表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一章 外の世界

初めての中編連載です。

短編とは少し違う形になりますが、

最後まで読んでもらえたら嬉しいです。

 外に出るのは、久しぶりだった。

 玄関のドアを開けた瞬間、空気が違うと思った。

 重いわけでも、軽いわけでもない。

 ただ、自分の知らない場所みたいに感じる。

「大丈夫?」

 隣から声がした。

 幼馴染は、いつも通りの顔でこっちを見ていた。

 明るい。

 それだけで、少しだけ現実に戻れる。

「……まぁ」

 曖昧に返す。

 本当は大丈夫じゃない。

 でも、ここで引き返すわけにはいかなかった。

 ここまで来たのは、この人のためだ。

「ほら、せっかくなんだからさ。ちょっと歩こうよ」

 軽く腕を引かれる。

 抵抗はしなかった。

 歩く。

 ただそれだけのことが、やけに難しい。

 視線が怖い。

 音が多い。

 全部が自分に向いている気がする。

 でも——

「ねぇ、あれ」

 幼馴染が立ち止まった。

 指差す先を見る。

「……何、あれ」

 それは、明らかに場違いだった。

 建物、というには形が曖昧で。

 でも、ただの物体とも言い切れない。

 巨大な塊。

 黒く、歪んでいて、どこか無機質な——

「要塞……?」

 自分でもよく分からない言葉が出た。

 こんなもの、この街にあったか?

 いや、あるはずがない。

 周囲の人間は——

 誰も、気にしていなかった。

「……ねぇ、見えてるよね?」

 幼馴染の声が、少しだけ低くなる。

「ああ」

 短く答える。

 その瞬間だった。

 頭がぐらりと揺れた。

 視界が歪む。

 音が遠ざかる。

「ちょっと、大丈夫——」

 声が途切れる。

 足元が崩れる。

 ——暗転。

 目を開けたとき、最初に見えたのは白い天井だった。

 見覚えはない。

 身体を起こす。

 頭が重い。

「……ここ、は」

 簡素な部屋だった。

 ベッド。

 机。

 扉。

 まるで最初から用意されていたみたいな空間。

「起きた?」

 振り向く。

 幼馴染がいた。

 無事だった。

 それだけで、少し安心する。

「……ここ、どこだ」

「分かんない。でも私もさっき起きたばっか」

 幼馴染は周囲を見回す。

「ねぇ、他にも人いるみたい」

「……は?」

 その時、扉の向こうから物音がした。

 人の気配。

「行こう」

 幼馴染が先に立つ。

 迷いはなかった。

 扉を開ける。

 そこは広い空間だった。

 ロビー。

 そう呼ぶのが一番しっくりくる。

 中央には大きな机。

 その周囲に並ぶ椅子。

 そして——人。

 すでに何人か集まっていた。

 全員、見知らぬ顔。

 けれど、どこか普通じゃない。

 雰囲気が違う。

「……全員、か?」

 誰かが呟く。

「いや、まだだろう」

 別の誰かが返した。

 視線が交差する。

 探るような空気。

 やがて、全員が揃った。

 ……ように見えた。

 その時、違和感に気づく。

(……椅子、多くないか)

 数を数える。

 一、二、三——

 九つ。

 でも、いるのは八人。

 思考が止まる。

 その瞬間。

 ——ジジッ

 ノイズ。

 全員の視線が一斉に上を向く。

 壁に取り付けられたモニター。

 古い。

 時代に合っていない。

 画面が揺れる。

 そして——

『——聞こえていますか』

 歪んだ声。

 男か女かも分からない。

『あなたたちには、ゲームをしてもらいます』

 ざわめきが広がる。

『参加者は、全員で九人』

 誰かが椅子を見る。

『この中に、一人——殺人鬼が紛れています』

 空気が変わった。

 明確な“敵”が生まれる。

『最も有力なのは——』

 ノイズが強くなる。

『価値観が、イカれている者』

 沈黙。

 誰も動かない。

『では——ゲーム、開始です』

 画面が落ちる。

 音が消える。

 静寂。

 そして。

「……冗談、だよな?」

 誰かが、ゆっくり口を開いた。

 誰も答えなかった。

 この時、まだ誰も知らない。

 ここにいる“九人目”のことを。

 モニターの光が消えても、誰もすぐには動かなかった。

 ついさっきまで確かに“何か”が喋っていた。

 けれど今は、黒い画面があるだけだ。

 静かすぎる。

 呼吸音だけが妙に響く。

「……確認する」

 最初に動いたのは探偵だった。

「この中に一人、“殺人鬼”がいると言われた」

 静かな声。

「そして基準は“価値観がイカれている者”」

「曖昧すぎるな」

 正義の男が即座に返す。

「そんなもの、どうとでも言える」

「その通りだ」

 探偵は否定しない。

「だから問題なんだ」

 沈黙。

「……つまり」

 姉御がゆっくり口を開く。

「誰でも当てはまるってこと?」

「極論、そうなる」

 探偵が頷く。

「ふざけてる」

 正義の男の声が低くなる。

「そんな曖昧な条件で人を疑えと言うのか」

「でも疑わないと死ぬかもしれない」

 小さな声。

 幼馴染だった。

 全員の視線が一瞬だけ集まる。

「……そうだな」

 神父が静かに言う。

「疑うこともまた必要なのかもしれません」

「違う」

 芸術家が口を開いた。

「必要なのは理解だ」

 ゆっくり顔を上げる。

「人がなぜそうするのか。それを見ればいい」

「人が死ぬ前提で話すな」

 正義の男の声が強くなる。

「もう死ぬ前提だろう」

 探偵が割って入る。

「ゲームと言われた時点で、安全は保証されていない」

 空気がさらに重くなる。

(……息が詰まる)

 誰も信用できない。

 でも、一人でいるのも怖い。

「……じゃあどうするの」

 姉御が言う。

 声が少しだけ揺れていた。

「ずっと疑い続けるの?」

「現状、それしかない」

 探偵は迷わない。

「そんなの、持たないよ」

 姉御は小さく首を振る。

「人って、そんな強くない」

 誰も反論できなかった。

「……なら」

 幼馴染が口を開く。

「逆に“信じる”のはどう?」

 一瞬、空気が止まる。

「信じる?」

 探偵が聞き返す。

「うん。疑うんじゃなくて」

 幼馴染は軽く笑う。

「この中に犯人がいるって前提をやめるの」

テスト期間に入るので、しばらくはこの中編を中心に更新します。

短編投稿が少し減るかもしれませんが、息抜きで出すこともあると思います。

最後まで書き切る予定なので、ゆっくり見てもらえたら嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