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394 好きだよ。うん。私も好き。大好き。

 好きだよ。うん。私も好き。大好き。


 お腹がすいたので、久しぶりに(少し遅い時間だったけど)墨と二人でらーめんを食べにいくことになった。

 硯は墨よりも少し早くに生まれていて、今年も墨よりも少し早くにお誕生日を迎えて、墨よりも少し早くに十七歳になったので、(つまり年上だった)自分から誘ったこともあったし、らーめんを墨に(お姉さんとして)おごってあげることにした。(墨は私のお誕生日になにもしてくれなかったけど。お誕生日おめでとうは言ってくれたけど。まあ別にいいけど)

 お店はお休みの日に田丸家の家族みんなでよくいく、田丸家の近くにあるらーめん屋さんだった。

「墨はなに食べるの?」席についてメニューを見て、硯は言う。(よくくる常連さんの硯はもう注文が決まっていた)

「味噌らーめんにする。大盛り。それと特製ぎょうざ」とメニューから顔を上げて硯を見て墨は言った。

「私は醤油ちゃーしゅーにする。それとたまごちゃーはん。それに特製ぎょうざ」と嬉しそうな顔で硯は言った。

 注文をして、らーめんが運ばれてくるまで、硯と墨は無言だった。(いつものことだった)

 注文のらーめんが運ばれてくると、いただきますをして硯と墨はあつあつのらーめんを食べ始める。

 うん。いつものやつ。すごく美味しい。

 硯は黙々と醤油ちゃーしゅーを食べる。

「美味しいね。らーめん」と味噌らーめん。大盛りを食べながら、墨は言った。

「そうでしょう。そうでしょう」とまるで自分のことのように嬉しそうな顔で(このお店の常連さんの)硯は言った。

「硯」墨は言う。

「なに?」夢中になって醤油ちゃーしゅーを食べている硯は言う。

「僕、硯のことが、硯と初めて会ったときからずっと好きなんだ。だから僕と結婚を前提にして、お付き合いをしてくれないかな?」となんでもないことを言うように硯の顔をまっすぐに見て、墨は言った。

「ごふ!」と思いっきりむせながら、(大きな音がしたから、顔見知りの女性の店員さんもびっくりして、こっちを見ていた)硯は醤油ちゃーしゅーから顔を上げて、その顔を真っ赤にして、墨を見る。

「高校を卒業したら、僕たち、結婚しない?」

 とそんな硯に墨は言った。

 ……、硯は顔を真っ赤にしたままで口元を紙ナプキンで隠すようにしながら、(たくさん胡椒をかけなければよかった)目を丸くしたままで、無言のままで、墨を見る。

 墨はそんな硯のことを味噌ラーメンを食べる手を一旦止めて、じっと、いつものあまり表情のない、のんびりとした顔で、ただいつまでも見つめているだけだった。


(高校を卒業して、美大生になった硯は卒業作品として、ぐーぐーと鼻を膨らませながら眠っている太っちょの龍の水墨画を描いた。その水墨画は硯の代表作となって、硯は夢を叶えて水墨画の画家になることができた。それからが、もっと、もっと大変だったけど)


 なんだかさ、おめでたいね。


 深津先生の思い出 終わり

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