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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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閑話 知るべきこと

次回はアルヴィス視点に戻ります!


 宮殿内をハーバラと共に見学させてもらっていると、ふと小さな子どもたちの声が耳へ届く。スーベニア聖国の政を行う場所で、子どもの声はあまり聞きなれないものだ。そう訝し気に思っていると、案内役の女性が説明してくれた。


「ここは資質を見極められた子たちが集められる場所なのです」

「資質、ですか?」

「はい。次代の女王となるに相応しいマナの力を持っているかどうか。その世代で最も強い力であり、澄んだマナを持つ者が代々スーベニア聖国の女王となります」


 スーベニア聖国は世襲制ではない。現女王であるシスレティアは未婚であり、その後を継ぐというレンティアースとも血の繋がりがない。けれどシスレティアもレンティアースも、ここで育ったという。資質を見出され、ここで女王となるべく研鑽を続けた。そうして次期女王として指名されて今に至る。


「陛下は名家出身であります。それでも幼いころから親元を離れ、ここで過ごされたのです」

「レンティアース様も同じですか?」

「……いえ」


 レンティアースもシスレティアと同じように名家出身で、それでもここで過ごしていたのかを尋ねると、女性は表情を曇らせながら首を横に振った。


「レンティアース様は不思議な方です。司祭様が突然連れてきたお方ですが、その素性は良く知りません。ご両親もよくわからないままでした。ただそのお力は確かなものでございます。ここでは誰の下で生まれようとも、関係がありませんがそれを抜きにしても、レンティアース様ほどのお方はおりません」

「そうなのですね」


 親の身分も力も無関係。あくまで己の力で定められる。ただ資質があるだけでなく、努力を続けた結果なのだと。親がいない子どももいるため、レンティアースのように連れてこられる子どもも少なくないという。だがそれならば何故、レンティアースについて女性は表情を曇らせたのだろうか。

 気にはなるけれど、エリナは来賓として来ている。国の内情に関わることかもしれないものを教えることはできないだろう。ただわかるのは、女性がレンティアースを神聖な相手として敬っているであろうことだけだ。


「こちらにおられましたか、エリナ様、ハーバラ様」

「レンティアース様?」


 そこへ姿を現したのは渦中の人物であるレンティアースだった。先ほどの挨拶した時と同じドレスではない衣装を纏い、両腕にレースのようなものを巻き付けるようにしながら回廊を歩く姿は、どこか神聖な雰囲気を感じさせる。


「この先は私が案内しますので、下がってよいですよ」

「承知いたしました。それでは皆様、私は失礼いたします」


 女性を下がらせて、三人となる。レンティアースは次期女王という立場なのだが、その周囲に人の姿はなかった。


「お一人なのですか?」

「はい。私はまだ次期という立場に過ぎませんから。陛下のように、常に誰かをというのも苦手ですので、一人で出歩くことが多いのです」


 次期女王であるならなおのこと護衛が必要ではないのか。そうは思うけれど、ここはルベリア王国ではない。スーベニア聖国だ。その国にはその国の考え方がある。レンティアースがそう判断し、シスレティアが何も言わないのであればエリナがとやかく言うことはない。


 そうして宮殿内を案内されると、最後に祈りの間まで戻ってきてしまった。ここはシスレティアと邂逅した部屋だ。


「あの、レンティアース様……こちらは女王陛下の」

「問題ありません。陛下には私から許可を頂きましたので。お二人ともどうぞお入りください」


 その言葉にエリナは思わずハーバラと顔を見合わせる。

 ただの次期女王に過ぎないといいながら、レンティアースの行動はどこか腑に落ちないものだ。己の身は替えが利く。だからその立場を守るための力を誇示することはない。そういいながら、女王の領分であるはずのこの場所には立ち入ってしまう。それこそ次期女王に過ぎないのであれば、入るべきではないだろうに。


「エリナ様、参りましょう。まずはそれからですわ」

「えぇ……そうですね」


 一体、レンティアースは何を考えているのか。言動に一貫性が見られないのは意図的なのか。だが前に進まなければ答えは得られないのもまた事実だ。ハーバラに促されるようにして、エリナはその場所へ足を踏み入れた。

 レンティアースは止まることなく奥へと突き進んでいく。それをエリナとハーバラは一定の距離を保ちながら続いた。やがて足を止めたレンティアースの前には、二つの像が並んでいる。


「エリナ様、この像を見ても何も感じませんか?」

「え?」


 振り返ったレンティアースはそういうと、エリナの下へと近づいてくる。横に並び、改めて像を見上げる様子は、エリナに見るようにと催促しているようだった。レンティアースに続くように像を見つめる。男性と女性の像。ただ女性は耳が尖っており、まるで創世神話に出てくる長耳族のような特徴を備えていた。


「何も感じませんか?」

「はい」


 素直にエリナは応える。この像には何も感じない。ただの像だと、エリナは感じ取った。ハーバラにも確認するが、ハーバラも特に何も感じないという。


「この像がどうかなさったのですか?」

「……ルベリア王の子を宿したのであればとは思いましたが、やはりそこまでの繋がりはありませんか。期待はしていませんでしたけれど」

「レンティアース様?」


 それは一体どういうことだろうか。レンティアースは一体何を言っているのか。ルベリア王というのはアルヴィスのことだろう。


「ここにルベリア王がいたならば、恐らく勘づくはずです。これが何なのか。この傷のことにも」

「……亀裂のようなものが入っているのですね」


 それだけの年数を経過したからだろう。この宮殿は朽ちることはないとされていても、中にある芸術品などもそうだとは限らない。


「この亀裂は、ルベリア王の危機に応じて入ったものです」


 一瞬、何を言われているのかがエリナにはわからなかった。アルヴィスの危機に応じて、亀裂が入った。何度見てもただの像にしかみえない。だがレンティアースが偽りを告げるとも思わない。


「エリナ様、私と少し昔話をしませんか?」

「昔話……それは創世神話のお話でしょうか?」

「勘がよいですね。その通りです」


 むしろそれ以外には考えられない。女神とアルヴィス、そしてレンティアースの間には何かしらの繋がりがある。そこに至って昔話とくれば、創世神話を真っ先に想像する。


「お二人に知っていただきたいのです。そうですね……まずは偽りの神々たちのお話でもしましょう。自らの欲望を叶えるために、愚者となり、人々を偽っている女神と王のお話を」




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