7話
新キャラ登場しました。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
この日、アルヴィスはいつもの気楽な貴族服ではなく、正装に近い服装を纏っていた。右肩に留め具をする形でマントを羽織る。そしてその身があるのは執務室ではなく謁見の間。戴冠式以降、あまり立ち入ってはいない場所だった。
アルヴィスが王座に座ったところで、謁見の間の扉が開かれる。扉の先にエドワルドの姿が見えた。だがエドワルドは中に入るでもなく、後方にいた人物のためにと場を明け渡す。そうして入口に立ったのは、水色のドレスを纏った少女だった。ゆっくりと王座に近づいた少女は王座の下、階段がある前で止まりドレスの裾を持ち上げながら深く腰を落としながら頭を下げた。
「この度は国王陛下に拝謁を賜り、恐悦至極に存じます。ウェーバー公国第一公女、サリージュ・フォン・ウェーバーでございます。私共の身勝手なお願い、受け入れていただき感謝いたします」
「顔をあげて構わない」
アルヴィスがそう声を掛ければ、恐る恐ると言った様子でサリージュは顔を上げた。水色のドレスはおそらくアルヴィスの瞳の色を意識しているのだろう。元々、そういう意図もあって人質のような扱いを受けても構わないとルベリア王国に来たのだから。
真っすぐで艶のある栗色の髪は肩までの長さで、瞳の色は意志の強さが垣間見られるような黒い瞳だった。恐れや不安はない。だが何か理不尽なことを言われようとも断れる立場でもない。その複雑な立場に置かれても尚、真っすぐにアルヴィスを見つめ返してくるサリージュに、アルヴィスは口元を和らげた。
「お初にお目にかかる、ルベリア王国を預かるアルヴィス・ルベリア・ベルフィアスだ。公国の事情は聞いている。暫くはここで身体を休めるといいだろう」
それだけ伝えるとアルヴィスは隣に立っていたザクセン宰相へと目配せをする。宰相は頷くと、サリージュの前まで近づく。
「では公女殿下、ご滞在のお部屋へご案内いたします」
「承知いたしました。よろしくお願いいたします。陛下、面前を失礼いたします」
「あぁ」
立ち上がったサリージュが再び深々と頭を下げた。その後、宰相の後についていく形で謁見の間を出ていくのを見送ってから、アルヴィスは息を吐き立ち上がった。もうここに用はない。王座の後ろにある出入口へと歩けば、先ほどからずっと背後に控えていたディンとレックスも倣うようについてくる。
「ディン、俺は執務室に戻る。その後、夕食は公女と共にする方がいいだろう。そうあちらにも伝えておいてくれ」
「承知しました」
指示を受けたディンが離れ、アルヴィスはレックスと二人で回廊を歩く。その途中で、反対側の回廊にいるエドワルドが見えた。謁見の間には入ってこなかったエドワルドだが、そのまま宰相と共に公女に同行するのではなく、別の客人と共にいるようだ。そう指示をしたのはアルヴィスだ。アルヴィスの指示であれば、エドワルドは不満を覚えることなく従う。だがここから見るエドワルドは、どこか不機嫌さを滲ませていた。
「アルヴィス?」
「エドの様子が少しおかしい」
「ハスワーク? 別におかしいところなんてないと思うけど?」
アルヴィスと同じようにしてエドワルドの姿をレックスも認めていた。ただレックスからはいつものエドワルドにしか見えないと言う。
「我慢している、というより何か不満を覚えているというくらいだ。口に出すことはないとは思うが、よほどの何かを言われたのかもしれないな」
「ハスワークが案内しているのって公女殿下の元婚約者って奴だったな」
「あぁ」
「もしかすると、婚約が無くなったことに不満を覚えているとか?」
その可能性はゼロではない。ただ納得していないのであれば、わざわざこちらに連れてきて下手に動かれても困るはずだ。彼の同行を望んだのはサリージュ自身であるため、その辺りはきちんとサリージュから聞いておくべきかもしれない。
「公女の待遇に納得がいっていないか、こちら側がそのつもりはないといっても、公国側としてはそう在ってほしいと思っていることに不満なのか。いずれにしても当人に聞かない限りはわからない」
「公女に聞くのか?」
「はっきりとしておいた方がいい。こういうことはな」
「……王妃殿下が留守の時でもあるしな」
「そういうことだ」
今頃はリュングベルから船で出発したあたりだろうか。帝国の港町に向かうとしても海路ではまだ時間がかかる。近年、海路では大きな事故も魔物との遭遇も起きていないが、海にも魔物は存在する。だがアルヴィスにはただ何事もなく無事に、と祈ることしかできない。
「王妃殿下は船は初めてだからな、体質とかで目が回っていないといいけど」
「それをいうなら俺も大差ない」
「お前も大概お坊ちゃんだったもんな。まっ、国外に行かせてはもらえなくても仕方ないさ」
騎士団の訓練として海辺、経験も必要だと近海に少し出たことはあるがその程度だ。騎士団に所属していた期間自体が短かったため、船に乗ったのはその一度キリのみ。それもすぐに戻るような距離。船酔いと呼ばれるような症状は経験していないが、近すぎて経験になるかどうか怪しいくらいだ。
「だがまぁ、船の中で酔いが回ると結構きついからな。足元もずっと揺れてる感じがするし、慣れるまでは王妃殿下も大変かもしれないぜ」
「そう、だろうな」
回廊の窓からアルヴィスは空を見上げた。遠く離れていても空は繋がっている。同じ空の下にいるとしても、その場所は遠い。それに加えて何もかもが初めてとなる旅路。体調を崩していないといいなと、アルヴィスは空に向けて願った。




