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第十二話 進発

大天使国は、今はガーゴイルが支配している、そこに進軍するまでに、まだ準備がいる。準備が整うまでの間、リショウをドワーフ国に向かい入れる事になった。リショウの屋敷の造営は秀光が中心になって行った。

「屋敷も出来たし、俺はリショウ様を迎えるため、エルフ国に一旦戻るぜ」

秀光が旅支度をして訪ねてきた。

「そう。火縄銃の製造も順調よ。早く帰ってきてね」

「射撃の訓練は俺がいなくても、大丈夫だ。安心しな」

火縄銃の製造はまだ八十丁ほどだが、それを使って、射撃の訓練も始めている。それも秀光の仕事だ。

「分かったわ」

「じゃあな」

秀光は部屋を出ていこうとする。

「あっ、そうそう。リショウのお供の中には、あんたの知り合いもいるぜ」

途中、秀光は振り返って、言った。

「知り合い……? 誰よ?」

「それは、会ってからのお楽しみだ」

そう言って、秀光は出ていった。


 秀光が居なくなって、少し不安を感じる。火縄銃の訓練やガーゴイルとの戦闘の事は、全て秀光に頼り切りだった。ガラは悪いが頼り甲斐のある男だ。

 一ヶ月ほどして、秀光はリショウを連れて帰り、造営した屋敷に入った。ご機嫌を伺いに屋敷に出向く。

私は下座に座り、頭を下げる。一段高い所にリショウが座る。そして、やや後ろに四人の従者が並んだ。

「乃菜殿、頭を上げて下さい」

秀光の声が響く。

 頭を上げて、リショウを見た。大天使というだけあって、背中の天使の羽が付いている。それ以外は人と変わらない。右すぐ後ろは秀光。左すぐ後ろは、私の知り合い……。こいつか……。

「お久しぶりです。乃菜殿」

見るとギリュウがニヤニヤ笑って、見下ろしている。この逆転現象は何? ドワーフ国から追い出したギリュウに、ドワーフ国で頭を下げている。不思議な気分だ。

「ギリュウは乃菜殿に国を譲ったのだったな。国を捨ててまで、私に尽くしてくれる。当代きっての忠臣よ。頼りにしておるぞ」

「はは―。有り難き幸せ」

ギリュウは大声で答え、頭を下げた。

「リショウ様。乃菜様がリショウ様のために、全力を尽くすと申し出てございます」

秀光が、かしこまって言う。

「うむ。乃菜殿、感謝しておりますぞ。それで、私はいつ頃、大天使に成れますかな?」

「はっ。今、大急ぎで準備をしております。後、半年ほどお時間を頂きたく思います」

「おお。半年でよいのか。そんなに早くできるのか。これは、有り難い」

リショウは満面の笑みだ。

「つきましては、通り道となる国々に私達のお味方をするよう、書状を出して頂きますようお願い申し上げます」

「おお、そうじゃな。そうじゃな。今すぐ書くぞ。ギリュウ、紙と筆を持て」

リショウは大喜びでそう言った。

 ドワーフ国と大天使国の間には大きな湖がある。湖の南側にはフェアリー国とオーク国が横たわっている。北側はエルフ国一国だけだ。エルフ国は協力してくれるだろうから、大天使国には容易に辿り着ける。


 リショウとの対面が終わったあと、秀光と二人で今後の事を話し合う事になった。だが、それよりギリュウの事だ。

「なんで、ギリュウがいるのよ」

「エルフ国に世話になっている時に流れて来たのよ。あんたに国譲って、リショウのために駆け付けたって言っていたぜ。でも、あんたら仲が悪そうだな」

私はギリュウとの因縁を秀光に話した。

「なるほど、そういう事か。駆け付けるなら、国を率いて駆け付けろよって、思ってたんだよな。しかし、ギリュウのヤツ、上手くやりやがったな。リショウが大天使になったら、側近のあいつは、ドワーフ国王より一段上だ。ワハハハ」

