閑話 テルミナとレンティアース
レンティアース視点。
テルミナとレンティアースの邂逅です。
「……」
「……」
白い宮殿の一室。そこでレンティアースはテルミナと対峙していた。ここにいるのは二人だけ。こういった他国の人間と対話する際、必ずテルミナの傍にはグレイズがいる。保護する者としてなのか、単にテルミナ一人では不安だからなのか。否、その両方であろう。
「お久しぶり、と申しましょうか」
挨拶はしたけれど、それ以上の会話が続いていなかった。何となくその理由にレンティアースも心当たりがある。ただそれでは駄目であることは、既にテルミナとて理解しているだろう。アルヴィスとは違うとはいえ、テルミナも国の中枢に置かれる立場にいるのだから。
「お久しぶりです」
「ふふふ、そういう不貞腐れたところも懐かしいですね」
「……ルベリア王国でも話をする機会はあったのに、どうしてわざわざこの国に呼んだんです?」
「相変わらず直情的ですね。そういうところは武神と似ています」
「伝わってくるんですよ。バレリアン様が貴女に対して苛立っているのが……」
マナを介して契約をしている。だからマナを通して契約者に伝えられるのだが、バレリアンはルシオラとは違い、積極的に契約者と対話することを望んでなかった。だから声を聞くことも稀だったはず。言葉にできなくとも、無意識に伝わることもあるのかもしれない。尤もレンティアースとて、神と契約している概要の全てを知っているわけではないのだけれど。
「武神は私のことが嫌いですから。貴女も、私のことを苦手だと感じているでしょうけれど」
「……知っているのにどうして私を呼んだんですか? グレイズ様と共にスーベニア聖国に来いだなんて」
「本当はルベリア王国で見かけた時にお話をしようと思いました。でも、あの国では少々都合が悪いこともありましたので」
「都合が悪いってどういうことですか? あの場であればアルヴィス陛下もいたので、その方が都合が良いように思いますけど」
そう、アルヴィスもいる場の方が都合が良い。それは間違ってはいない。けれど別の要因が邪魔をしていた。その一人を今回はここに招いている。
「あの国には、鼻が利く者たちが少なからずおりますので」
「鼻?」
「アルヴィス陛下の傍にもそういう方がいらっしゃいます。そういった中で、あの方を揺さぶるのは都合が悪かったのですよ」
「意味がわからないんですけど」
首を傾げるテルミナは可愛らしい。ただテルミナの傍にもいるのだ。鼻が利く人間が。ザーナ帝国の皇太子が。それでも彼と共にでなければテルミナを招くことはできなかった。スーベニア聖国であれば、ある程度の無理もまかり通る。レンティアース自身がそうそう何度もこの地を空けることができないと言う理由もあるけれど。
「過ぎたことはもういいでしょう。過去を変えることはできません。もしもの話をしても建設的ではありませんので、貴女と話をしたかったのは別の話題です」
「何ですか?」
考えることもなくテルミナは即座に言葉を口にする。ザーナ帝国の貴族との関わりはまだ多くはないけれど、それでもテルミナの言動が貴族令嬢のそれとは違うことはわかった。仕草はそれなりに学んできているようだが、会話の中での間合いの取り方はどちらかといえば平民たちに近いものだ。思ったことをすぐに口にする。会話を探っている様子も見受けられない。よく言えば素直で正直、悪く言えば考えなしという判断を下される部類だ。
「それでも私にとっては心地よいものですね」
「だから何がです? 一人で納得して話を進めないでもらえますか?」
「独り言ですよ。気にしないでください」
「口に出しているということは聞いてほしいということだからですよ。誰かに聞いてほしいから口に出るんです。気にしないでというのは、単なる見栄でしかありません」
ああ言えばこう言う。本当に懐かしいやり取りだ。これではザーナ帝国の貴族令嬢たちの中で浮いてしまっている事だろう。テルミナの言動は真っすぐだから。正しくとも指摘されれば面白くない人間だっているというのに。
「言っておきますけど、私だって帝国ではもう少し大人しいです。ただ……貴女の前で取り繕う必要はないって思っているだけですからね」
「そうなのですか? てっきり、あちらでも同じように振舞っているものだと」
「私がヘマをすればグレイズ様が悪く言われるんです。別にあの人がどう思われようといいんですけど、それが私の所為でってなると……それはそれで嫌じゃないですか」
「いずれ皇太子妃となる貴女の言動は、その夫君に当たる皇太子殿下の評価にそのまま繋がるのは道理です。なるほど、貴女もこちらでは良い関係を築いているのですね」
武神としてではなく、テルミナ自身として繋いだ縁。テルミナも帝国では大事にされているのがわかる。生来のものを壊すことなく、それでいて必要に応じて振舞えるようにと。それはおそらく皇太子であるグレイズの采配なのだろう。
「テルミナ様、私が貴女をここに招いたのは貴女にもお願いしたいことがあったからです」
「ならさっさとそれを話してください」
「……」
「何です?」
これが単なる保険になるのか。それとも現実となるのか。それはレンティアースにもまだわからない。ただテルミナに、バレリアンに告げなくてはならないことだ。そうでなければ終わらない。かの者の憎しみから救われることはない。
レンティアースは剣呑な眼差しでテルミナを見つめる。相対するテルミナが息を飲んだのがわかった。
「貴女たちはルシオラをその手にかけることができますか?」
「え……」




