第十四話 奪還
オーク軍を破った私達は、いよいよガーゴイルが支配する領域に入った。既に、数体のガーゴイルが私達を観察しては飛び去っていく。おそらく斥候だろう。警戒しながら軍隊を進行させる。川沿いの街道を通って平野に出ると、向こうに見える空が真っ黒になっていた。
「乃菜様。凄い大きな雨雲があります」
カツエが指を刺す。
「そうね。大雨になりそうね」
どこかで雨をやり過ごさなければならない。しかし、雨雲は凄い速さでこちらに向かってくる。
「おい、おい。あれは雨雲じゃないじゃぜ」
秀光が大慌てで叫ぶ。
「ガーゴイルの大群だ。戦闘準備! 急げ!」
部隊は大混乱した。その中でも鉄砲隊と弓隊がガーゴイルを撃墜するため展開し、フェアリーはイフリートを呼び出した。ガーゴイルはさらに接近し、太陽の光を遮って辺りは真っ暗になっている。
「行け!イフリート!」
イチョウが命令した。イフリートはガーゴイルの群れに突っ込み、身体を膨張させる。それと同時に空で大爆発が起こった。ガーゴイルが装備していた爆玉がイフリートの炎で爆発したのだ。イフリートが接近しただけ、ガーゴイルの爆玉は次々と誘爆する。
ガーゴイルは慌てて爆玉の装備を外し下に落としだした。イフリートは構わずガーゴイルの群れの中をゆっくりと飛び回っている。イフリートの炎に焼かれたガーゴイルの死体がボタボタと雨の様に地面に落ちた。ガーゴイルはイフリートに怯え、逃げ惑い、やがて全てのガーゴイルは視界から消えた。
「おじさん。私達、何もしなかったわね」
「ああ。そうだな」
私達は、余りのあっけない勝利に唖然としていた。
「戻れ! イフリート!」
イチョウが得意げにイフリートを呼び戻す。
「イチョウさん、ありがとう。貴女のお陰で目的を果たせそう。貴女が味方でよかったわ」
私は心底そう思った。
ガーゴイルを破った私達は、そのまま大天使国に入ったが、ガーゴイルの姿はもうどこにもなかった。
その後、私達はリショウの居城を建築しリショウを迎え入れ、大天使国の国王となるため儀式への招待状を各国の国王に差し出した。
ドラゴン国、鬼人国は招待に応じた。リザードマン国はドラゴン国に滅ぼされてもうない。
エルフ国は招待を断ってきた。リショウがエルフ国を見限った事を恨みに思っているようだ。
ドワーフ国、ケンタウロス国、コブリン国は当然出席する。フェアリー国も同様だ。その他、賢者国、ドライアド国、アンデッド国なども出席する事となった。
ガーゴイルの侵略により四散していた天使たちも大天使国に戻り、リショウの国王就任の儀式は盛大なものになった。
ドラゴン国の国王デンシンは十メートルの巨体で他を圧倒していた。配下は一メートル程の小竜が百体。
鬼人国王ジョウセイも頭に一本の角を持ち三メートルを超える巨体だ。ジョウセイも百体の配下を連れている。
賢者国からは国王ホウズを先頭にガマガエルの風貌をもった一メートル程の賢者達が五百体。昔、彼らの祖先は、大天使と協力して、乱れていたこの世界に平穏をもたらしたらしい。
ドライアド国からはエイキュウを先頭に十体。見た目は人間の女性と同じだ。ドライアドは一体のゴーレムを連れて来ていた。それは岩でできた十メートルもある巨人で、ドラゴン国のデンシンと比べても見劣りしない。ゴーレムはドライアドの命令に従い、自動で動く。
アンデッド国からは百体。国王の名はモトジで、文字通り不死の軍団だ。人型の身体で百体の男女が整列した。
「ドラゴン国のデンシンって凄いわね」
ひと際威風を放つデンシンに恐怖心を持って呟いた。
「ええ。鋭い牙を持ち、口からは火を噴きます。身体は硬い鱗で覆われ剣も弓矢も弾いてしまいます」
ヨウテツが言った。ドワーフ国はドラゴンに何度も襲われている。
