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84 孤独な旅 さようならは言わないよ。泣いちゃうかもしれないからね。

 孤独な旅


 さようならは言わないよ。泣いちゃうかもしれないからね。


 ぼくは睡蓮さんに先導されるようにして、古風な客車のドアのところまで移動した。外は相変わらす真っ暗だった。(駅には白いベンチがひとつだけ、ぽつんとみんなに忘れられたかのように、置いてあるだけだった)びゅー、という音がしてとても冷たい風がぼくたちのそばを通り抜けた。ぼくはその風の冷たさに思わずその体をぶるっと一度、震わせた。……いつの間にかぼくの世界から春は無くなっていた。……どうやらここは『春よりも冬に近い場所』のようだった。(あるいは冬そのものなのかもしれない)

「寒い?」と睡蓮さんが言った。「大丈夫です」とぼくは睡蓮さんに返事をした。「本当はなにか、あったかいマフラーか厚手のコートでも貸してあげられたらいいのだけど、私はそれらを持っていないの。……本当にごめんなさい」と(とても悲しい顔をして)睡蓮さんは言った。「いいえ。大丈夫です。寒いのは慣れていますから」とぼくは言った。

 ぼくは真っ暗な地面の上に慎重に一歩ずつ足を下ろして古風な客車から降りると、それから後ろを振り返った。……そこには睡蓮さんがいた。そしてぼくたちの手はまだ繋がったままだった。「あなたは本当に行ってしまうのね」と睡蓮さんが言った。「はい」とぼくは返事をした。「これからどうするつもりなの?」と睡蓮さんが言った。「わかりません。……でも、とりあえず行けるところまで、『歩いて』みようかと思います」とぼくは言った。「歩く?」と睡蓮さんは言った。「はい。歩いて、どこかでゆっくりと眠れる場所を探そうかと思います」とぼくは言った。「眠れる場所?」と(ぼくの顔をまっすぐにみて)睡蓮さんは言った。それからまた「はい。眠れる場所です」とぼくが言い、「眠れる場所」と睡蓮さんが言った。ぼくはそこまで会話をしたところで、すごく心配そうな顔をしている睡蓮さんを安心させるために、にっこりと小さく笑って見せた。

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