21 気取れない闘い
決勝戦を迎えた闘技場は、歓声の渦に飲まれている。剣を構え踏みしめただけで土埃が立ち、フィールドは汗と敗者に飢えている。
ガーグルは、俺がアーネスに化けていると気がついたりしないだろうか……
ガーグルの目を見る。彼には俺がどんな風に見えているのだろうか……
いや、今は、アーネスには俺がどう見えているのかの方が大事なのかもしれない。
試合開始の銅鑼が鳴り響き、俺は先駆けてガーグルに真正面から挑んだ。
いきなり刃と刃がぶつかり合う音で、一瞬にして誰もが絶句する。俺は反動で身を翻し着地するとそのままガーグルの脇についた帯紐に向かって剣を走らせる。
防具にいくつかの下げられた帯紐に剣が当たれば勝負が決まるが、ガーグルはそれを許さなかった。
俺の突撃をかわすと、剣の柄で俺を地に叩きつけようとした。傭兵経験のあるガーグルらしい敵をねじ伏せる反撃だったが、予測していた俺は狙われた腰を回転させて避けた。
フィールドに転がり全身に土煙を浴びて、俺は立ち上がると、一段と歓声が大きくなった。
その場から動かなかったガーグルがジワリと俺との距離を詰めてくる。俺はガーグルの利き手から逃げる。俺とガーグルは円を描き始めた。
そこからは幾度か剣をぶつけ合い、退きあってはの攻防戦が続く。
俺は午前中二人分の試合をこなした体力の消耗が祟ってきた。ガーグルは強い。近い未来、帝国にまでその名を轟かせるであろう豪剣で俺を追い詰める。観戦試合でなかったら、一刀に伏されるだろう。
息が荒くなる。泥を浴びたように身体が重い。ただ、そこには立ち塞がるガーグルしかいない。
——誰だ
俺の身体に精神に何かが蠢く。俺が織り成したアーネスの魔力にそいつの魔力が融合する。
刹那、斬撃の嵐。激しい撃ち合いになり、刃のぶつかる音が耳に痛いほど闘技場に鳴り響く。
ガーグルと俺は互いの目を合わせ、闘いに没頭した。ポイントを取れば決まるはずの試合が死闘になり、誰も止めるものはいない。
何かに取り憑かれたように俺は剣を振りかざした。
ついにガーグルの剣が折れて、同時に俺の手から剣が落ちた。