「大きいのは国王一体だけなの?」
「はい、一体だけです。国王が死んだり、戦闘不能になると、それ以外の小竜が国王に襲い掛かります。そして、その固い皮膚を食い破り、最初に心臓を喰らった者の身体が大きくなり、次の国王になります」
「共食いするの」
「ええ。死体を食べるのも不気味ですが、戦闘不能になり生きたまま食われるドラゴンの悲鳴を聞いた事があります」
恐ろしい習性だ。こんなのをリショウは束ねる事が出来るのだろうか。少し不安になった。
儀式の後、リショウが高ぶった声で挨拶する。
「今日、こうして私は大天使国の国王に即位いたした。これも全て、ここに居る皆のお陰。心から感謝いたしますぞ。特に、ドワーフ、ゴブリン両国を統治する乃菜殿、あなたの功績が一番! 何でも望みを言って下され」
「リショウ様。有り難い仰せですが、今回の戦いでの武功はイチョウさんが一番です。どうか、イチョウさんに一番の恩賞を……」
「おお、乃菜殿は謙虚ですな。普通は我が功が一番と名乗り出るところを……。当然、イチョウ殿にも恩賞は差し上げますぞ。ギリュウや秀光達にも長い間、苦労をかけた。礼を申すぞ」
最後の方はリショウは少し涙ぐんでいた。今までの自分達がしてきた苦労を思い出したのだろう。
それににしても、リショウのイチョウに対する態度は少し冷たい様な気がする。出陣の前にバカにされたのを根に持っているのかもしれない。
リショウは戦場に出ていないため、イフリートの恐ろしさを目の当たりにしていない。このままでは、いけない。
私は儀式が終わった後、秀光に近づいた。
「おじさん。リショウ様はイフリートの怖さを分かっていないわ。イチョウさんをもっと大事にするように言っておいてよ」
「ああ。それは俺も同感だ。よく言って聞かさなきゃな」
秀光はがそう言った時、一人の美しい女性が近づいてきた。
「秀光さん。お久しぶり」
ドライアドの国王、ショウキュウだ。
「おう。久しぶり。相変わらずのぺっぴんさんだな」
「あら、お上手。元気そうね」
「まあな。ああ、こいつは、ドワーフとゴブリン国の国王の乃菜だ」
秀光は私をショウキュウに紹介した。
「知っているわ」
私達は、互いに軽く頭をさげた。
「丁度いい。ひとつ頼みがあるんだ」
秀光がショウキュウを見る。
「なあに?」
「俺が乗ってきた車をドワーフ国まで運んでくれないかな?」
「おやすい御用よ。ゴーレムにやらせるわ」
「えっ。おじさん、車で来たの?」
「ああ。言ってなかったかな。お守りをもらった帰り、車に乗っている時に召喚されたんだ。国道を走っていたら、突然に吹雪になってなあ。前が見にくいなあと思っていたら、突然目の前が林になって、びっくりしたねぇ。それが、ショウキュウのドライアド国さ」
「という事は、リショウ様もドライアド国に居たの?」
召喚獣は召喚主の元に召喚される。
「ああ、ショウキュウに保護されていたんだ」
「できれば、私達の力で大天使国の国王に着けてあげたかったんだけどね。私達じゃあ、力不足でね」
力不足……。私はショウキュウの言っている意味がよく分からなかった。ゴーレムは強力な武器のように思えるのだが……。
しかし、それよりもリショウの事だ。
「ショウキュウさんもリショウ様と親しいのなら、イチョウさんと仲良くするように言っておいてよ」
私が、事情をショウキュウに話すとショウキュウは快諾してくれた。
そんな事を話している内に私はある事に気が付いた。
「秀光。首輪が……」
秀光の運命の首輪がなくなっている。
「ん……。首輪?」
秀光が首の辺りに手をやる。
「おう。無くなってら!」
秀光は気が付いていなかったらしい。ひどく驚いていた。
