動き始める過去
亜紗美がどうしても家近くの駅まで付いて来ると言っていたが
何とかなだめて家に帰した
電車の扉にもたれ掛かりながら
今日、わざと見なかったスマホを開く
お昼に沙都美からの着信が一件とメールが一件
《大丈夫ですか?心配です》
そのままスマホを閉じて外を眺めた
日も暮れて外はあまり見えないが
流れる窓明かりを何となく見ていた
駅に着いて電車を降りると
反対側のホームに止まっている電車に乗った女性が沙都美に見えた
『はぁ、病気だな。誰でも沙都美君に見えるのか』
頭を振って階段を登り改札を出た
コンビニで炭酸水とポテチ、おにぎりを買って帰る
家に着くと
ドアノブにコンビニの袋がぶら下がっている
手に取って中を見ると
ゼリーとメモ紙が入っていた
《何度かノックしましたが起きない様なので帰ります》
部屋の中には入り
沙都美が訪ねて来てくれていた事に喜びを感じている自分に気付く
『どんだけ無様な俺なんだ』
そんな自分を振り払いたくて
柳沢にメールを送ってみる
《沙都美君とは順調ですか?》
沙都美にも
《ゼリー受け取りました。有難う》
と、送っておいた
スマホを置こうとしたらすぐに返信が有った
《今から会うんですよ。順調だと思います》
ゼリーとメモ紙をゴミ箱に突っ込み
もう一度スマホを手に取り沙都美に文句を言ってやろうとしたが
自分の送ったメールには既読すら付いてなかった
炭酸水を口に含みゆっくりと飲む
気を抜くと吐きそうだ
それからしばらく見るわけでも無いテレビを付けて眺めていた
どれ位経ったのだろうか
ふとスマホを手に取ってしまった
メールが数件来ていた
1番初めに沙都美のメールを開いてしまう自分が嫌だ
《大丈夫ですか?私、寝てしまっていてメールに気付いていませんでした。明日も辛かったら言ってくださいね》
返信を考えたが
怒る事しか出来無さそうなのでやめておいた
《沙都美さん、終電で帰られました。でもいい感じです。また、ご報告しますね》
柳沢からのメールで夜を一緒に越えて無い事に安堵している
『終電で俺のメールを見て返信したのか。まだ家に着いて無いかもな』
半笑いの自分がいる
《勇輝さん、私は今からでもそちらに向かえます》
気付かなかったが
家に着く前に亜紗美からメールが来ていたらしい
《家で寝てました。返信してなくてごめんね》
亜紗美に送ってもう一件のメールを見る
《ちょっと、どうしても話さなきゃいけない事が有って。急ぎなんだけど明日の仕事の後時間ちょうだい》
水野さんからだった
『どうしたんだろう。まあ、明日なら大丈夫か』
返信しようとすると
ドアを叩く音がした
「亜紗美です。勇輝さん大丈夫ですか?」
『えっ?終電無いよ。そっちが大丈夫か?』
おじさんは凄く混乱していた
「ちょっと待って。今出るから」
慌てて身だしなみを整えて扉を開ける
「大丈夫そうですね。返信が無いので心配しちゃいました」
と、家に入ろうとする亜紗美を抑えながら
「ちょっ、ちょっと待って。何で家まで知ってるんだい?」
「私、先輩と違って同性とも仲良しなんですよねぇ」
「はい?」
「総務の恭子にラーメン一杯で教えて貰いました」
「それってコンプライアンスに問題ないか?」
脇の間をくぐり抜けようとする亜紗美を何とか防ぐ
「ウチの会社、緩いですよねぇ。助かります」
「ちょっと、解ったから、、、ファミレスでも行こう」
「入れてくれないんですか?帰れないですよ私」
「タクシー代は苦しいので。漫喫代で手を打ってくれないか?」
「それ位自分で出しますけど。押し掛けて追い出された女子のプライドはどうしましょう。[女に恥]を欠かせてますよ、勇輝さん」
「いや、流石に家に入れるのは不味いでしょう。もう、色々とゴチャゴチャになりすぎちゃって心も身体ももたないよ」
「身体がもたないなんてエッチな勇輝さんですね」
「揶揄ってないで、、、行くよ」
扉をなんとか閉じて鍵を閉める
「取り敢えずパフェ食べに行こう」
「ケチ」
「いや、ケチじゃ無いでしょ」
そう言って歩き出した2人は自然な笑顔で笑っていた
亜紗美はパフェを食べてタクシーで真っ直ぐに帰って行った
少し寝るのが遅くなったが
朝、眠い目を擦りながら何とか通勤をしている
改札を出て会社のビルに人の流れにのって歩いて行く
不意に腕を掴まれ
『んっ?亜紗美くん?』
と、思い振り返る
そこには見た事が有る
色白な黒い真っ直ぐな長い髪の
細身のあの女子高生がいた
「私は亜紗美って名前では無いですが」
どうやら声に出ていたらしい
「申し訳ない、何の用かな?」
「女性にモテるんですか?、、、まあ良いです。勇輝さんで間違いありませんか?」
「はい、そうですけど」
遠くに亜紗美が見えていた




