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13 送り届けてやろうか

 外は夜空の雲が晴れてやがて月明かりがユーネイアの寝所に射し始めると、人影の輪郭だけだった三人の姿は、その表情までよく見えるようになった。


 ググランデは、ユーネイア姫付きの美しい官女がマドリアスの女装と分かり狼狽した。あわよくば愛妾にでもと考えていたググランデは、全身の血の気が引くやら恥ずかしさに憤るやらと嫌な脂汗をかいた。


「あ、兄上は魔星の谷に向かったのではないのか! あれは影武者か! 」


 ベッドの上で四つん這いのままのググランデに、マドリアスはユーネイアを横に足を組み直して座った。


「お前の知るところではない」


「陛下や家臣の者たちを謀るとは、不敬ですぞ! この不正が明るみになれば兄上の王位継承権は剥奪されますぞ! 」


 ググランデは動揺と気恥ずかしさと怒りに興奮し、ぶるぶると声を震わせて喚いた。一方、マドリアスは口の端を僅かに上げて苦笑している。


 薄い衣のナイトドレスを着た華奢なユーネイアが凛々しいマドリアスの腕に頼って寄り添う。二人は恋人同士を描いた絵画のような美しさを片恋のググランデに見せつけた。


「……そもそも何も、私たちが竜の牙を直接持って帰る条件であったか? それとも、第三の王位継承権を持つ者が持ち帰れば事情も変わってくるが……私にはその選択肢も悪くない」


 ——第三の王位継承権を持つ者


「はっ!? もしや!! 」


 盲点を突かれたググランデが四つん這いから思わず仰け反り後ろに倒れそうになる。王族で最も強い魔力の血を受け継いでいるのは、王女アイネイアスだ。兄であるマドリアスに忠臣的に仕える姿に、ググランデは継承権のあるライバルとして見なしていなかった。


「それに——」


 マドリアスは、ググランデが先程まで身につけていた首飾りを目の前にかざした。


 大きく青い丸く磨かれた宝石の周りに様々な色の宝石が散りばめられたそれを、ググランデに見せつけると、ググランデは後がないほど後ずさった。


「あ、兄上……」


 そうググランデが許しを請うような声を発したかと思うと、マドリアスはその宝石を掌の上で魔力を込めて粉砕した。


 ググランデの顔から力が抜ける。マドリアスに魔道具を破壊するほどの魔力があるのは想定外だった。


 何故だ? マドリアスは王族の中でも魔力が微弱はずだ——


「この様な紛い物で、王族の血を継いでるとよく言えたものだ」


 その魔道具が発していたのは王族の魔力を模したものだった。


「こちらの不正の方が、よほど王位継承権剥奪になるかと思うが。長い間、異母兄弟として情が私なりにあるのだ。ググランデ……今夜の事は不問にするが、どうする? 」


 砕かれた魔道具を目の前にして、王族の血筋を持たないと悟られていた事に驚いたググランデは、マドリアスの問いに怯えベッドの端から転げ落ちた。


 落ちた拍子に、這いつくばって寝所から撤退しようとするググランデを、マドリアスは手を取って立ち上がるのを助けると優しい言葉をかける。


「親愛なる弟よ、外は暗すぎる。お前の寝所まで送り届けてやろうか? 」


「け、結構だ!! 」


 もがく様にマドリアスの手を払いのけて、ググランデは逃げる様に寝所から出て行った。


 暗い廊下をググランデがあちこちでつまづいて倒れる音が続いて、寝所に残された二人は笑いを静めるのが大変だった。


 その夜の一連の騒動が終わり、マドリアスはユーネイアにお国騒動を詫びるのだった。

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