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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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閑話 近衛隊長の想い

ルーク視点!久しぶりですが、前話の流れで予想できたかもしれませんねw


 祈りの間の入口付近。そこでルークらは待機していた。他に参列者がいないとはいえ、未だ戴冠式という盛大な行事の最中だ。気を抜くことはできない。通常ならここで行われる女神への報告は慣例的なものでしかなく、ほんの数分で終わる作業のようなものだ。だが、これがアルヴィスが相手となると勝手が変わってくる。だからこそ、近衛隊としても数人を配置せざるを得なかった。

 女神の奇跡、その寵愛を受けた王太子。それが世間一般的なアルヴィスと女神ルシオラの関係性を謳うものだ。当人は気にもしていないだろうが、立太子で起きた出来事は未だに民衆の中に強い印象を残している。絵物語にもなっているくらいだ。いずれは観劇の題材にもされるだろう。王太子と王太子妃の物語、否、今日からは国王と王妃となる二人の物語は。


 様子を後方から見守っていると、アルヴィスが手を出したのがわかった。そのまま女神像に触れ、定型句を告げれば終わりだ。アルヴィスが何を言っているのかまではここに届いてこない。だがルークは気を引き締める。問題が起こるとすればここからだ。いつでも飛び出せるようにその態勢だけは取っておく。

 すると、アルヴィスの周囲から風が巻きあがったのがわかった。ただそれだけだ。今回はそれほどのことは起きなかったのだろうか。そう思い安堵した時だった。アルヴィスが膝を折るのが見えたのだ。すぐに大司教がアルヴィスに寄り添う。


「アルヴィスっ」


 ルークらも急ぎアルヴィスの下へ駆けつけた。その表情を窺うべく前に回り、ルークは顔を覗き込む。青白い顔をしているが、意識はあるようだった。


「大丈夫か?」


 問いかけにアルヴィスは口を動かそうとしていたが、諦めたように首を横に振る。何かがあったのは間違いないが、話すつもりもないのだろう。それ以上に話すことさえできないのかもしれない。


「る、く」

「何だ?」

「わるい、すこしだけ」


 それだけ告げるとアルヴィスの身体から力が抜け落ちる。大司教の代わりにと背後にいたディンがその身体を抱きとめていた。


「……大司教殿、どう見ますか?」

「わかりません。ですが、ひどく疲れておられるのは間違いないのでしょう。何もなかったとは思えませんが」

「わかりました。ひとまず仮眠室をお借りできますか?」

「無論でございます。貴賓室もありますので、そちらに。本日は夕刻まで出入りは禁じてありますので」


 王冠とマントを外し、ディンがアルヴィスを抱える。ここを出る時にはまた身につけなければならないものだ。本来ならばルークが手に取ることが出来る代物ではないのだが、この場は致し方ないだろう。そのまま貴賓室へ向かい、ベッドの上にアルヴィスを横たえる。


「この日のためにと陛下御本人の疲労も大変なものであるはずですが、時間はさほど残されておりませんね」

「それは当人もわかっているはずです。だからこそ少しだけと言い残したのでしょう。まだこの後も予定は詰まっていますから、陛下が姿を見せないことには意味がありません」


 だからこそ大聖堂での時間も余裕をもって確保したのだ。何も起きないなどとは誰もが思っていなかった。アルヴィス自身でさえそうだろう。それを踏まえた上でのスケジュールだ。今頃、王城ではパーティーが開催されている頃。お披露目も兼ねているため、アルヴィスもなるべく早く顔を出さなければならない場だ。それほど休ませてやることはできない。


「少しばかり、お手伝いをさせていただきましょう」

「大司教殿?」

「特師医の皆さまには敵いませんが、私にも多少の心得はございます」


 それだけ告げると、大司教はベッドの脇に立ち、アルヴィスの胸の上に手を置いた。大司教の手から優しい光が注がれていくのがわかった。治癒を行っているのだろう。今のアルヴィスは怪我をしたわけではない。疲労からくるものだ。それを労わるように、少しでも楽になるようにと大司教はマナを注いでいるのだろう。相手に作用させる使い方は、使用者側の負担が大きくなる。それでも大司教はアルヴィスを回復させることを優先させた。あの状態では歩くこともままならなかったはずで、それが数分で回復するとは思えないからだろう。


「大司教殿、どうでしょうか?」

「……わかりませんが、できる限りのことはやってみます。私の役目はここで終わりですので、問題ありません」

「感謝いたします」


 これを行えば、大司教はもう王城へ向かうこともできず、恐らくは行事に出席できるような状態ではなくなるのだろう。それがわかっていても力を尽くしてくれるという。ルークは大司教へ深々と頭を下げる。

 こういう状況に於いて、ルークは己の生まれを強く感じてしまう。平民であり、孤児であったルークはマナの力が弱い。流れを読むことはできるが、それも鍛錬の賜物だ。気配察知も、観察眼もすべてルークは己を磨いて得たもの。それを誇りに思うし、今の己を認め、信頼してくれているギルベルト前国王やラクウェルらには感謝してもしきれないほどの恩も感じている。だが、こういう場面に置かれてしまえば、どうしようもできない不甲斐なさを感じてしまうのもまた事実だ。

 適材適所というのは常々ルークが口にしている。人にはそれぞれできることとできないことがある。だからこそ、協力することで補い合うのだと。よく理解しているというのに、こういうことを考えてしまうのは、ルークにとってアルヴィスが少し特別な存在だからなのだろうか。

 大司教の反対側に回り、ルークはアルヴィスの顔を見下ろした。初めて会った頃に比べると、良い顔をするようになったとは思う。それ以上に大きなものを背負い込んでしまっているが、それでもアルヴィスならばそれを背負ってでも歩くことが出来るのだろう。

 どれだけ時間が経ったのか。アルヴィスの瞼が揺れた。


「っ……」

「アルヴィス?」


 顔を動かし、アルヴィスがゆっくりと目を開ける。どうやら大司教の治癒が効いたらしい。どこか寝ぼけた様子にルークは思わず手を伸ばし、その頭に手を置いてクシャリと撫でた。


「気分はどうだ?」

「……あ、あぁ」


 目が覚めたアルヴィスはそのまま上半身だけを起き上がらせる。そうして両手の拳を握りしめては開いてを繰り返していた。動きを確認しているのだろう。


「さっきは力が入らなかったってことか?」

「……すまない」

「いやいい。んで、起き上がれそうか?」

「大丈夫みたいだ。大司教、感謝する。ありがとう」

「いいえ。私では大したことはできませんでしたが」

「十分だ」


 ベッドからアルヴィスがゆっくりと立ち上がる。一瞬、ふらついたように身体が揺れた。ルークはその両肩に手を置いて身体を支える。


「悪い、大丈夫だ」

「……本当ならもう少し休ませてやりたいところだが」

「わかっている。これ以上、遅らせるわけにはいかない」

「そう、だな」


 ルークの手を払い、アルヴィスはディンらのところに向かうと、その手からマントを受けとり羽織る。王冠を頭に乗せれば準備は整った。顔色も少しではあるが戻った。親しい身内ならば気づくだろうが、口にする者はいないだろう。それだけ大きな行事なのだから。


「世話になった、大司教。今宵はゆっくり休んでくれ」

「はい、どうかお気をつけて」

「あぁ。ルーク、皆も急ごう」

「……承知しました」


 颯爽と出ていくアルヴィスの背をルークも追った。


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