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15 災難な荒くれ者たち

「このままではググランデに追いつかれてしまう」


 そう言って、不機嫌なアーネスが俺に向かって文句を垂れる。


 何度も言うが俺は当事者じゃない。何で王国の継承争いに巻き込まれ死地に向かうような真似をしているのか、自分にも問い正したいぐらいだ。


 この村の先は未踏の深い森が続いて、馬を使えるない。道無き道になるという。やがて精霊の森に入って行くことになる。


 俺とアーネスは、村に一軒しかない酒場で少し早めの夕食を楽しんでいた。楽しんでるのは育ちの貧しい俺だけだ。アーネスも多少は平気なようだが、下々の食事に食欲が湧かないらしい。野営となったら、俺もそこそこのグルメぶりを発揮するが。


「仕方ないじゃないか。刺客は来るし、それも段々と手練れになってきたし……お前たちに味方がいなさすぎなんだろ? 先々で歓迎されてるだけ有難くないか? 」


 よく煮込んだ野菜と腸詰めの肉を頬張って、俺はアーネスにテキトーな態度を取る。


「サイ、何を吹っ切れてる? 」


 膝をついて呆れた顔をするアーネスだ。俺の文句は決まっている。二年間同室で培った神経を舐めんなよ。


「あのなー! お前に俺は住処を破壊されたんだ。しかも追われる身になってる? この旅が終わったら、流浪の旅で他国に逃げるんだ。今の俺に、安住の地はないんだよ。分かるか? お姫様!! 」


「しっ! 声が大きい! 」


 バシンッと口を塞がれた。容赦したようだが、油断するとこいつの馬力でこの酒場の壁まで吹っ飛ばされてもおかしくない。


「はいはい」と、俺は飯に食らいつく。


 だいたい、アーネスがド派手な美貌を晒して、目立つ胸もあるし……男装しているお姫様だろうって誰もが思うじゃないか。自覚ないって凄いぞ、こいつ。


「……それと、ちょっとぐらい酒呑ませてくれてもよくない? 気分程度で良いからさぁ〜〜」


「はぁ? 」


 完璧な形をしたアーネスの唇が歪み、アーネスの手が俺の顎を掴んだ。凄みを効かせて怒り出す。別に特別酒が好きなわけじゃない。それにしてもお酒でなんか俺やらかしたっけ?


 グイグイと顎を締め付けられるのに対抗し、首を振ってアーネスの手から解放されると同時に、酒場入り口から物騒な空気が雪崩れ込んできた。


「時化た酒場だなぁ!! 今から俺たちが盛り上げてやっから、せいぜい持て成せよ!! 」


 荒くれた無法者たちが次々と酒場に乱入すると、それまで飲食をしていた村の者たちが一斉に酒場の外へと逃げ出した。裏口を塞がれ逃げ遅れた亭主と店の者が怯えている。


 しかし、良くも悪くも本当に怖いのは目の前にいるアーネスだ。それに慣れている俺は、荒くれ者たちに怯える事はない。今の最優先はメシを口に掻っ込む事だ。


 酒場の中が厳つい者たちで埋まりきると、そいつらの目線は俺とアーネスに向けられた。


「おう! お二人さんは帰れねぇな。俺たちの酌をしろ!! 」


「ちょっと待て、こいつはトンデモネェ上玉だぞ? 女じゃねぇか! 」


 ——よせばいいのに。と言うのが俺の意見だ。熊のような武芸者どもを立ち所にぶっ潰す悪魔のようなアーネスに絡むとは……


 呑気にアーネスに絡む男たちを眺めていたら、俺の頭上に逃げ出した客のビールが注がれた。


 ——ビールは、頭からかぶるもんじゃないぞ!! 俺は立ち上がるなり、俺の気分を逆撫でしたそいつをぶん殴った。


 テーブル二つ分ほど吹き飛んだ男に、酒場は騒然となった。ちょっと手加減したぞ。


 それに合わせるように、アーネスが片っ端から荒くれ者たちを拳で殴り始めた。


「こいつら、やる気だぞ! 」


 ——今更遅い!!


 一度後ずさった男たちが次々と武器を手にして、本気の戦闘態勢を取り始めた。店の女の子が悲鳴をあげる。正直、武器なんか役に立たない。むしろ、手加減が緩くなり致命傷を負わせかねない。


 アーネスと俺は、元々酒場にいた者以外を全員素手で殴りまくり床に転がした。


 気に食わないのは、アーネスがテーブルも椅子も一切壊さずに暴力を振るったことだった。

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