39 大臣ゲオルド
ザリアデラ王妃のサロンには、剣を携えたマドリアスとユーネイアが、呼びだした者を待っていた。ユーネイアを護衛する者がいれば、震えるザリアデラの後ろに立つ剣士の姿もあった。
しばらくすると、ザリアデラの兄である大臣ゲオルドが従者を連れて血相を変えて現れると、サロンの様子を見て驚愕した。
「ザリアデラ、どういう事だ! 」
ザリアデラから急用と呼び出されたと信じていたゲオルドが、マドリアスによる策略だと知るや否やマドリアスに向かって剣を抜いた。マドリアスは悠然とした態度を崩さず、ゲオルドに向き合う。
「王族に刃を向けるとは、これは謀反と言われても構わぬか……」
魔力にも剣術に長けていると自負するゲオルドは、不在のはずのマドリアスをここで殺してしまえばいいと決することにした。
「間抜けめ! 魔力のない王子などにこの国を任せられるものか」
ゲオルドの側近と兵士がサロンに突入すると、マドリアスは懐から魔法円を描いた幾枚もの護符を取り出すと次々に発動させた。
有刺鉄線の様な稲光がゲオルド達に走った。彼らが手から武器を落とすと、激しい腕の痺れに苛まれ悶えた。
「くううっ……」と、一太刀もマドリアスに向けられなかったゲオルドは、腕の痺れに苦痛の声を漏らした。
「魔力は微弱でも魔術を使う事は出来る。随分と見くびられていたのだな」
隠れていたマドリアスの兵士たちが、ザリアデラとゲオルド達次々に縄で拘束した。
「赤子だった私に呪いをかけた魔導士は今、何処にいる」
マドリアスがゲオルドに問うた。ゲオルドは目を背け沈黙する。
「口封じに殺したのか……」
マドリアスはその確信に倦厭とした。