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4 城一つ買えるそれ

 早朝、寝不足を引きずる俺はアーネスに壊された戸の修復をしている。板材が足りず、壊れた戸を継ぎぎにするしかない。情けなくて涙が出そう。


 そんな俺の悲しみも知らず、無法者の王女アイネイアス姫こと、アーネスが背後ろに立った。


「おはよう。いい天気だ。早速だが私についてきてもらおう」


「何がおはようだ! 早速だ! 俺はお前について行くいわれはない。帰ってくれ」


 アーネスはいつも端的にしか物を言わない。それでどれだけ理不尽なことに巻き込まれたか。


「お前を見込んでここまで来たんだぞ? 」


「相変わらず人の話を聞かずに偉そうだな。俺はここまで来るのに三年がかりだ。奨学金分の返済をしながら、やっとここまで……」


「お前にあげた物があっただろう。あれを売れば一生遊べる金になると思うが」


 あれのことか! あれは売れない。あんな物を買い取れる質屋などない。金持ちのところに持っていけば、出所を調べられて騙し取られるだけだ。下手したら監獄行きだ。ちょっと調べただけでも城が立つ代物だ。


 人の目玉ほどの大きさを持つクラック一つない最高品質の青い宝石。その周りを世界中から集められた宝石が彩り良く囲う。超一級の職人による繊細な彫りが施されたブローチだ。国宝レベルのそれを渡されても、平民の俺には心臓が何個あっても足りない。


 俺は腰に下げた袋から飾り箱を取り出し、そのブローチをアーネスに突き出した。


「これは要らない。持って帰れ! 」


「私は一度人に施した物を受け取りはしないぞ」


 ——施しただと?


 アーネスは朝日を背中に浴びながら、斜めに構えて俺を見下す。キレイな鼻筋と長い睫毛が輝き、この三年間でさらに美しく磨かれて——残念極まりない。


「さっさと他国の嫁にでも行け! 」


 憎まれ口を言ったが、アーネスは全く意に返さない。


「私には《《お兄さま》》にお仕えする使命があるのだ! よその国の妻など勤めていられるか! 」


「……俺にその使命は関係ないからな! 」


 ——こいつのブラコンに付き合うと、ロクな目に遭わないと分かっている。命がいくつあっても足りない。

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