表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mousse chocolat framboise 〜 おじさんのお話 〜  作者: カフェと吟遊詩人
46/55

雑踏の中で

部屋の入り口近くの席に菊池さんと同じ部署の陣内が来ている


その席に座っているのは沙都美だ


歳の近い2人は楽しそうに会話している


さっきから沙都美に用事が有り話しかけたいおじさんだが


タイミングを逃していた


仕方なくパソコンを閉じ席を立ち


部屋を出てエレベーターホールに向かった


出口付近で沙都美の笑う声が聞こえたが


とくに振り向くこともしなかった




建物を出て真っ直ぐに駅に向かった


突然だったが


柳沢の上司から呼び出しがあった


2つ目の仕事の担当者を紹介されるらしい


今日は柳沢は用事が有るらしく不参加らしい


沙都美を連れて行く予定だったが、、、


嘘だな、、、連れて行きたく無かったが、、、


柳沢が居ないとわかり


連れて行こうと声を掛けようとしていた


『邪な考えはうまくいかないな』


そう思いながら改札を通り電車を待つ


スマホには沙都美からメールが来ていた


《どこかに行かれるのですか?》


返信に悩んだので


見てないフリをして電車に乗った


何か手持ち無沙汰でスマホをいじり


亜紗美にメールをした


《そちらは仕事は順調かい?オレは1人で仕事先だよ》


『なぜ、ワザワザ1人と書いたのだろう。


自分、、、そういう人間なのかな。。。』


そう思うと


ちゃんと沙都美に返信をしておかなければと思いメールを打った


《ちょっと仕事先へ。忙しそうだったので1人で行ってくるよ》


スマホをポケットへねじ込み


仕事先に向かった




返信を見た沙都美は少し焦っていた


忙しい、、、いや、ただ陣内と話していただけだ


しかも仕事中に世間話を


『勇輝さん、呆れたのかな?怒ったのかな?』


メンヘラの疑いのある沙都美は上司の元は歩いて行く


「勇輝さんに、、、私が悪いんですけど、、、置いて行かれたので、、、追いかけて行っていいですか?ちゃんと仕事します。スミマセン」


自然と上の人に良い子に見られようとしてしまう沙都美


学校の先生にも気に入られる為に仲良くなろうとするタイプ


勇輝がやっている仕事にノータッチな上司は


「その仕事はお前ら2人に任せてる。何かあったら勇輝の責任だ。勇輝に聞け、必要なら行ってこい」


「わかりました」


そう返事をし勇輝に電話をかけてみたが出なかった





沙都美はスマホを取り出し


柳沢にメールをした


《今日は勇輝さんとのアポありましたっけ?》


送信して


上着を持って会社を出た


ほぼ小走りで駅に着くと電車に飛び乗り


スマホを見る


おじさんからも柳沢からも連絡は無い


《どこに行ってますか?課長の許可を取って外に出ました。連絡ください》


そうおじさんに送って


扉近くにもたれ掛かる


電車は空いていて


席も空いているが


座る気になれなかった




電車を降りて


柳沢の働く会社の前に立った沙都美は


どうする事も出来ない自分に気付いた


アポも取ってない取引先の会社に突然訪ねるわけにもいかず


たとえ中におじさんが居たとしても後から自分が行くのは明らかに変で、、、仕方なく駅の方へとゆっくりと歩いて戻った


駅の入り口近くのベンチに座り行き交う人を見たり


スマホに連絡が来ないかチェックしていた


そうして15分くらい経っただろうか


《今日は勇輝さんと約束はしてないけど、上司が会ってると思う。何かあった?》


《有難うございます。大丈夫です》


柳沢からメールが有り


この駅で待っていれば会えると確信を得た


さらに20分位するとおじさんからメールがあった


《打ち合わせ終わりました。今、取引先を出て歩いてるんだけど、どこにいるんだ?》


メールを見て


周りをキョロキョロと見ていると


遠くにおじさんが見えた


《見つけました》


そう返信して


沙都美は駆け出した


走っている沙都美を見て周りは少し変な顔をしていたが


沙都美は真っ直ぐにおじさんのいる場所に走って行き


周りの目も気にせず抱きついた


「ちょっとどうしたの?ここはちょっとヤバイよ。。。」


そう話すおじさんの声を全く聞かず


胸に顔を埋めている


『いや、取引先の近くだし。。。柳沢さんがいたら君も俺も何て話すんだ???』


そんな事を考えてしまう自分がおかしいのかも知れない


沙都美は周りの目も気にせずおじさんに愛情表現をする


メンヘラのけが強い沙都美ならではなのかも知れない


暫くして沙都美が胸から離れると


少し人の少ない場所に移動して


おじさんはゆっくりと話し出した


「次の仕事の話をしていたんだ」


沙都美はゆっくりと頷く


「一つ目よりは規模の小さい仕事だけど、2つ合わせると、まあまあな仕事量になると思う」


「はい」


静かに沙都美は返事をした


おじさんの顔をゆっくりと見ている


おじさんの目は沙都美を見たり行き交う人を見たりしている


「課長にもう2人バックアップで手を貸して貰えないか聞いて見ようと思うんだ」


「大丈夫です。私頑張りますから、、、2人で出来ます。。。」


「、、、確かに沙都美君は優秀だから頑張れば出来ると思う。。。でも、他の方法も有ると思うんだ。沙都美君には今までの事務の仕事も有るし。。。」


「私、、、出来ます。。大丈夫です」


「一つ目の仕事はもう後は問題が起きなければ柳沢さんと状況確認しながら進めて行くだけだし、、、1人誰か付けて貰って、、、沙都美君とその子で2人でやって貰って。。。2つ目の仕事を俺ともう1人でやったら1番効率良く進むと思うんだ。。。多分、課長も柳沢さんもそれで良いと言うと思うから、、、確認を取っておくよ。。。」


『俺は何を言ってるんだ?もう、沙都美と別れるつもりなのか?柳沢さんにこの子を譲ってまた1人の世界に戻るのか?それで俺は大丈夫なのか、、、温もりを思い出してしまった俺は隣に誰も居ない寒さに耐えれるのか。。。今が怖くて状況から逃げ出したいだけなのか?』


沙都美の顔をうまく見れないおじさんは沙都美の腕を軽く掴んで


「さあ、会社に戻ろうか?」


2、3歩、歩いた沙都美は強く立ち止まった


「嫌です」


そう言った沙都美は目に涙を浮かべながら


やや、怒った顔をしている


「どうしたんだい?」


「まだ会社に戻らないし、、、」


荒くなった息を頑張って整えている


沙都美の空気を吐く音が聞こえる


喋ろうとするが中々喋れず


目から涙がこぼれ落ちる


「わた、、、私は、、、ゆ、、、ゆう、、き、、、さんと、、、一緒、、にし、、、ごと、、、す、、るん、、、で、、す」


かなり聞き取りにくかったが辛うじて言葉にした沙都美の両目から涙が流れている


沙都美はおじさんが会社を1人で出て行った時点で何か嫌な予感がしていた


最近、寂しそうな顔をする事が有るおじさん


何とかしたくて会社を飛び出してここに来た


「ぜっ、、たい、、に、、いっ、、しょ、、、なん、、、です」


泣きじゃくる沙都美をどうして良いかわからず立ち尽くすおじさん


周りを歩く人は2人を見ていた


困ったおじさんは


駅と反対方向の


もう少し人が少なそうな場所に


沙都美の手を握って移動した


「えっと、、、さっきのは、、、ダメって事?仕事なんだけど、、、」


「嫌です」


この言葉は全く途切れずに言い切る


「いや、、でもね沙都美君、、、」


「その、、、呼び方も、、嫌です」


少し落ち着いたのか言葉の出かたもマシになってきた


「私は、、、彼女です。。。くんは嫌です。。。仕事も絶対一緒です。。。」


「でもね、、、その方が上手く仕事が回ると思うんだ」


「そんな理屈、、、要らないです。2人で、、、上手くやるんです」


「いや、でもね沙都美君」


「くんは嫌だぁ〜」


そう言ってまた泣き出した


「ごめん、、、わかったから、、、」


「じゃあ、、、一緒に、、仕事して、、くれますか?」


「、、、、え、、、でも、、、わかった、、、」


涙で濡れた顔をしっかりとコチラに向けて目を見てくる沙都美に気圧される


「、、、、ギュッてして下さい」


「ここで?」


「はい」


「ちょっとココでは、、、」


「してくれないと帰りません、、、ココでずっと泣いてます」


「、、、、」


仕方なく沙都美を引き寄せ優しく抱きしめた


胸元でややシクシク泣く沙都美は


おじさんの背中に手を回し


強く抱きしめ


「一緒、、、なんです」


そう言ってしばらく泣き続けた




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