16 だって店の子がくれたし
酒場の平和をぶち壊しに来た荒くれ者たちが、全員床に倒れている。呻き声は聞こえるが、立ち上がる者はいない。
「危ないところを有難うございました」
食器が幾らか割れた損害はあるが、最小限の被害で済んで、酒場の亭主と店の女の子たちが喜んだ。
「村役場から人を呼んできてくれ」と、アーネスが言って、気を失ってないヤツから次々と衣服を破いてはそれを使って縛り上げていく。縛り上げる痛みで悲鳴を上げて気絶する男たち。
——本当に情け容赦ないな。
と、思いながら俺もそれをやった。全員を締め上げたところで村の役人が到着し、後を任せた。聞くところによると、ごく最近この近くで被害を出し始めた山賊らしい。
アーネスが亭主に食事代を払うと、どうやら損害分以上の代金を渡したようで、亭主が涙を流し感激していた。おそらく世間からしたらトチ狂った金銭感覚の額だと思う。もう、見慣れすぎて何がなんやら。
酒場の外に出ると、日が暮れかかっていた。ちょっと早いが後は宿で寝るだけだ。かけられたビールが臭い。
「サイ! お前の持っているのは何だ? 」
振り向いたアーネスが俺の飲んでいる瓶を気にしている。
「えっ? さっき店の子がくれたから……」
「まて、どこまで呑んだんだ? 」
「ん、まだ、ここら辺から……ここら辺?……」
——ここら辺から、俺はどうやら別人になったらしい。記憶がない。