。


「私が修学していた剣術学校の同期サイは、対象者の魔力を模してその見目形を装う事が出来ます。幻影魔法の類です」


「それで、彼を僕の影武者にして、魔星の谷の竜王の牙を取ってこれるのか? 」


「私とサイで、魔星の谷に向かいます。お兄さまは城で私たちが戻るのをお待ちくださいませ」


 片膝を立てて黙って聞いていたサイは、わなわなと震え始めると、堪らず言い放った。


「ちょっと待て、アーネス! 魔星の谷に行くなどという話は聞いていないぞ! あんなところに……」


「言っただろう? 兄上さまの影武者を務めて欲しいと」


 その憮然とした態度に苛立ち、サイは立ち上がるとアーネスにけしかけた。


「俺が聞いたのは、同じ姿をしろと言われただけだ。魔星の谷に一国の王子の振りして行くぅ?! まして、竜王の牙?! 生身の人間が行くようなところじゃないぞ!! 」


「……私も行くぞ」


 アーネスは自信満々だ。


 マドリアスが目を細めてサイを眺める。サイは、ほぼ同じ背丈のマドリアスと目が合った。以前遠目で見た時の印象と、間近で見る麗しさでは格段の差があった。魔力を模しただけでは、この美男子の内から出る艶やかさは簡単には真似出来ない。


 目を合わせて思わず惚けてしまうほどだ。


 ——いやいやいや! アーネスの《《お兄さま》》の為になんで命張らなきゃならないんだ!


 首を振って合わせた目を慌てて床に下ろした。


 マドリアスがふうと息を吐くと、


「アーネス、私のために無理することはない。例え竜王の牙を得て王位に就いたとしても後ろ盾も弱く自分の身一つ守れないなら、幽閉される前に亡命するか帝国の人質にでもなった方がいい」


 この国ブルクルタでは、王位継承権が二人の王子の間で争われていた。第一継承権を持つマドリアスは聡明だが魔力が微弱で、異母弟の第二王子ググランデが伯父である大臣ゲオルドと第二王妃ザリアデラが結託して次期王位を狙っていた。


 その内争を収めるべく、魔星の谷の竜王の牙を持ち帰った継承者候補に王位を継承させるという事になった。


「彼でも魔星の谷に辿り着けるかどうかも……」


 諦めるような声を漏らしたマドリアスに、アーネスは聞き流せない話をする。


「ですが、お兄さま。私たちには味方があまりいません。力のある多くの者は皆、かの大臣に抑えられています。ここにいるサイも……私たちに所縁のある者として狙われています」


「はぁ!? 俺が狙われてるなんて聞いてないぞ! 」


 神妙なマドリアスの話を黙って聞いていたサイが、アーネスの聞き捨てならない話に声を張り上げた。


「あぁ、話してなかったか? 私たちの手の者が次々と消息を絶っている。元々少ないのにな」


「お前はいつも話を端折りすぎだろ! 」


 俺は——ここに来る時に、普通の服を用意してやるからお兄さまに化けてみろと言われただけだ。


「だから、お前も何者かにやられた様に見せかける必要があった。ギルドに刀鍛治士と登録してなくて良かったな。魔剣を造れると気が付かれたらどうするんだ」


「嘘だろ——!! 」


 マドリアス王子は長椅子に戻り肘掛に体を傾けると、俺たちの悶着を優雅に観劇し始めた。


——この人も一癖ありそう……。

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