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 ……でも、とくん、とくん、と聞こえてくる睡蓮さんの一定の心臓の鼓動を聴いていると、次第にぼくの心は恥ずかしさよりも、一種の安らぎのような感覚を覚えるようになっていった。それはとても不思議な気持ちだった。(なんだか、このまま睡蓮さんの大きくて柔らかい胸の中で、眠ってしまいそうな気持ちになった)

「これからとても大事なお話をします」と睡蓮さんが言った。ぼくは「はい」と睡蓮さんに返事をした。

「人間は後ろを振り返った人から、だんだんと死んでいきます。だからきみは前だけを見続ければいいのです。生きることは本来、そういうものなのです。後ろを振り返るのは、それができるようになってからで構わないのです。前を見ながら後ろを振り返ろうとしてはいけません。そんなことをすればきみの心はきっと、『根元から二つに切り裂かれてしまうでしょう』。……それは絶対にいけないことなのです。どんなに辛くても、そんなことをしては絶対にいけないのです。いいですか?」

「はい」とぼくは睡蓮さんに返事をした。

「……人生は辛いものです。また、自由という言葉もとても厳しいものですね。自由と孤独は同じもの。そして孤独とは死、そのものです。誰しも後ろを振り返れば、そこにはいつも死が待っています。死は後ろを振り返ったきみにきっと優しく微笑みかけるでしょう。きみをそっと抱きしめてくれることでしょう。そしてきみ自身がにっこりと死に向かって微笑みを返してしまえば、死もにっこりと笑って、きみのすべてを包み込んでくれることでしょう。それで、すべてが終わります」

「終わる?」

「はい。すべてが終わるのです」

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