閑話 少女と武神
テルミナとバレリアン、そしてグレイズです。
会話になっていそうでかみ合っていないグレイズとテルミナですかねw
「グレイズ様、本当にあの国に行くんですか?」
「まだ不満がありそうですね。一体どうしたのですか、貴女らしくない」
スーベニア聖国へ向かうことを決めてからというもの、テルミナの様子がどうも腑に落ちない。基本的に物事を深く考えず、物怖じしない性格をしているテルミナだ。皇城で保護してからというもの、それなりに長い付き合いをしているのだが、これほどにありありと不満を見せているのは初めてのことだった。
「皇帝陛下ともお話をして、既にその予定で動き始めています。今更、行きたくないというのは通じませんよ? そもそも呼ばれているのは貴女ですからね」
「……わかってます。けど、あの人苦手なんですよ……」
「苦手? 誰のことですか?」
テルミナが言うあの人。そもそもスーベニア聖国に知り合いなどいないはずだが、その言い方はまるで良く見知った相手がいるかのようだ。グレイズの困惑を他所にテルミナは深く溜息を吐きながら続ける。
「大体、いつだって何もかも見通したように澄まして、結局いまそのツケを払わされているのはこっちなんです。確かに私は武器を振るうしか能がないですけど、それにしたって後から聞かされる身にもなれって言うんですよ」
「……」
「ルシオラ様だって、仕方ないなって風で笑ってましたけど、一番被害を被っているのはルシオラ様なのに」
テルミナが女神ルシオラを呼ぶ時の呼称は、ルシオラ様で間違いはない。ただ今のテルミナからは女神に対するというよりは、より親しい相手に対しての呼び方にも感じられた。
「グレイズ様? 黙ってしまってどうしたんですか?」
「テルミナ、貴女は今何を話していたのかわかっていますか?」
「へ? 何って、あいつがルシオラ様に対しても失礼だって話をしてただけですけど?」
「そのあいつ、というのはどなたですか?」
グレイズの問いかけにテルミナは目を瞬いた。何を問われているのかわからないとでもいうように。自分が何を口にしているのか理解したのかと思ったグレイズだったが、それは次の言葉で否定される。
「……そういえばあいつの名前、何でしたっけ?」
「そっちですか」
「ふぇ?」
「まぁいいです。貴女が話しているあいつというのは、レンティアースという名前ではないのですか?」
「うーん、似ていますけどちょっと違うような気がします」
では一体何だと言うのか。暫く唸り声を上げながら考え込むテルミナを、グレイズはじっと見守る。次はどんな言葉が出てくるのか。それを待っているのだ。
やがて数分ほど考え込んだのちに、テルミナは顔を上げた。
「あ、アースだ。確かルシオラ様はそう呼んでいた気がします」
「女神ルシオラが……では貴女のことは何と呼んでいたんですか?」
「私ですか? バレンですけど?」
バレン。つまりバレリアンのことだろう。今、目の前にいるテルミナはグレイズが知っているテルミナではあるが、どこか意識的なものがバレリアンと混ざり合っている。口調も雰囲気もテルミナであるのに、口から出てくる言葉はテルミナではなくバレリアンのもの。
テルミナであってテルミナではない。この現象をどう捉えるべきか。考えていると、突然テルミナが声をあげて音を立てて立ち上がった。
「ふわぁ!」
「……どうしました?」
「グレイズ様、今、私……変でした?」
「えぇ、変でしたね。ようやく自覚しましたか」
「すみません……なんだか、聖国に行きたくないなって思ってたら色々と流れてきたんです」
スーベニア聖国に行きたくないというテルミナの感情に釣られるようにして、バレリアンの記憶が流れてきたということか。そういう話は初めて耳にする。色々とテルミナと武神との関係性について、憶測を巡らせてはいたがテルミナ自身が自覚していないこともあり、そこを追究することはなかった。
「テルミナ、貴女と武神は一体どういう関係性なのですか? 力を貸すと言った後は、声が聞こえるわけではないのでしょう?」
「そうですね。ただ流れてくるだけで、別に何かを言われているというわけではないですよ」
「……アルヴィス殿もそうなのでしょうか」
もう一人の契約者であるアルヴィスのことを考える。テルミナと同じ契約をしているのだが、その形態はどこまで同じなのか。テルミナのように、目に見えて力が増したということはないということだが、それではどういった恩恵が与えられているのだろう。まさか何もないということはないはずだ。
「アルヴィス様は私とは違うと思います」
「なぜ、そう断言できるのですか?」
「……うまく言えないんですけど、ルシオラ様と大神ゼリウム様は別格なんです。バレリアン様はなんていうか、女神様の矛と盾みたいな関係であくまで力を振るうだけで……神格化された時もそれ以上は駄目だって。でもルシオラ様はなんか色々とやっているみたいです……」
「色々……つまりは神でありながら、力を与える以外のことで何かをしていると」
「たぶん……?」
テルミナは何となくそうだと思っているだけで、実際に言葉で語られたわけではないらしい。ただアルヴィスと自分は違う。それだけは間違いないと。
「その辺りは、スーベニア聖国に行けばわかるでしょうか。レンティアース嬢に尋ねればあるいは」
「まさかあいつに聞くんですか?」
「テルミナ。聖国でレンティアース嬢のことを、あいつ呼ばわりはやめてくださいね」
「……わかってます。でも無駄だと思いますよ」
「何故そう思うのですか?」
「時が満ちたら、とか適当なことを言って誤魔化すに決まってます。もったいぶって、全部を話すわけないですよ。昔からそうでしたから」
昔からの付き合いがあった風に話すテルミナ。ここまでの話しぶりから判断するに、もしかするとレンティアースは……。
「彼女は貴女たちとは違って契約者ではなく、女神ルシオラや武神バレリアンが生きていた時にいた人物、その本人ということですか?」
「だからそうだって言っているじゃないですか」
「言ってません」
自信満々にそう告げるテルミナに、グレイズは頭痛がした気がして頭を抑えるのだった。




