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22 双子のような二人

 俺の幻の卒業剣術大会は、優勝者のいない結末を迎えた。しかし、表彰式の二人の準優勝者には惜しまない大喝采が浴びせられた。


 さっきまでの土煙舞う闘技場に特別な貴賓を迎えたため、赤い絨毯が惜しみなく敷かれての表彰式が行われた。


 並んで表彰を待つガーグルが俺の肩を軽く叩き、俺を褒め称えた。


「アーネス、お前がいる時に卒業出来て良かったよ。優勝出来た方が箔がついたが、ひさびさに命の駆け引きを思い出させるいい闘いだった——」


 求められた握手は、戦歴を感じる手の厚みとやたらに優しいぬくもり。俺はここでアーネスの貴人ぶりを演じる。


「ああ、私もガーグル、君と卒業出来て嬉しいよ。君のような剣士と闘えたことを誇りに思う」


 俺が目を細めて優雅な微笑みをガーグルに向けると、ガーグルからは憧憬の眼差しが返ってきた。


 俺は男だというのに、そのイケメンぶりに当てられた。戦士の強さに男の色気が漂う。


 ——こいついい男だな!


 ガーグルはアーネスに特別な気持ちがあるんじゃないかと思う。そりゃそうだろ、この二年間でアーネスを慕い恋心で狂ったやつを何人も見てきた。被害者、主に俺。


「それにしても——あのお姫さまは、お前にそっくりだな。姉妹か何かか? 」


「いや、赤の他人だよ……」


 ——俺にとってはな。


 表彰式のステージに、特別来賓のマドリアス王子とアイネイアス姫が招かれ、俺たち二人がこの二人に表彰を受けることになった。


 優勝者がいない代わりに準優勝者には、マドリアス王子特別賞と急遽アイネイアス姫特別賞が設けられた。


 アーネスに扮した俺とアイネイアス姫がまるで双子の様に向かい合う。片方は美と強さを兼ね備えた剣士、一方は美しいドレスを纏う花の乙女。まるでロマンチックなおとぎ話の世界だと観衆の目には映っただろう。


 何が嬉しくて、卒業出来なくなった俺がアーネスに成り代わって準優勝賞と本人からの特別賞を受賞してるんだよ! 俺は道化か!


 大会の総てが終わった後、俺はアーネスの格好から解放され身体の汗と汚れを流すと自分の寮室に戻った。部屋にはいつものアーネスがいた。


「アーネス、お前……」


 怒る気にもなれない。怒ってキレれるなら、もうとっくにキレている。二年で卒業するんだからと我慢していたはずの目的すら失った状況でも。


 だが、一言言っておかないと。この身勝手さで泣く人間がどれだけいるか知ってもらわなければならない。


「アーネス、なんで俺をこんな目に。卒業出来なくなったじゃないか。なんでこんなことを……」


「お前がお前のままで試合に出れば良かっただけなのに、なんでだ? 卒業したかったんだろ? 」


 ……正論過ぎてぐうの音も出ない。


「お前、私と初戦で当たったら手を抜いてサッサと負けるだろうしな」


 ……その通りだ。


「分かったよ。俺の運が悪いだけなんだ! お前と同期になった事も、たまたま同室になった事も、お前に利用される俺の特異能力もな!! 」


 二年間を総て否定し俺は吐き捨てるように叫んだ。こんなことを言うつもりじゃなかった。何で俺の方が後悔しなきゃならないんだ。俺はアーネスから目を背けるのに、アーネスは俺の顔をジッと見つめる。


 しばらく沈黙が続いた。


「そうだな。私もサイがサイとして闘うところを見たかった」


 静かな口調でアーネスがそう言うと俯いた俺の顔を覗き込み、俺の唇に柔らかいアーネスの唇を押し当ててきた。フワッと女の香水の匂いがした。


 驚きで硬直する俺からゆっくりと離れて、アーネスは部屋から出ていった。それっきり、卒業式も何もかも放り出して。


 俺一人だけになった部屋の机の上に、アイネイアス姫特別賞記念品の箱が置かれていた。この国では王族しか持てない青い大きな宝石のブローチだ。


 最後まで悪ふざけの酷いアーネスだった。

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