豪快に笑っている。

「笑っている場合じゃないわよ。リショウはギリュウの事をどう思っているの」

「あいつら、気が合うみたいで、かなり、買っているぜ」

「おじさん。リショウは周りが支えてやれば大丈夫って言っていたけど、ギリュウが支えたら滅茶苦茶になるわよ」

「俺とあんたが居れば大丈夫さぁ」

秀光はかなり楽観主義者である事が分かった。


 その後も準備は着々と進んでいる。私は秀光の火縄銃の訓練を見学した。高い所に上下二つの的がある。

「いいか、ガーゴイルは爆玉を落とした後に、必ず急上昇する。だから、爆玉を落としたあと、少し上を狙って打て」

秀光は熱心に火縄銃の照準の仕方を教えている。火縄銃の爆音が響いたあと、上の的に玉が命中した。

「よし、そうだ。お前見どころがあるなぁ。名前は?」

秀光が褒めている少年をみると、ドワーフ国のスラム街で捕まえたあの少年だ。

「イッパっていいます」

あれから、二年近く経っている。すると、今 十六才ぐらいか。ドワーフ国では戦闘に出る年齢だ。

「イッパか、いい名前だな、精々、気張りな」

「はい。ありがとうございます」

少年は嬉しそうだ。

「おう。乃菜。来てたのか?」

私を見つけて、秀光が近づいてきた。

「順調のようね」

「鉄砲三百丁はどうだ?」

「もうすぐ出来るわ。周りの国はどう? 協力してくれそう?」

「エルフの様子が変だ。軍を出すどころか、領地も通らせてくれそうにない」

エルフ国は大天使国に直接つながっている。そこを通れないのは誤算だ。

「どうして、エルフ国は協力してくれないのよ」

「あんたに対する嫉妬だろう。自分達が失敗した事を成功してほしくないんじゃないか」

「何て意地の悪い奴らなの! 無理やり通ってしまいましょうよ!」

「そりゃあ無理だな。エルフ国と大天使国の国境には()()()()があるからな。エルフの案内がないと、通れない」

「迷いの森? 何それ?」

「迷いの森は迷いの森だ。道を良く知る案内人なしで入ると決して出れなくなる。エルフが居なければ決して通れない」

「じゃあ、どうするの」

「フェアリー国からオーク国を通って、大天使国に入る」

「そっちは、大丈夫なんでしょうね」

「フェアリー国は協力してくれそうだ。オーク国は返事がない。元々、ガーゴイルと友好関係にあるから、期待はしてなかったけどな」

「オークとは戦う事になるのね。で、強いの?」

「オークは五メートルもある巨人でさぁ。ちょっと厄介かもしれねえなあ」

「ええっ。大丈夫なの―?」

「やってみないと分からんが、どうにかなるんじゃないか」

相変わらず楽観的な秀光だ。少し不安になってきた。

「本当に大丈夫でしょうね―」

「おう、心配するなって。それよりも、汗をかいたので一風呂浴びて来るわ。でも、あんたとこのゴブリンソープってのは優れものだなぁ。風呂に入るのが楽しくなるぜ」

「おじさんも、ゴブリンソープ使ってんの」

「ギリュウが勧めてくれてなぁ。リショウも喜んで使っているぜ」

リショウまでゴブリンソープを使っているとは……。製法は第一級の国家機密だ。

「雷に当たると石になるのよ。知ってる?」

「ああ。一度、雷の日に外に出して、固まらせてみたんだけどよ。凄いな―。めちゃくちゃ固くて、しかも軽い。何かに使えないかなぁって思ってんだ」

秀光が言う。製法を知ったら、使いたくなくなるかもよ。私はそう思った。


 やがて、準備は整い進軍の時がきた。

「よし。早く片付けて、元の世界に帰ろうぜ!」

秀光が言った。

「帰る?」

「リショウを大天使にして、この世を静謐にすれば、契約は果たされる。役目が終われば、

お払い箱だ。帰れるだろう!」

「役目を果たせば、本当に帰れるの?」

「まあ、わからんけどな! 俺の希望だ!」

「おじさん。帰りたい?」

「当たり前だろう。家族を置いてきている。二人目の子供が出来てな。神社に安産のお守りをもらいに行った帰りに召喚されたんだ。無事に生まれたかなあ? 会いたいなあ」

秀光は私に安産のお守りを見せた。 

「そうか―。それは、心配だね」

「乃菜。お前は、帰りたくないのか?」

「う、うん。私はいいかな?」

私にも家族はいる。両親と姉がひとり。でも、この世界に来て、私の人生は充実している。

元の世界に戻っても これ程の充実感を得られるとは思えない。

「そうか。人それぞれだな。でも役目は果たさないとな!」

「当然よ!」

私は答えた。

その後、私は秀光と相談して、軍を編成した。

 銀狼は百二十頭を超えるまでに増えている。銀狼には魔導士型ゴブリンとドワーフが騎乗し、六十頭には火縄銃を、残り六十頭には弓矢を持たせた。指揮官はキノフジで騎狼隊とした。騎狼隊には、火縄銃の名手を選抜し、一番の名手となったイッパも当然 騎狼隊だ。

 火縄銃の残り二百四十丁は、甲冑に身を包んだドワーフが装備してドワーフ鉄砲隊とする。指揮官はアンシュウだ。対ガーゴイル戦の主力になる予定だ。

 その他 剣、盾、甲冑を装備し、兵数三千のドワーフ歩兵隊。これはヨウテツが指揮する。さらに、カゼンが指揮する兵数千のドワーフ弓隊。これは、弓、盾、甲冑を装備した。

 戦闘型ゴブリン五百は甲冑を身に着け槍を持った槍隊で、指揮官はカツエ。

 リンツウは、あまり戦闘の才能がないので、兵站を任せた。魔導士型ゴブリンに弓矢を装備させた兵数四千五百のゴブリン弓隊の指揮官にはタキマという者を抜擢した。

 ケンタウロス隊は 兵数三千で甲冑と斧で武装し、ヘイゲンが指揮を取る。総勢一万二千三百六十の軍隊が、先頭に大一大万大吉の旗をなびかせ、フェアリー国に向かって進発した。

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