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……、びゅー、という窓の外に吹く風の音が暗闇の中で妙に鮮明に聞こえた。
それからぼくはかなり長い間、その風の音に耳をすませながら、まるで息をひそめるようにして、目を閉じて、もう一度、あの不思議な声の夢の続きを見ることはできないかと努力してみた。でも結局その行為は失敗して、ぼくの意識の中にはずっと真っ暗な闇が存在しているだけだった。
ぼくは試しにその闇の中で「こんにちは」と言葉をつぶやいてみた。でも闇の中から、こんにちは、と返事は返ってこなかった。その闇の中にどうやらあの不思議な声はいなかったようだ。ぼくはそのことに寂しさを覚えた。
それからどれくらいの時が流れたころだろう。そんなぼくの静かな世界の中に、突然、ぽーん、ぽーん、という音が侵入してきた。
目を開けてベットの中から這い出したぼくが柱時計の針の位置を確認すると、それは十二の数字のところを指していた。……また『真夜中の時間』がやってきたのだ。
ぼくはその場で背筋を伸ばして座りなおすと、それからそっと下にいる風の顔を見下ろした。次の瞬間、風はうっすらと両目を開けた。
「……おはよう、猫ちゃん」と風が言った。ぼくは「にゃー」と小さく鳴いた。
ぼくの声を聞いてにっこりと微笑んだ風は、ベットから這い出ると、病室の中をとことこと歩いて移動して、壁にかかっている小さな子供用の真っ白なコートと真っ白な厚手のマフラーを背伸びをしながら手に取った。どうやら風は今日も真夜中のお散歩に出かけるつもりのようだ。大麦先生の注意なんて、風はまるで気にしていないようだった。
「猫ちゃん。おいで」と風は言った。
ぼくは風の腕の中にジャンプをして飛び込んだ。風はぼくをしっかりと受け止めてくれた。「じゃあ、今日も元気に出発しようね」と風は言った。ぼくは風に「にゃー」と鳴いて返事をした。