「ありがとうよ。お前のお陰だな。残念だが、これでお別れだ。じゃあな。あばよ!」
そう言って、秀光は眼を閉じて、突っ立っている。
「おじさん。何してるの?」
私は聞いた。
「決まってるだろ。元の世界に戻るんだ!」
「どうやって?」
「わからんが、首輪が取れたんだから、帰えれるだろう!」
そう言って、秀光は眼を閉じた。気を付けの姿勢を取っている。
「どう? 帰れそう?」
「うるさい! 黙ってろ!」
そう言って、秀光は十分ほど直立不動の姿勢でいたが、やがて諦めた。
「くそ―! 詐欺じゃねえか!」
詐欺も何も、最初から帰れる事を約束されていない。おじさんが勝手に思っていただけだ。
「おじさんは、首輪が取れただけでもいいじゃない。私のは、どうして取れないのよ!」
私の首輪はまだ消えていない。
「まだ、平和になるまでに、ひと悶着あるんじゃないか」
「ひと悶着?」
「エルフ国もこの場に参加していなしな。今日、出席した奴らも このショウキュウ以外 心から喜んでいる奴はいないぜ。みんな、周りの国の奴らを品定めしている」
確かに秀光の言う通り、皆 疑心暗鬼で周りの者を睨み付けるようにしていた。今まで、隣国同士で争っていたのだから無理もない。今日は状況を見定めるために大天使国までやって来たと言うのが、皆の本心の様に思える。この連中をリショウが治めて行くのは、やはり荷が重い気がした。
儀式が終わり、一応、リショウを盟主として認めると、各国の国王は自分の領地に戻って行った。私もずっとリショウの側にいるわけにはいかない。リショウは非常に不安がった。いつ、またガーゴイルが攻めてくるかわからない。
「乃菜殿。今少し、ここに居てくれぬかな」
リショウの気持ちはわからないではないが、そういうわけにもいかない。
「リショウ様。ガーゴイルを撃退するのに十分な兵力は残していきますので、安心して下さい」
リショウをどうにか説得し、ドワーフ国に戻ったが、案の定、直ぐにガーゴイルがリショウの城を襲った。
大天使国にはドワーフとゴブリンの鉄砲三百の全てを大天使国に残していた。
城もガーゴイルの爆玉攻撃の防御として五センチ角の金網を張り巡らせている。城の最上階はガーゴイルを迎撃するため三百人の鉄砲隊が展開できるよう設計していた。
騎狼隊の中の鉄砲組も銀狼から降りて参加している。隊長はキノフジ、当然、名手イッパもいる。ドワーフ鉄砲隊の隊長はアンシュウ、その上に両隊をまとめる秀光を配置した。
射撃は三人一組で行うこととした。一人が射手で二人が準備にまわる。こうすることで、絶え間なく射撃を続けることができる。
ガーゴイルは再び大群でやって来た。
「いいか。引き付けるぞ。撃てって言うまで撃つなよ」
秀光が言う。その間もガーゴイルはどんどん迫って来て、爆玉を投げつけてきた。しかし、十センチもある爆玉は、城に張った金網の上を転がり落ち、あらぬ方向で爆発している。
ガーゴイルが十メートルほどに迫った時、
「撃て―!」
秀光の号令が響いた。至近距離から密集したガーゴイルへの射撃は確実にガーゴイルの命を奪っていく。
「構え! 撃て―!」
辺り一面、火縄銃の煙だらけだが、秀光の号令が続く。その内、火縄銃の銃身も熱くなってきた。
「辛抱だ! 構え! 撃て―!」
構わず秀光は叫び続けた。やがて、ガーゴイルは攻撃を諦めて、退却していった。
私が騎狼隊を率いて、大天使国に駆け付けた時には、もう全てが終わっていた。ガーゴイルの死体が無数に散らばっていたが、城は金網のお陰でほとんど無償だった。
「これで、ガーゴイルも懲りただろう。俺の車がドワーフ国に着いてる頃だろうから、ここはキノフジに任せて、一旦ドワーフ国に戻るぜ」
秀光はそう言って、私と共にドワーフ国に戻った。




