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41 生還の報告

 城ではその日、大臣ゲオルドと第二王妃ザリアデラの罪状についての王の間において裁判が行われていた。


 二人の罪状は、マドリアス王子に殺害を企てた一件においてだった。


「陛下、マドリアス王子のでっち上げでございます。私たちはかような事をするはずはございません」


 二人はそう言い張るが多勢で王子に剣を向けた事に、ユーネイアが証言者として立ち上がっていた。


「ユーネイア姫は、マドリアス王子と結託して、かような嘘をついている」


 ゲオルドは居直った。ユーネイアはその言葉を受けても、背筋を伸ばして悠然とゲオルドから目を外さない。か弱いイメージの姫君が無言でその強い意思を示すと、時期王妃と望まれた風格が漂った。


 一方、ザリアデラはゲオルドと別々に捕らえられていた為、ゲオルドにググランデの出生がマドリアスにバレている事を伝えきれずにいた。地下に幽閉していたマドリアスの腹心が脱走している……何を語られても罪状が増えるだけなのだ。


「そもそも、マドリアス王子は魔星の谷に向かって旅立っていたはずなのに、なぜこちらにいらっしゃるのでしょう? これは国王陛下及び家臣、国民を欺いた事になりますぞ」


 国王は玉座から見下ろし、ゲオルドの言い草にため息をついてから問いかけた。


「戻ってきた事を公表していないだけとは思わぬか……。ググランデ達の様に出立する際に殊更ことさら公にしていたわけではない。城に戻ってきた事に何か瑕疵かしがあるのか」


 ゲオルドはぐうの音も出ず俯いた。国王は続けた。


「ユーネイア姫は帝国からの使者でもある。マドリアス王子と結託して嘘をついているとなると、帝国に沙汰を伝えねばならぬが」


 つまり、国王はユーネイアが嘘をついていると認めないと言うのだ。


「国王陛下、マドリアス王子よりも先にググランデが竜王の牙を持ち帰れば全ての問題は解決致します。今一度、この裁判を後日問う事になさいませぬか」


 ググランデ達が精霊の森に既に入った。アイネイアス姫と影武者とほぼ同時に入ったと聞いている。ゲオルドは無謀な冒険に期待を託した。


「聞いたところによると、マドリアス王子は魔星の谷に向けて影武者を使っていると報告がございます。こうなっては、目の前にいるマドリアス王子が本物かどうかも真偽に問わねばなりませぬ」


 ——完全に墓穴だと、ザリアデラは思い唇を噛んだ。ググランデが戻って来ては出生が明るみになってしまう。胸から下げていた魔道具を失ったググランデは王族の血を受け継いでいないのが魔力でバレてしまう。魔力のない多くの者は欺けても。今までこの兄にどれだけの嘘をつかされて来たか……ザリアデラは目眩を起こし倒れた。


 王の間はざわめいた。王の間に集う家臣達の隙間からザリアデラに駆けよる者が現れた。


「母上さま!! 」


 マールクだった。その後にガーグルが現れた。ザリアデラは、溺愛するマールクと抱き合った。よもや今生で二度と会えないと覚悟すらしていた。


「おおっ! ガーグル、もしや、竜王の牙を持ち帰ったか!! 」


 そこにググランデがいない事を気にも止めずゲオルドはガーグルに期待の声を上げた。


 ガーグルは雇い主であるゲオルドの前を通り過ぎ、国王陛下の前に跪くと頭を深々と下げた。


「陛下、急報の無礼をお許しください」


「許す。申せ、ガーグル」


 ゲオルドはガーグルの裏切りに驚いた。


「ググランデ王子、魔星の谷より精霊の森を抜け帰還の途につきましてございます」


 おおっ!! 王の間はその報告にどよめいた。ゲオルドもガーグルの報告に興奮した。


「尚、アイネイアス姫も出立の準備が整い次第道途につくとの事でございます」


 再び王の間はどよめいた。それぞれがこの城に向かって帰還の途についたというと、どちらかが竜王の牙を持ち帰るというのか、それともどちらも諦めたのか。


「……両名は無事であるか? 」


 国王は姿勢を保つガーグルに問いかけた。


「はっ。両名とも無事でございます」


 国王は安堵した。家臣達も顔を見合わせ、二人の無事に様々な顔色を見せた。ただ、ゲオルドに組みしていた者達は一様に青い顔を戻さずにいる。


 その時だった。


 王の間に、城の内外から群衆が騒ぐ声が流れてきた。感嘆の声と恐怖にひきつれる声とが複雑に入り混じった騒ぎ声だ。「何事だ」と、王の間も悲鳴にも似た焦りの声が上がった。先日は大流星群が起きて、この世の終わりの始まりかと大騒ぎになった後日なだけに狂わんばかりの喧燥けんそうとなった。


 騒ぎの元に駆けつけて、多くの者はテラスや庭園に躍り出た。


 城壁を超え、王城の上空を旋回する黒い影——竜王。

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