17話
今度はアルヴィス視点で物語の根幹に触れる話になります。
エリナ側のものと合わせて想像してみてください(;^ω^)
エリナが決意を固めている一方で、王城にいるアルヴィスは執務室の隣にある自室のベッドで休んでいた。いつもならば鍛錬に出かけている時間だ。だがどこか身体が怠さを感じて起き上がる気にならなかった。
「……」
寝転がりながら、己の額に手を当てる。特に熱さも感じないけれど、自分の手が熱いからということも考えられるのであまり比較対象にはならなさそうだ。そもそも体調管理には気を配っていたはずで、ここ最近は眠れないこともなかったし、食事だってきちんと摂っていた。エリナが不在の中で、アルヴィスまでもが体調を崩すわけにはいかなかったから。それなのにこの体たらくだ。
コンコン。
そこへ小さめのノックの音が届いた。エドワルドだろう。アルヴィスは上半身を起こして、声を張り上げた。
「入れ」
『失礼いたします』
扉を開けて入ってきたのはエドワルドとディンの二人だった。この二人が揃って顔を出すと言うのは珍しい。いつもならばディンは執務室の外の扉か、執務室内で待機したままここに入ってくることはないというのに。
「エド、ディンもか。おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます、アルヴィス様。ご気分でも悪いのですか?」
ディンは扉付近で静止し、エドワルドはアルヴィスの元まで歩み寄ってきた。その表情には心配だといわんばかりだ。そんなエドワルドにアルヴィスは力なく笑う。
「少しな……力が入らない」
「熱は? 少し熱い、でしょうか……」
そっとエドワルドの手の平がアルヴィスの額に触れる。先ほど自分で触れた時とは違い、冷たさを感じた。やはり熱があったのだろうか。
「特師医を呼んでまいります」
エドワルドとアルヴィスの会話を聞いていたディンが一礼をしてから部屋を出ていく。あの様子ではすぐに特師医を連れて戻ってくるはずだ。
「アルヴィス様、他に何か具合が悪いことなどありますか?」
「いや、特にない」
本当に気怠いだけだ。頭痛がするわけでもなく、苦しいわけでもない。身体に力が入らない。両腕を持ち上げて拳を握りしめてみるも、やはりどこか弱々しく感じてしまう。
「昨夜は何か変わったことでもしましたか? 私が知る限りではいつも通りだったと思いますが、知らぬところで何かしてはおられませんよね?」
「書庫で読み物をしていただけだ」
「禁書庫ですか? その時に何かいつもと違うことはありませんでした?」
呆れたように溜息を吐きながらエドワルドが問い詰めてくる。昨夜も禁書庫にいた。ただ先日のような痛みに襲われることはなく、それ以外の異変が起きるようなこともなかった。ただ書物に目を通していただけだ。
「本当に何もない。隠してもいないからそんな顔をするなよ」
「貴方の何もないは信用に足りません。理由はご自身の胸に聞いてください」
「……流石に今の状況で隠し事はしない」
「隠していないということは気づいていないことだってあるのです。ご自身がどれだけ鈍いのか、きちんと自覚してから言ってください」
「うっ……」
心底呆れたと、額に手を当てながらエドワルドは緩慢な動作で首を横に振った。気づいていないことも有ると言われれば、この件についてアルヴィスが否定できるものはない。下手をすればアルヴィス自身よりもエドワルドの方が知っていることだってあるだろう。
そんなやりとりをしているところへ、特師医フォランを伴ったディンが戻ってきた。早速と診察を始めるフォランのために、エドワルドもその場から下がる。
「陛下、怠さを感じるということでしょうか? 他に症状はございますか?」
「あまり力が入らないくらいだ」
「ふむ……」
ポウっとフォランの両手が白く光る。温かいマナの光がアルヴィスの両手を包み込んだ。そこから流れてくる力にアルヴィスは己の委ねるようにして目を閉じる。酷く心地いいのはフォランのマナが優しいからなのだろう。他人に流し込むマナでありながら、暴力的ではなくただ優しく包み込むようなマナだ。
「どうでしょうか、フォラン様」
「過労からくる発熱、と思いますが……陛下のマナが少々変質しているようにも感じられます。それが違和感となって陛下に負担をかけているのやもしれませぬな」
「変質……」
「今は安静にしていることで、回復なさるでしょう」
二日程度は安静にしているべきだと伝えられ、フォランは部屋を後にした。ついでに書類仕事程度であれば目を瞑るけれど、それ以外の動き回るようなことはしないようにと釘を刺して。
「フォラン様もわかっておられますね」
「流石に付き合いが長くなってきたからな」
「ともあれ、朝食はいかがなさいますか? 食欲がないようでしたら、粥のようなものでも用意するようにお伝えしますが」
「そうだな、頼むよ」
「承知しました」
全くないわけではないけれど、いつものような食事は摂れそうにない。フォランのマナによって多少は身体も楽になったけれど、解決には至っていなかった。
エドワルドが出ていった後で、アルヴィスは己の右手の平を目の前へと持ってくる。フォランは変質していると告げていた。心当たりはあるけれど、そんなつい最近のことではない。禁書庫、その奥にある部屋、ゼリウムとの邂逅で起きたのはエリナが旅立つ前のこと。だがそれ以外に心当たりはない。もしかすると、先日の異変が引き金となっているのだろうか。
「ゼリウムと、あの少年……そしてルシオラか」
絵姿を見る限り、あの三人は仲の良い家族のように見えた。だが今、少年はルシオラを憎んでいる。ルシオラはそのことに気づきながらも、受け入れているように感じた。ならばゼリウムは……。
「大神であるゼリウム。だがあの記憶の中で彼は確か……」
墓地で見た記憶。その中でゼリウムだった彼は飲まれていたはずだ。闇色の霧の中へと。当時、ルシオラは女神ではなかった。今は二人とも神として崇められているけれど、ならばゼリウムは一体何を成したのだろう。何を成そうとしたのだろうか。ルシオラに見せられた記憶があるはずなのに、その中には不自然なほど彼の姿は出てこない。否、その時は既にそこにいなかったのではないか。ならば大神という名が示すものは何か。
そこまで考えてアルヴィスは勢いよく頭を振った。
「まさかそんなはずはない……それこそ、まさかだ」




