6話
予定を調整した結果、ベルフィアス公爵領への出立は一月後となった。
アルヴィスは執務室で各部署への最終調整に必要な事項をまとめていた。出発までの間に、整えておかなければならないこと。公爵領で滞在するのは、当然のことだがアルヴィスの生家だ。エリナの体調も鑑みて、到着後には医師の手配をする。ただこの辺りについて、母であるオクヴィアスが全て対応してくれるという。アルヴィスは道中のことだけを考えていて欲しいと。
「全く……母上には頭が上がらないな」
「そうですね」
横でアルヴィスへ資料を手渡ししたエドワルドも頷く。オクヴィアスはアルヴィスの負担を考えてくれたのだろう。視察の名目で訪れるとは言え、アルヴィスにとっては見知った土地。屋敷を抜け出していたこともあるし、領都ならば知らぬ場所の方が少ないくらいだ。そういう意味で今回の視察は、領地を知るというよりも王太子となった視点で改めて見返すということになる。アルヴィス自身も領民も、アルヴィスを領主家の次男、ではなく次期国王という意識を持たなければならない。
「アルヴィス様、そう気を張らなくとも宜しいのではありませんか?」
「エド?」
「確かに、アルヴィス様のお立場は前とは比べ物になりません。ですが、領民の皆はただアルヴィス様がお元気でいる姿が見たいのですから」
「……」
難しく事を考える必要はない。そのまま相対すればいい。エドワルドが言いたいのはそう言うことだ。
確かに気負っている部分は否めなかった。色々とやらかしたこともある場所で、改めて今のアルヴィスの姿を見せることに。
「大丈夫です。その過去があるからこそ、今のアルヴィス様がいるのですから。多少やんちゃなことをしていても、大人になられたのだと思って下さいますよ」
「お前、それは慰めているつもりか?」
「そのつもりですが?」
と言いながらも、心なしかエドワルドの顔が笑っているように見える。アルヴィスは深いため息を吐いた。
「エド」
「何でしょうか?」
「お前も、弟たちも含めてきちんと話をしてこいよ」
「本当に今さらなんですが……アルヴィス様の傍にいるのが当たり前なので、あちらはあちらでケリをつけていただきたいものです」
「だが、エドが俺の傍にいるようになったのも弟たちがまだ幼い頃だろう?」
エドワルド自身もまだまだ幼いと言って良い年齢だった。その頃からハスワーク家の長男としてではなく、アルヴィスの従者としての立場を優先して動いていた。エドワルドから家族の話を聞いたことなどほとんどない。アルヴィスが知るハスワーク家の事情は、大抵がエドワルドの姉イースラからだ。
すでにアルヴィスの傍で地位を確立しつつあるエドワルドをベルフィアス公爵家に戻したいという話ではない。おそらくハスワーク家の家督問題について、エドワルドからも了承を得たい。ついでに弟たちへ兄の顔を見せてやってくれという意図だろう。
アルヴィスが指示でもしなければ、エドワルドは自ら機会を持とうとはしないだろうし、弟らとも会おうとはしないだろうから。
「ともかく、家族には1度会ってこい。イースラも今回連れていく。全員が揃うなんて、この先何度あるかわからないからな」
「アルヴィス様が仰るなら……」
アルヴィスも人の事は言えないし、昔ならアルヴィスがエドワルドに言われる側だった。そういう意味では、アルヴィスとエドワルドは似ている部分もあるのかもしれない。
「今回は領内視察と可能ならば浄化にも付き合いたいが……」
「まさか、あそこにも同行するつもりなのですか?」
「1度見ておいた方がいいだろう? あの地はルベリアでも難所だ。そうそう行ける場所じゃない」
「ですが……」
「父上も、それに護衛官長もいる。心配はない」
アルヴィスがそう言うと、エドワルドは思いっきり眉を寄せた。武官ではないエドワルドはその実力でいえば参加することは難しい。同行すれば、足手まといであることがわかっているから。
「いつものようにディンもレックスも連れていく。まぁ、そもそも父上が許可すればだがな」
「アルヴィス様が王太子として同行したいと申し出れば、如何に旦那様とはいえ拒否できることではありません」
「そうだな」
つまりラクウェルが断ることはないので、行くことは決定事項に等しい。エドワルドは何か考えこむように黙り込んだ。やがて考えがまとまったのか、エドワルドはアルヴィスの前に立つ。
「仕方ありません……その前に弟たちには、しっかりとアルヴィス様をお守りするようにきつく言い含めておかなければ。あとは……」
「お手柔らかにな」
「はい、それはもちろんです」
にっこりと微笑むエドワルド。それはつまりアルヴィスの意見は取り入れないということ。心の中でアルヴィスはエドワルドの弟たちに詫びた。
PCの調子が悪いため、文章書くのに手間取ってしまいました。
キーボード買い換えないとダメかな。。。




