疑念
ロビーへ戻る
誰も話さない。
椅子が並んでいる。
そこに座る。
空席が二つ。
それだけで十分だった。
芸術家。
正義の男。
もう戻らない。
「始める」
探偵が口を開く。
その声だけが響く。
「今回の件は今までと違う」
「二人死んでいる」
誰も否定しない。
できない
「まず整理する」
机に指を置く。
「芸術家」
「正義の男」
「短時間で二人」
「だが俺は同時ではないと思っている」
「最初に芸術家」
「その後に正義の男だ」
「なんで分かるんだよ」
姉御が聞く。
「分からない」
探偵は即答した。
「だがその方が自然だ」
空気が重い。
誰も納得していない。
それでも。
誰も反論できなかった。
「一つ聞く」
探偵が続ける。
「音だ」
全員を見る。
「芸術家の部屋で聞いた音」
「誰が最初に聞いた」
順番に答えていく。
姉御。
幼馴染。
神父。
そして。
こちらへ視線が向く。
「お前は」
ほんの一瞬。
時間が止まった気がした。
「……みんなと同じくらいだ」
そう答える。
「そうか」
探偵は頷いた。
それだけ。
それだけのはずだった。
だが。
「妙だな」
静かな声。
誰も動かない。
「何が」
姉御が聞く。
「反応が早すぎる」
探偵が言った。
「音から現場までの距離」
「移動時間」
「少し計算が合わない」
空気が止まる。
「は?」
姉御が眉をひそめる。
「どういう意味」
「まだ仮説だ」
探偵は言う。
「だが」
一瞬だけ。
視線がこちらへ向く。
「知っていたなら説明がつく」
誰も言葉を発さない。
ただ。
空気だけが変わった。
疑い。
それが形になり始めていた。
その時だった。
「一つあります」
神父が口を開いた。
全員がそちらを見る。
「芸術家の部屋です」
「何かあったか」
探偵が聞く。
「扉が開いていました」
静かな声。
「それが?」
姉御が言う。
「普通は閉めませんか」
沈黙。
誰もすぐには答えられない。
「……確かに」
幼馴染が呟く。
「違和感ではあるな」
探偵も頷く。
「決定的ではない」
神父は続ける。
「ですが違和感は残る」
「違和感は積み重なる」
探偵が言った。
そして。
視線が動く。
一人ずつ。
確認するように。
最後に。
ほんの一瞬だけ。
こちらで止まった。
すぐに逸れる。
だが。
分かる。
疑いは消えていない。
むしろ強くなっている。
「今日はここまでだ」
探偵が立ち上がる。
「これ以上は情報が足りない」
誰も反論しない。
できない。
会議は終わった。
部屋へ戻る。
扉を閉める。
鍵はない。
意味もない。
それでも閉めた。
ベッドへ座る。
静かだった。
だが。
頭の奥で何かが動いている。
探偵。
疑い。
違和感。
そして。
終わり。
もう。
長くはない気がした。




