プロローグ:聖女を求める者達
――ヨクアール魔法王国 王都
王都は何事もなかったかのように賑わっていた。人々の表情には笑顔が溢れ、吟遊詩人の小気味よい音楽までも聞こえてくる。まるで不浄という危機なぞ、既に解決されたかのようだった。
「世界の危機だってのに、随分とお気楽だな」
「まったくだ」
呆れた表情で王都の街を見やるのは、勇者一行。パーティの誰もが、平和ボケとも言える街の空気に肩をすくめていた。
「やはり選ばれた者達だけが、この世界を救えるという事か」
勇者の言葉に、頷き合うパーティメンバー。
「よし、みんな、行くぞ!」
「おう!」
勇者一行の声が、王都のメインストリートに響き渡る。希望に満ちた表情で王都門を抜け、聖女探しの旅へと向かった。
そんな彼らを冷ややかに見つめているのは、王都門に控えていた王国騎士団。いくつか並んだ鉄兜の中、彫金を施した兜からくぐもった声が響く。
「……いい気なものだな」
呟くような悪態。だが咎める者は誰もいない。
「名誉に眩んだ者達だけに、任せてはいられない――我らが王の言葉こそ全て」
がしゃりと響く、いくつもの金属鎧。
「ではこれより王命に従い、聖女捜索を開始する」
「はっ」
固く掲げられたいくつもの拳が、それぞれの胸を打ち鳴らす。王国の名を冠する精鋭達。王命を果たすべく王都門をくぐって行く。
ずさりずさりと一揃いの足音が王都から遠ざかって行く。その様子を路地裏から見送っていた者達がいた。
「なんだか物々しいな」
眼帯の男は驚きながらも、ニヤリと口角を上げた。
「どうやら本当に聖女とやらを探しに行くみたいだな」
「噂通りという事ね」
眼帯の男に答えるように、色気のある女が頷いた。
二人に割って入るように、のしりと大柄の男が身を乗り出した。
「ひと稼ぎできそうだな」
「ああ、報酬もたんまりだ」
「乗るんだな?」
「もちろん」
彼らはぎらついた目を合わせ、静かに頷き合う。ここ最近、巷で有名になりつつある賞金稼ぎたち。それぞれが武器を携え防具を身に着けているが、一人だけ非武装の少女がいた。
「そろそろ行こうか」
眼帯の男は振り向き、優しく声をかける。
「……ええ、そうね」
眼帯の男の背後にいた少女は、怪訝な顔をしながら辺りを見渡していた。
「どうかしたか?」
「何か視線を感じたの」
「視線?」
眼帯の男も同様に辺りを見渡すが、ここには彼らしかいなかった。
「気のせいかしら」
「さあな……」
自然と険しくなる二人の表情。眼帯の男が手を差し出すと、少女は強く握り返した。
二人は足早にその場を離れ、仲間の元へと向かって行った。
「勘の鋭いお嬢さんだ」
路地裏の物陰から現れたのは、市民食堂の店主と女店員。街の皆からは明るく朗らかと評判だが、その様子は今は見られない。
「消しますか?」
「必要ない。我らの標的は別にある」
店主は小さく畳まれた紙を開くと、そこには一行だけ文字が書かれていた。
『標的:勇者一行』
女店員の表情が微かに揺れる。
「彼らは救世主ではなかったのですか?」
「余計な事を考えるな。我らは命に応じれば良い」
「はっ」
女店員の声に合わせ、二人の姿はぬるりと物陰へと再び消えて行った。まるではじめから誰もいなかったかのように、痕跡ごと失せていた。
この日、王都に集う者達。
だが彼らの思惑は交わることはない。
ただ“聖女”という名の一点へと向かっていく――
本日お昼頃にEP01投稿予定です。
引き続きよろしくお願いします。




