21話
女神関連の伏線の一部を回収!
可能な限り書籍版とは大筋は変えないようにとしてはいますが、
違っていることも多数でてきておりますので、
書籍版との比較はなしで考えていただけるとありがたいです(^_^;)
私も混乱しないように頑張ります。。。
光が止み、アルヴィスが目を開く。するとそこは真っ白な世界だった。先ほどまでいた祈りの間ではない。
「ここ……前にどこかで」
『吾子』
「ルシオラ……」
粒子のようなものが集まり人の形を創っていくと、そこに現れたのは女神ルシオラだった。何度か邂逅したその姿には見慣れている。そして今日この日、どこかで予感もしていた。ここでルシオラに会うことになるということを。
『久しぶり、ですね』
「えぇ。墓所以来、になりますが」
あの地で邂逅して以来だ。ルシオラの声を聞くのは。
『私に言いたいことはあるでしょうが、それよりもまずは吾子に祝福を与えなければなりませんね』
「これ以上何かを与えられるのは流石に遠慮しておきたいところですが」
契約という形で与えられたもので十分だ。それ以上のものなどアルヴィスは欲してもいないし、必要ともしていない。
『不思議に思うことはありませんか?』
「何を、ですか?」
『あの子、バレリアンと共に在る子に与えられた力。あの子には身体能力の加護があります。ですが吾子、貴方にはありません。貴方に与えた契約の証。それは間違いなく吾子の力にはなるでしょうが、貴方からしてみれば、負わされたものの方が多いはずです』
「……」
確かにその通りかもしれない。契約を交わして何か変化が起きたのか。何度か問われたが、アルヴィスの答えはいつだって否だった。多少マナの気配に敏感になってはいるものの、加護という程のものではない。変わっていないのだ。その後も、その前も。逆に契約を交わして負わされたことといえば、時折アルヴィスを襲うあの痛みだろう。そして視てしまうことがある。空を見上げた時、それが別の世界のものと重なる光景を。誰にも伝えたことはないが、それは確かにアルヴィスを悩ませている。
『吾子、貴方に見せたもの。それはまだ覚えていますか?』
「無論です。ですが……あれが事実であったとしても、俺にはまだ理解できていないことの方が多い」
かつて、ルシオラらが選択したこと。その結果がこの世界であり、今の現状を引き起こしている。それは理解できる。だがそれと符合しない出来事が存在しているのもまた事実だ。
「だからこそ、あのマラーナで起きたことも、俺にはまだ納得がいっていないのだと思います」
『……』
「アルティウム。あの姿、あの力……おそらくは俺とも無関係ではないはずです。あれはルシオラ、貴方の息子ですから」
『吾子……』
「だからこそ理解できません。俺が見せられた過去とは別に何かがある。きっとテルミナ嬢、バレリアンであっても知らないことが」
見せられたものすべてが事実だと思い込めるほど、アルヴィスは女神信者ではない。事実かどうかなど判断はできない。限りなく真実だとは思っているが、それだけですべての行動を決めるほど愚かではないつもりだ。
『そういうところは、あの人からの受け継いだものなのでしょう』
「あの人……?」
『かつて、貴方と同じように私と共に力を重ねてくれた人です。王ではありませんでしたが、その人も吾子と同じ姓を名乗っていました。いえ違いますね、私の加護を受けることが出来るのはルベリア王家を於いて他にはいません。清浄なる巫女を除けば、ですが』
同じ姓というのであればベルフィアスを名乗っていたということか。ルベリアは王族という意味でしかなく、姓という言い方はしない。であるならば、アルヴィスと直接的な血縁関係は薄い。今のベルフィアス家はラクウェルが臣籍降下する際に受け継いだ家だ。
先代はラクウェルからみて、父の大叔父。ベルフィアス家が王家の血が薄まることを危惧し、結婚を認めなかったらしい。それはラクウェルに継がせるためだと。時折そうして、ベルフィアス家は王家の血筋を入れて繋いできた特殊な家だ。ベルフィアス家に婿入りできるのは王家の男児に限られているし、当主と王家の血の濃さによって女児の嫁入りも制限されていく。あくまでベルフィアス家は王家の分家であり続けなければならないからだ。いつからそうだったのかなど知らない。だが、王家の血を絶やしてはならない。それが理由の一つであることは間違いない。もしかすると、それはルシオラの意志だったのだろうか。
『本来ならば、清浄なる巫女が現れるはずでした。いえ、現れていたのです』
「え?」
『ですが、その者は世界を選べる者ではなかった。未だ幼く、力に溺れてしまうでしょう。彼女では無理でした。そうなれば……』
清浄なる巫女。精神的に幼く、力に溺れる可能性がある女性。アルヴィスは確信した。間違いなく、それはあの元男爵令嬢であるリリアンだと。本人も言っていた。自分が巫女になると。しかし、そうはならなかった。リリアンにはできないと、そうルシオラは判断した。
『吾子、その時はもう間もなくやってきます。ですからどうか貴方にも……』
「ルシオラ⁉」
ルシオラがアルヴィスの目の前に降り、その頬を両手で包み込むと顔を近づけてアルヴィスの額へと口づけを落とす。アルヴィスの身体が白い光に包まれた。やがてその光がアルヴィスの右手で形をとる。それは長い剣だった。ルシオラは満足そうに剣をみながら身体を離す。
『やはり吾子にはそれが最も相応しい力なのですね』
「これは?」
『吾子には、既にルベリア王家の異能の力が宿っています。すべてを見通す、すべてを知る力を』
「すべてを見通す、知る力……」
今までアルヴィスが他者のマナを読み取ったり、マナを以て周囲を探知したりなど、己の目の代わりに色々な使い方をしてきた。周囲からは器用だなと言われてはいたが、同じようなことをする者はいなかったし、やろうとしてもできる者もいなかった。まさかそれが異能と呼ばれる力だとは思いもしなかったのだ。ルシオラとの契約で得た力ではない。アルヴィスが元々持っていたものだ。
『今の吾子では、立ち入れない領域があります。ですが……それがあれば可能となるでしょう。貴方を守る力となってくれるはず。どうか、この国をあの子を頼みます』
「……わかりました」
まだ聞きたいことも、わからないことも多々ある。だがもう終わりなのだろう。この邂逅は。
『……ごめんなさい、吾子』
ルシオラの声が遠くなっていく。だが確かに聞こえた謝罪の声に、アルヴィスは苦笑した。今更だ。何を言われようとも、アルヴィスがやるべきことは変わらないのだから。
「っ⁉」
「アルヴィスっ!」
「陛下!」
あの空間から戻ってきた。そう思った瞬間、アルヴィスは力が抜けるのを感じ、そのまま膝をついた。倒れこみそうになるのは免れたが、力が入らない。傍で大司教が肩を支えてくれていたが、それがなければ間違いなく倒れていただろう。複数の足音と共にルークたちが駆け寄ってくると、そのまま顔を覗き込んできた。
「アルヴィス……やはり何かあったのか?」
「……」
答えようと思ったが、それさえも億劫になるくらいの気怠さがある。アルヴィスは何とか緩慢な動作ではあるものの、首を横に振った。だがルークは眉を寄せ、その表情は険しさを増す。悪いとは思いつつも、アルヴィスは苦笑しか返せなかった。
「る、く」
「何だ?」
「わ、るい……すこしだけ」
力が入らない。このままでは歩くことも出来ない。それ以上に疲れた。アルヴィスはそのまま目を閉じ力を抜いた。




