17 お前誰だよって話
日が落ちるのが早い山間の集落の道を、宿に向かってサイとアーネスは歩いていた。辺りは真っ暗になろうとしていた。
「酒は飲むなとあれほど言っておいただろう! 」
アーネスはサイの片手にある酒瓶を奪い取ろうとしたが、……間に合わなかった。
酒瓶を罠にサイはアーネスを力づくで抱きしめた。
「何をイライラしているんだ、アイネイアス。堅物すぎるぞ。ちっとは愛想を使えって……」
サイの様子がらしからぬ態度に変わると、アーネスは察した。
「……お前、まさか、また」
「まぁ、そこが可愛いとも言えるけどな」
アーネスがサイを振り解こうと対抗するほど、強く羽交い締めにしてくる。暴れるアーネスを揶揄うように首元に顔を埋めて首筋にキスを繰り返す。
「ふふっ——」
「こいつ、調子に乗って!! わ、やめろ! し、尻を揉むな!! 」
「はっ、怒りっぱなしは美容に良くないぞー! ……力抜かないと、魔星の谷まで保たないぞ……」
「はぁ!? …………お前、誰だ」
——こいつはサイじゃない誰かだと、アーネスは感じた。
抵抗しても無駄な相手にアーネスは諦めて、サイの胸の前に挿し入れていた腕を下げた。
「それはまだ先な」
邪魔な腕が抜けて二人の身体は密着すると、サイはアーネスにキスをした。アーネスはされるままに任せ、何度も交わすキスに応じながらサイの背中から首に指を這わせると、一刺しの薬針を突いた。
「……っつ、お前、またそういう……」
「——何百年経っても変わらない男ってどうかと思うぞ」
魂が抜けたかの様にサイの身体が倒れるのをアーネスは抱きかかえ、そのまま宿に連れ帰った。