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「風ちゃん、起きて」
女性の声がして、風の体がぴくりと反応した。風は体を起こし、ぼくも久しぶりに闇の中から抜け出した。「なんだ。姿が見えないから、いなくなったのかと思ったがそこにいたのか」大麦先生は毛布の中から現れたぼくを見て嫌そうな顔をした。
「おはようございます、大麦先生」
「おはよう、風ちゃん」
「おはようございます、秋子さん」
「うん。おはよう、風ちゃん」
そんな挨拶を交わしたあとで、風の本日二回目の検査が始まった。検査自体はいつもと同じ簡単なものだったが、今回の検査はいつもよりも随分と時間をかけて行われ、しかも同じ検査を数回繰り返して、その正確な数値が複数にわたって、クリップボードに挟まれた紙に記入されていった。検査が長引いたせいなのか、それとも体調があまり良くないのか、検査の間、風はひどく眠そうな顔をしていた。
検査が終わると大麦先生は風に今朝と同じ量の薬を飲むように言った。風は大麦先生に「わかりました」と返事をして、大麦先生と秋子さんは笑顔で病室を出て行った。
大麦先生と秋子さんが出て行ったあとも風はどこか眠そうにしていた。言葉もしゃべらずに、なにもない空間をただぼんやりと眺め続けていた。しばらくして風とぼくはまた二人で一緒にベットの中に潜り込んだ。
とんとん、と扉をノックする音が聞こえた。毛布から顔を出すと、がらっという音がして扉が開いて、そこからトレイを持った看護婦さんが一人病室の中に入ってきた。その看護婦さんは冬子さんだった。
冬子さんは眠っている風のことをとても心配そうな顔で見ていた。
「風ちゃん。起きて。晩ごはんだよ」と冬子さんは言って、まるで蛹みたいに眠っている風の小さな体を優しく揺らした。
風はゆっくりと目を覚まして、冬子さんを見て、いつものように「おはようございます。冬子さん」と笑顔で言った。
冬子さんは夕食をトレイの上に乗せていた。やっぱり献立はほとんど昨日と同じものだったけど、今日の夕食には、バナナがついていた。
風はぼくと一緒に夕食を食べ、特別なお薬を噛み砕いて飲み、歯を磨いて、ベットの中でまた深い眠りについた。風はこのときもぼくをベットの中に「猫ちゃん。おいで」と言って呼んだ。ぼくはまた風のベットの中に潜り込んだ。




