13話
主人公視点戻ってきました!
来月発売の10巻ですが、予約開始しているところもあるみたいですΣ(゜Д゜;≡;゜д゜)
特典などの公開はまだですので、
情報解禁されましたら活動報告にも詳細をのせたいと思います。
続報まで今しばらくおまちくださいm(__)m
「この度は私どもの不始末に、巻き込んでしまったこと誠に申し訳ございませんでした。度重なる数々の非礼・言動、慎んでお詫び申し上げます」
応接室ではなく謁見の間という場でアルヴィスが対面していたのは、サリージュだった。先日の元婚約者の件で改めてお詫びをさせてほしいと言われたためだ。色々な情勢が重なったにしろ、事を起こしたのはウェーバー公国の人間。そしてサリージュは彼を監督する義務と責任があった。二人の関係、そして元婚約者の言動から判断するに、サリージュが彼を制御できるとは思えないけれど、それとこれとは別問題だ。ただアルヴィスにはそれを利用したい意図もあったので、敢えて挑発したとも言える。全てがサリージュに責があるわけではない。
「顔を上げてくれ」
アルヴィスがそう告げると、明らかに顔色の悪いサリージュが顔を上げた。こちら側の意図など伝えていないので、他国で自国の人間が騒動を起こしたとすれば当然と言える反応だ。この反応に、ふとアルヴィスの脳裏に過ったのは一昨年の建国祭で騒動を起こしたマラーナ国の王族二人だった。彼らは反省などしなかったし、逆に己の権利を掲げて脅しまがいのことまで仕出かした。あそこまでとは言わないまでも、サリージュも他国にいる以上、弱い自分を覗かせてはならない。たとえ、どちらに非があろうとも。そういう意味ではサリージュの態度も、まだ公女としては未熟ということになる。
「公女からの謝罪は受け取ろう。ただ……必要以上に遜る必要はない」
「……ですが、私どもは浅はかにも罪がある立場でありながら、その相手に縋ろうとしているのです。これ以上の無礼を働いてしまえば、すべてを拒否されても致し方がありません。ましてやあの方は私の婚約者でもあった方です。私とは無関係ではなく、ましてや公国が仕組んだものだと言われても、私にはそれを覆すだけの証拠も何もございません」
「失礼だと分かった上で尋ねるが、あの者にそれだけのことを考える頭があると思うか?」
公女と並び立つとされた相手に対して、かなりの失礼な言い方だ。だがそれが怪しく思う程に、彼の言動は公として立つ者に相応しいモノとは言えなかった。己、公女、そして公国。各々の立場を考えれば、あのような振る舞いなどできるはずもない。どこかで我を優先とする考えがあれば、その時点で相応しいとは言えないだろう。国を預かる者として、貴族としても、我を出し過ぎてはいけない。まず優先するのは公であるべきなのだから。
「……いえ」
暫く逡巡した後、サリージュは首を横に振った。ならばそれが答えだ。
「公女が指示を出していないことは明白だ。別の人間という線がないわけではないが、そういう意味でこちらでも監視をつけさせてもらっている」
「はい……」
「謝罪以外の言葉は必要ない。推測に過ぎない言葉であっても、この場所では公女の正式な言葉として残されてしまう。その辺りについては別室で話すとしよう」
「……承知、いたしました。申し訳ございません」
サリージュの中には、彼に対する情が残っているのかもしれない。それが罪の意識なのか、親愛としての情なのかはともかく。
応接室に移動したアルヴィスは、サリージュと改めて対面していた。サリージュ側は一人だが、アルヴィスの背後にはレックスが控えている。
「先ほどは失礼をいたしました」
「構わない。ただ、私としてもあまりに加害者だという在り方をされても困るというのが本音だ」
「それは……ですが」
「マラーナで起きたことはそろそろ切り替えて欲しい。国としての謝罪は何度も受けている。何より、私は無事だ。マラーナも責任を取り、国家という体裁を失った。いつまでも引きずり続けていては、変わるものも変えられない」
今すぐ忘れろとは言わない。それが難しいのはアルヴィスとてわかっているし、正しい感情だと理解している。それでもそこから離れなければ、話し合いの場にすらならない。今の状況と同じ土俵に上げてはならないのだ。
「公女、感情を政治に反映してはいけない。人として思うことはあれど、国の代表として話すのであれば割り切ってほしい」
「……それは厚顔無恥ではありませんか? あのようなことを仕出かしておきながらと」
「それができるのは、我々ではない感情のままにあることができる者たちがすること。公として在る私たちには当てはまらない。少なくとも私はそう考えている。尤も、いつまでも過去を蒸し返すことが良いこととは個人的にも思わないが」
過去にしてしまえるほど時が経っていないのであれば無理もない。感情は誰かによって制御されるものでもないし、できるものでもない。だがそれを言ってしまえば、いつまで経ってもそこから変わることはできないのもまた事実だ。
だからこそ為政者は割り切る事に慣れなくてはいけないのだろう。感情と切り離す。アルヴィスとしては嫌だと思うことでも、国王としては納得することがある。ならばアルヴィスは後者を選ばなくてはならない。
「その上で、公女は彼の行動が己に責任があると、本当にそう思うのか?」
「……」
「自分が何かをしていれば、彼を止めることができたと?」
公王から伝えられて、サリージュは受け入れた。彼は受け入れなかった。そこに明確な違いが出ている。サリージュは公女としてだが、彼は子爵令息としてではなく彼自身としてサリージュと婚約していた。そこに齟齬がある以上、サリージュが何を言ったところで止められなかった。少なくとも彼の言動の限りではアルヴィスはそう判断するだろう。
「わかりません。私がどんな言葉をかけていれば、彼を止めることができたのか。言葉が足りなかったのであれば私の責任だとは思いますが……でもきっと私の言葉は届かなかったのかもしれません」
「何故?」
「父に言われて、私はそうだと受け入れました。それだけの想いしかなかったのです。そんな想いしか持たない私が紡いだ言葉が、彼に響くわけがありませんから」
「……それが彼と公女の差だろう。今でなくとも、もし婚約が続いていたとしても、その綻びはどこかで出ていたかもしれない」
「そうかもしれません」
表面的には上手くいっているように見える。けれど実際にはどちらかが無理を強いられているかもしれない。それに気づくのは、問題が表面化してからだ。取り返しのつかない場合だってあるだろう。もし彼が本当にサリージュのことを想っているのであれば、ただ遠くでサリージュを見守ることだってできたはずだ。自らの行動がサリージュに影響をするとわかっていたのであれば。
「アルヴィス陛下はお強いのですね。そして理性的であらせられます。ここにきてから、私は自分がとても未熟だと何度も思い知らされました」
強い。そう表現されてアルヴィスは苦笑した。今のアルヴィスがいるのは、大半がエリナのお陰である。己の弱い部分をエリナは知っている。王として在らねばと決意させてくれたのもエリナがきっかけだ。自分を良く知らない第三者からそう称されるほどには、アルヴィスも成長したということだろうか。
「陛下、どうかされましたか?」
「いえ」
怪訝そうな顔を向けてくるサリージュに対し、アルヴィスは笑みを浮かべながら首を横に振った。強がっているわけではないけれど、周りからそう見られているのであればそれでいい。己の弱い部分を見せることができるのは、きっとエリナの前だけだから。




