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「きみは人間なのに、どうしてあそこに行きたいって思うんだい?」と古代魚は言った。「だって、きみがいなくなってしまったら、ぼくはひとりぼっちになってしまうから」とぼくは答えた。「一人は嫌なのかい?」と古代魚は言った。「いやだ」とぼくは古代魚に言った。ひとりぼっちになるのは、もう絶対に嫌だった。
「ぼくはどうして魚になっていないんだろう?」とぼくは言った。暖かい風がぼくたちの周囲を吹き抜けた。ぼくはその風の優しさに触れて、危なく涙をこぼしそうになってしまった。
「……人は、自分の姿を選べない。きみが魚になっていないのは、まだきみがそうなる運命じゃないってことさ」
……、運命。それはぼくの嫌いな言葉の一つだった。
「さてと」と古代魚は言った。「じゃあ、そろそろぼくはいかなくちゃ」と言って古代魚はぼくの顔を見た。
「え?」とぼくは驚いた。「もう行っちゃうの?」とぼくは言った。「うん。本来は、こうしてのんびりと群れからはぐれたりしてはいけないんだよ。ぼくたちは彗星に向かって泳いでいく仲間たちの輪の中に入って行って、みんなと一緒に行動して、なるべく集団の意思を崩さないように行動しなくてはいけない存在なんだ」
「そうなの?」とぼくは言った。「うん。そうさ」と古代魚は言った。「ぼくがこうして一人で行動しているのは、きみの姿を見つけたからなんだ。見知らぬ世界で、ひとりぼっちで、迷子になっているきみをね」




