突然の来訪
慌てて会社を出たもののアポイントメントも取っていない
今までの関係を考えて、先方の社長がそれを許す訳がない
『さて、どうしようかなぁ』
歩きながら考えていると
さっき見た女子高生がまだベンチに座っている
するとその子が顔を上げてビルの入り口を見ている
『誰かを探してるのかな?』
そう思いながらさっきと違い1番駅に近い道で歩いて行く
〜〜〜〜〜
『女性にはやはり甘い物かなぁ、でもあんまりお金無いんだよなぁ』
新丸ビルに自分が大好きだったクロワッサンラスクを買いに来たのだが、お店ごと無くなっていた。
さっき、先方に電話をしてみると
「奥様と社長でお会いになるそうです」
と、快く会って貰えるそうなのでおじさんの心は少し楽になっていた
『うーん、おかめのおはぎも良いけど数が買えないからなぁ。こうなったら無茶してパレドールのボンボンショコラを買うか』
おじさんの会社はなかなかこういうお土産が経費で落ちない。経理のお局様はお局様の中でも最強クラスだ。噂によると会社の偉いさんの親戚と言われている。
地下鉄の出口を出てゆっくりと歩く
足取りは軽い
建物に入り、昨日とは違い会議室に案内される
座って待つように促されたが、何となく立ちながら窓の外を見る
晴天とまでは行かないが、明るい日差しが入って来ている
しばらく待つと社長と奥様、そしてもう1人仕事が出来そうな同じ歳位の《若々しい青年》が入って来た
「突然のアポイントメントを受けて頂き有難うございます」
勇輝はそう言いながら奥様にショコラを手渡す
嬉しそうな笑顔を浮かべながら奥様は
「有難う」
と、昨日とは違い仕事モードの声でショコラを受け取った
社長は不機嫌そうに、そしてやや脅えながら
「昨日の仕事の件だが、こちらの柳沢君が担当になる事になった。よろしく頼むよ」
若々しく、悔しいことにややイケメンで仕事が出来そうな柳沢君が一歩前に出て名刺を差し出す。(悔しいので《やや》イケメンなのだ)
「柳沢です」
「よろしくお願いします」
勇輝は自分の名刺を慌てて探し出し名刺交換をする
「資料、見させて頂きました。わかりやすく、そして綺麗に作られてますね」
「有難うございます」
なんせ、社長がなかなかオッケーをくれなかったので何回作り直した事か、、、、。
「あなたには次の案件も用意してあるのよ。それも柳沢君と進めて貰う予定だけど御社は人員の補強は可能かしら」
「会社の方に相談してみます。誠に申し上げにくいのですが、私には直属の部下がおりませんので上司に話してみないと、、、、」
「わかりました。貴方の上司の方とは昔、弊社の社長がよく揉めていたわね。貴方、電話してその旨貴方から伝えなさい」
「なっ⁈アイツか、アイツに連絡するのか、、、わかった言っておいてやる」
社長と上司が昔何が有ったのか?いや、多分自分と社長と同じ様な事が有ったのだろう。
「有難うございます」
「では、細かい話は柳沢君とお願いするわね」
そう言って社長夫婦は部屋を出て行った
「、、、歳はおいくつなんですか?」
封筒を勇輝に差し出しながら爽やかな笑顔で問いかけて来た
「38歳です。柳沢さんは?」
「37歳です。早生まれなので同学年かも知れません」
「同じ歳ですか?若いですね」
先程感じた感想を素直に伝える
「そうですか?有難うございます。勇輝さんも年齢より見た目はかなり若く感じますよ」
「そうですか?」
めっきり自分をおじさん扱いしている勇輝としては全く信じられない。
封筒を受け取り
「これが先程仰っていた次の仕事ですか?」
「そうです。僕が立ち上げた仕事なんです。奥様に支持して頂き形になってきました」
封筒から資料を取り出そうとすると
「あっ!こちらは一度持ち帰って頂き、今はこちらの仕事を進めましょう」
そう言って、勇輝が作った資料を取り出しパソコンを開いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜
柳沢との打ち合わせで次にやる事がどんどん見えて行き、話がなかなか終わらなかった。
『本当に仕事が出来る人だった。自分が女なら速攻で惚れそうだ』
雑談の中で柳沢が独身で絶賛彼女募集中だと話しているのを聞いてそんな事を思っていた。
建物の出口に向かって歩いていると、若い女性社員が笑顔でこちらに会釈してくれた
『可愛くて愛想のいい子だなぁ』
と、思っていると
「先日はご苦労様でした。本日は弊社の奥様と打ち合わせですか?」
「んっ?」
しばらく固まっていると
「先日、社長室の前でお会いした者です」
「ああ」
小さな顔に所狭しと大くて丸い目、大きめの口、鼻も高い。顔の才能に恵まれた女性だ
「先日は有難うございます」
なんと話して良いかもわからず勇輝は当たり前の言葉を話す
「いえいえ、こちらこそ突然話しかけてスミマセン」
「大丈夫ですよ」
コミュ力の高い人間や自分大好き貴則なんかだと気の利いた事を話して親しくなるのだろうが、只のおじさんの勇気はそんな力量も無く、ビルの出口を出てゆっくりと駅に向かう
ランチ帰りのOLやサラリーマンが楽しそうにそれぞれのビルに入って行く
『ご飯どうしようかなぁ。お金無いなぁ』
ゆっくりと地下鉄の階段を降り
『はあ、会社に戻るにはまだ早いなぁ。別の仕事探さなきゃ』
そう思いながら改札を通った
ホームのベンチに腰を下ろし
『さて、どうしようかな』
そう思って電車を一本やり過ごしていると
隣のベンチに人が座った
『なんだ?隣じゃ無くても空いてるだろうに』
4人掛けのベンチの端っこに座っていたおじさは違和感満載でチラッと隣を見た
そこには何故か沙都美が座っていた
「えっ⁈」