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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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14話

10巻の書影が公開されました!

今回も素敵なイラストを凪先生に描いてもらいましたので

是非ともご覧いただきたく(*´ω`)


 サリージュと別れ、アルヴィスは執務室へと戻ってきた。深く椅子へと腰を下ろし、背中を預けながら天井を仰ぐ。


「今更、罪悪感なんて抱きはしないが……この先、公国がどうなるか次第だな」

「お疲れのところ申し訳ありません。陛下、今お時間宜しいでしょうか?」


 一休みとまではいかないまでも、気を抜きそうになっていたところにやってきたのは宰相だった。多少足の運びが駆け足気味になっているところを見ると、急ぎの要件なのだろう。アルヴィスは身体を起こして宰相と相対する。宰相は執務机の前に立つと、持っていた資料をアルヴィスの前に置いた。


「これは……」

「ザーナ帝国からの情報です。ザーナ帝国の皇太子殿下は既にスーベニア聖国へ向かっているはずですので、出立前にこちらへ送ったのかもしれません」


 正式なルートで送られたもの。書簡ではないので、帝国名義ではない。あくまでグレイズ個人からアルヴィスへのものなのだろう。手に取り、紙面へとアルヴィスは視線を滑らせた。


『アルヴィス殿は夢見を信じますか?』


 唐突に始まった文面には虚をつかれてしまう。だがその先を読み進めてみれば、その内容はテルミナの発言によるものらしい。スーベニア聖国へ来てから、時折テルミナが黙ったまま宮殿を見上げていることがあるという。話しかければ普通に返事はする。けれども気が付けば、再び宮殿を見ていると。ということはこの手紙を書いている場所は帝国ではない。


「どうやら帝国からではなく、スーベニア聖国から送ったものらしい」

「確かにザーナ帝国は我が国よりもスーベニア聖国への距離は近いですが」


 エリナもザーナ帝国を経由してスーベニア聖国へ向かった。それにスーベニア聖国へと助けを求めた元マラーナ貴族も、ザーナ帝国へ渡ったという。自国民ではなく、マラーナ貴族として最後まで務めを果たさなかった連中だ。どういう末路を辿ったかは考えるまでもない。


「……」

「どうかされましたか、陛下?」

「いや、ちょっとな」

「?」


 テルミナがスーベニア聖国の宮殿を気にかけている。その表情がどこか寂し気だというのがグレイズは気になって仕方がないと。その理由を、アルヴィスは知っている気がした。スーベニア聖国に向かったことはないし、あの国の宮殿がどうなっているかなど知識としては知っていても、その姿を目にしたことはないのだ。それなのに、宮殿には何があるのか。アルヴィスはそれを()()()()()


 白亜の宮殿。その奥に安置されているのは二つの像。男と女のもの。ただ女の像は耳が尖っている。今ではほとんど見ることもない長耳族の特徴。空想上の存在かもしれないといわれているくらいには、その存在は怪しまれている種族だ。ただ、アルヴィスはそれが実在していると確信していた。

 脳裏に浮かぶ記憶が蘇ってくる。まるでその場にいたかのようにそれは鮮明だった。


『ルシオラ』

『ごめんなさい、私はっ……』

『いいのです。私たちは信じていますから。その時が来ることを』


 長耳族の女性がふわりと微笑みながら身体を抱きしめてくる。このぬくもりは忘れてはいけないのだと、そう心に決めた。その隣にいる男性も覚悟を決めた顔で立っている。時間を稼ぐために、各々が力を尽くすと決めた。


『私もすべてを捧げます。未来のために……貴方たちの犠牲を無駄にしないために』

「陛下?」

「……悪い、考え事をしていた」

「スーベニア聖国のこと、何かザーナ帝国皇太子殿下は仰っておりましたか?」


 グレイズの手紙はテルミナの様子と、スーベニア聖国の状況が綴られているだけだった。おそらくグレイズはテルミナの様子をアルヴィスと共有したかったのだろう。同じ契約者として、アルヴィスも思うところがあるのではと。もしくは同じようなことに心当たりがあるか、といったところか。


「近いうちにエリナとも会うだろう。その時、エリナからも連絡が来るはずだ。それを待つ」

「返事はされないのですか?」

「あぁ。グレイズ殿はいつだって返答は不要と言っているからな。あくまで俺に伝えることが目的で、それに関する返答は期待していない。というよりも、その答えを求めてグレイズ殿自身が考えたいのだろう」


 誰かに答えを教えてもらうことを良しとはしない。皇太子でもあるが、グレイズは研究者だ。誰かが持っている答えがあったとしても、そこには自力でたどり着きたい。だからアルヴィスに情報を提供するということは、次に会った時には答え合わせを、という意味が含まれているのだ。ヒントはテルミナ一人で事足りると。というよりも、アルヴィスはほぼ答えに近いものをもっているので、それでは面白くないのかもしれないけれど。


「……陛下と皇太子殿下は不思議な関係を築いていらっしゃいますな」


 そうかもしれない。お互いに次期王同士ではあった。ただお互いにアルヴィスは騎士、グレイズは研究者という別の顔を併せ持つ。全く正反対ではあるのだが、それでも気が合うというのだろうか。これまで出会った友人たちの中でも、誰よりも近しい立場にあり考えにも近いものを感じる。だというのにその本質は正反対だ。友人のシオディランともまた違う関係性だと、アルヴィスも感じている。守るべき国は違うので、決して信頼だけでは成り立つことのない。それでも……マラーナで共にセリアン宰相と立ち向かった経験は忘れることのできないものだ。だから断言できる。


「彼は信用できる友人だよ……この上なく。テルミナ嬢も含めてな」


 今この時、グレイズがスーベニア聖国でテルミナと共に何を目撃するのか。そしてエリナはどんな情報を持ち帰るのか。それが少し怖く、楽しみでもあった。


「宰相、アンナを呼んできてもらえるか?」

「侍女殿を?」

「あぁ。ちょっと頼みたいことがある」

「承知しました」




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